それから、
いつ見ても邪神ぽい腕輪だなぁ。
シェードから貰った、お手製だと言う妖しく黒光りする幅の広い謎の金属の腕輪。
石は宝石じゃなくて魔石ぽいな。
私の神眼で詳細に鑑定出来ない腕輪って、素材から効果から本当に謎だらけなんだけど。
土台となる腕輪の金属?部分は、黒光りする貴金属であろう輪に蔦の紋様が手首に絡みついてる感じで彫られている。
嵌められた石の色は黒と赤と緑。黒い石の周りを赤い石と緑の石が隙間無くみっちり囲んでいる。
石の光り方も妖しいと言うか、何だろうな、とってもデンジャラスな雰囲気を醸し出している。
でも、他の神の神具も光り方とか呪いの品に見えるしなぁ。
邪神特製腕輪なんて中二心溢れる名前が付いてそうなんだけど、あの強面で照れながら「恥ずかしいからナイショだ」と言われると、突っ込んで聞いてはいけない気がする。
まぁ、いいか。
気に入ったし。
着替える時に外そうとしたら外れなかったけど。
シェードには首輪を強請られたから、私も初めて神具を作ってみた。
見た目は黒い革の首輪で、黒い雫型の魔石を中心に赤い魔石と緑の魔石で挟んだ。
必要があるか分からないけど、即死回避や赤ん坊に怖がられない加護を付けた。大柄で筋肉質で強面だし、何となく必要かなと。
胸筋を惜しげも無く晒す普段の格好によく映える首輪になったと思う。
神具の名前を訊かれたから、思いついたままに『安心の首輪』と答えたけど、もっと神具っぽい名前の方が良かっただろうか。
蜜月期間が明けて、死と誕生の女神の仕事を新婚旅行の間分くらい済ませ、教会を持つ神々に当番制の仕事を頼んでから地上に降りた。
私もシェードも人族の振りはしている。
魔力も気配を消すように適当な量に見せかけて、私は両眼を水色、シェードは両眼を空色に変化させた。
毎度お馴染み、力の神発行の身分証には夫婦で表記してもらって所持している。
今回の身分証の私の性別は、女性だ。
水晶国は、黄煌を国王としながらも実力主義国家として安定したようだ。
実態のない信仰だった水晶の塊を祀る神殿は、鉱物博物館として観光名所になっている。
古代と呼ばれる大戦以前の史実が、少しずつ神託により明かされ、元々知識欲旺盛だった魔人族は、治癒の神以外の教会もせっせと水晶国内に建設して神父や巫女を招いた。
目的が古代以前を知ることでも、熱心に教会に通い祈りを捧げ、記念品のように身分証を発行してもらう習慣が付いたことで、人心と治安が安定するという想定外のオマケがあり、黄煌達の大きな助けになったと言う。
セシルは「美しすぎる巫女」としてワンブック全土に有名になり、姿絵が流通するほどの人気者になっている。
なんだそのキャッチコピー、とは思ったが、この世界の創造主の出身地やミーハーだったであろう性格を思えば納得した。
セシルを一目見ようと治癒の神の教会が観光地化しているが、不埒な輩は姿を見ることも出来ないという噂が流れている。
不審者を発見次第速やかに排除している手練が、たくさん見えない場所に控えているからね。
排除って言っても殺してる訳じゃないよ。少々乱暴にお帰り願っているだけだ。
学園でセシルに懸想していた男達も、懲りずに近づいて来てるらしいから。
もうセシルの異常能力は『治癒の神』の治癒で消えているから、魅了が解けずに追いかけてるのとは違う。
世界的に有名な美女で、神になった王族の財産を継いだセシルに、昔の誼で近づいてモノにしてしまおうと企んでいるんだよね。
そんなの許せないから、排除の仕方が多少乱暴でも止めたりしない。
治癒の神と水晶国の国王と王妃の許可も出てるしね。
人気者になって忙しそうだったけど、会いに行くとセシルはとても喜んでくれて、色とデザインが違うお揃いの服で一緒に買い物をした。
色とデザインが違うならお揃いじゃない?
