表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/101

道場

「……この一週間、どこに行っているのかと思っていましたが」


「すっごいね、これ!」


「でしょ? 会心の出来だよ」


 やっとのことで、アルミリア達にこの道場をお披露目することが出来た。アルミリアは静かに、チルニアはテンション爆アゲな感じで驚いている。


 しかし、パミーだけ反応が違った。


「パミー、どうかした?」


「い、いえ。入って中も見てみたいです」


 何か言いたそうだが、本人が隠しているんだから、今は問い詰めないでおこう。


「中に入る時は靴と靴下は脱いでね。ここ、道場では裸足が基本だから」


「ドージョーと言うのですか、この建物は……」


「そ。まあ、言ってしまえば異国の修練場。さあ、入った入った」


 靴を脱いで靴下も脱ぐ。ボクが一礼して中に入ると、他の三人もそれに倣って礼をして入る。


 一週間かけて、ボクは外装だけでなく内装もかなり変えた。


 まず、床をフローリングにした。買ったばかりの頃は地面丸見えだったが、今ではその形は跡形もない。


 そして、内部の造りも日本の古来からの建築様式にしている。梁のようなものが、その例だ。


 他にも、屋根を瓦で覆ったり、縁側を作ったりと色々してみた。結構日本の雰囲気が出たから、ボクとしては満足だ。


「……なんだか、私の家と造りが似ています」


「マジ?」


 パミーの小さな呟きが聞こえてくる。まさか、この世界にも日本の木造建築の様式があるとは。


「はい。家を建てたことがないからハッキリとは言えないけど、でも、似てる気がする」


「それは……パミーの家が気になるな」


 そのうち訪ねた時に、見てみよう。もし本当に日本の古来からの建築様式と同じならば、その発祥とか調べてみたいものだ。


「さて、まずはここの掃除から始めよう。これから使わさせてもらいます、って気持ちを込めてね」


「それも、このドージョーという場所の習わしなのですか?」


「まあ、そんなところかな。どっちかというと、この道場がある国の慣習。感謝は大事だからね」


 あらかじめ作っておいた雑巾を、それぞれ三人に手渡す。


「魔法じゃダメ?」


「自分の手でやることが大事なの」


「はーい」


 チルニアが「そういうことなら、隅から隅まで綺麗にしてやるかんなー!」と張り切っているから、多分最終的にはボクの予想より綺麗になるだろう。ただ、チルニアのことだ。ドジって何か壊さないか心配だ。ここはパミーに任せよう。


「じゃあ、ボクとアルミリアさんでここをやるから、二人は縁側……外の床と、他の場所をお願い」


「分かった。終わったら言うね」


「……チルニアの監視、お願い」


「……あはは、任せて」


 チルニアのことはパミーに任せて、二人が縁側へと姿を消した。


 稽古場に残ったボクとアルミリアは、しばらくの間静かなままだった。その静寂を、アルミリアが破る。


「始めましょうか。こういったことは初めてするので、色々と教えてください」


 そうか。アルミリアは貴族だから、身の回りの世話はほとんどメイドとか執事がやっていたんだろうな。学園でも掃除は魔術師の教師がパパッとやっちゃうから、掃除なんてする機会がなかったわけだ。


「……分かりました。汚れても怒らないでくださいね」


 角に置いてある桶を持ってきて、魔法で水を入れる。雑巾をそれに浸し、水を絞りとる。


 入れ替わりに、アルミリアが雑巾を水に浸ける。


 ……アルミリア、普通に振る舞ってるな。あの日のこと、どう思ってんだろう。後悔はしないつもりだったけど……やっぱり、嫌われていないか気が気じゃない。


「……あの、アルミリアさん」


「次はどうすれば……何でしょうか?」


「一週間前のこと……その、結構酷いこと言いましたけど、怒ってませんか?」


「怒りますよ」


 アルミリアの目付きが少し鋭くなる。怒りますよ、ということは、あのことは怒っていなかったのだろう。


「……ごめん。友達に嫌われるのが、怖くなった。でも、そうだよね……あそこまで言ったボクが弱気になってたら、アルミリアさんに立てる顔がないか」


「全くです。さあ、掃除を始めますよ」


「じゃあ、床を拭きましょう。膝をついて、こう四角を描くように……」


 その後は、掃除の仕方をアルミリアに教えながら、