素材とブランドは同じだから大丈夫。色とデザインは変えないと似合わなかったんだよ。私とセシルじゃ似合うテイストが違い過ぎる。
シェードに貰った腕輪を見せると、「素晴らしい執着心ご馳走様です!」といい笑顔で言われた。親指も立ててた。
邪神ぽさが格好いいと思うんだけど、セシルから見たら執着心がポイント高いのか。
女の子の心は中々難しい。
夜はカラスミを齧りながら辛口のワインを飲んだ。
セシルから船と船員を借りて無人島巡りもしてみた。
大陸にはいない生き物がたくさんいた。
魔物も多かったけど、魔物にしろそれ以外の生き物にしろ、本に載っている種類だけじゃなかった。
監視から逃れた場所では、ワンブック独自の進化が思った以上に進んでいた。
クロが神獣の勤めを終えたら船旅に連れて来よう。蛇漁要員が欲しい。
水晶国から翼の里に使いを出しておいてもらったので、到着すると夜空とクロに熱烈歓迎された。
クロはシェードに尻尾を掴まれて投げ捨てられていたけど。
夜空に、創世神話の狂信者が長い時間をかけて白霜を洗脳状態にしていたこと、生まれ変わった白霜の魂の顛末を伝えると、長いこと目を瞑り、深々と息を吐いた後で頭を下げてお礼を言われた。
万感の思いが籠もった声音だった。
頭を上げて開かれた金の琥珀の瞳は、吹っ切った清々しさがあった。
神となったのですからもうとっくに解消されているでしょうが、と婚約の解消を申し出られて受け入れた。
私は夜空が縋れる唯一の存在だったから、それなりに執着され独占欲もあったようだけど、夜空の愛情は最初から全部、新月にあった。
創世神話の狂信者の行動規則、創造主の意図を聞いて、我々はとんでもないものに巻き込まれていたんですね、と苦笑できるくらいには立ち直ったようだ。
これからは、次の里長が選出されるまで里長を勤め、新月の墓を守りながら、他種族との交流の窓口になるそうだ。
シェードが夜空と悪役みたいな顔で何かコソコソ話していたけど、男同士の秘密に割り込むのも無粋かなと離れていた。
夜空は腕輪を見て、無言でいい笑顔になっていた。
クロは仙境に神社を幾つか建てる計画があるから、資材確保に各地を飛び回っているそうだ。
木材は山から調達出来るけど、金属や玉などは他国から買わなければならない。
水晶国産のものは、クロがクーデターに協力したことでかなり値引いてもらえるらしいが、人族の国との交渉は神獣のクロが表立ってすることは無く、舐められない外見の優秀な部下が代行している。
それでも資金が不足しているから出稼ぎ労働者の選定が急務らしい。
シェードの首輪を非常に羨ましがり、ボクにも作って! とせがまれたので、即死回避付きの黒革の首輪をあげた。
シェードのより幅が細くて石は付けていない。代わりにクロの目と同じ金の鈴を付けてみた。鈴は、半径10メートル以内一時間以内の死を感知した時だけ鳴るようにした。
一応神具だから名前を尋ねられて、適当に『死神の首輪』と中二臭い名前を言ったら、物凄く喜んでいた。え、それでいいんだ?
私がシェードから貰った腕輪には、顔を盛大に引き攣らせていた。口から「うわぁ・・・」とも聞こえた。
あれはドン引きした時の反応だよね。なんで?
私とシェードは、今も教会を持たない神だ。
今後も教会を持つ予定は無い。
破壊と再生も、死と誕生も、司る事象が大事過ぎて、信仰の対象として周知するには躊躇いがある。
教会が持つ権力が大きくなりそうだし、狂信者が新派を作って過激な新興宗教団体が出来上がりそうだ。
政治と宗教のパワーバランスも崩しかねない。
教会に悪い芽が出る度に神父や巫女の力を剥奪するのも切りが無いだろう。
誕生システムが無くなり、魂を持たない神々が消えても、『世界』が『そう創った』部分はすぐには変わらない部分も多い。
神になれるワンブック人は、彼らが自力で進化するまでは『世界』が設定した通り、魔人族の王族男性と神獣だけで、神獣には男しか生まれない。
これから長い間、どうやっても私以外に女神は現れないことになる。
死と誕生を司る上に唯一の女神となれば、権威を借りて悪事に利用される可能性も高い。
それに、私もシェードも誕生や再生も司っているとは言え、死や破壊も司っている。
どっちも邪神扱いしたい人は結構いるだろう。
邪神扱いされれば信者も迫害される。
いらない争いを生む機会を、わざわざ作る必要は無い。
色々な場所を旅したけれど、仙境には足を踏み入れていない。
クロを従属させているし、私やシェードに攻撃できる獣人族など存在しないだろうが、あまり良い思い出の無さそうなシェードを連れて行く気にはなれなかった。
気を遣わなくてもいいとシェード本人に言われているけど、素を晒せば黒瞳の私には面倒事が起きる予感しかしないので、別に行かなくていい。
この、獣人族の本能に定着させられた黒瞳への凶暴な想いも、進化の過程で薄れるだろうか。
新婚旅行中に光の蛇から動画通信が着信したが、邪魔だから切った。
神眼で光の蛇の思考が読めると言うシェードの話では、私が産んだ子供は黒髪黒瞳になる可能性が高いから、と、良からぬことを考えていると言う。
嫌だよ、絶対。
我が子を殺されるのが分かっていて、不誠実な変態爺に嫁に出す訳無いじゃないか。
あ、また着信だ。
この際ハッキリ言っておこう。
「あのさ、私の子供に手を出したら、二度と生殖出来ない様に切って潰すよ? あと、邪魔。旦那とラブラブ新婚旅行中だから」
さめざめと泣いている気がするけど、さっさと通信を切った。
次は人族の国に入る。
元ピンク縦ロールと元悪霊使いが元気に育っているか見て来よう。
それから、死産してしまった夫婦達の健康状態も。そろそろ妊娠しても大丈夫な体に戻っている筈。
どんな魂を彼らの家庭に送ろうか。
治癒の神が現れたことで、誕生システムで発生させられた異常能力は教会に訪れるだけで消え、悪霊憑きも妖精人族の浄化が無くても治癒することが可能になった。
退屈しのぎで器に合わない能力や悪霊憑きになる運命を与えられるワンブック人は、もう増えることはなく、どんどん数を減らしている。
光の蛇が私に飽きてワンブックを吐き出し、『世界』が死んだ時のようにエネルギー不足で暗黒時代が再来するまで、ワンブック人は自由な進化を続けるだろう。
もしかしたら、進化の結果、超越的な存在からのエネルギー供給が無くても生きて行ける種族が誕生しているかもしれない。
私は私の居場所を手に入れて、自分の能力を活用しながら役目を果たせる日々を送っている。
寿命のあるワンブック人とは、いずれ別れの時は来るけれど、出逢って良かったと思うし、私は何も忘れずに大切な人を思い出すことが出来る。
自分の完璧な記憶力に、初めて心から感謝した。
またセシルに会いに行こう。
思い出を、たくさん作ろう。
「あ、赤ん坊の声だ」
「見に行くか?」
「うん。シェードのモテっぷりを堪能する」
「首輪の力だがな」
手を繋いで、赤ん坊の声がする公園へ向かう。
未来を繋ぐ存在に、誕生の女神として祝福を。
私は今、とても幸せだ。
長い時間お付き合いいただき、ありがとうございます。
本編は、これにて終了させていただきます。
思ったよりもシェードが危ない人になり、自業自得とは言え光の蛇の悲惨さが増しました。
主人公は、素はチョロいアホの子ですが、シェードが囲っている限り危険は無いでしょう。
今後、誤字や矛盾を見つけ次第、物語の大筋は変えずに修正します。




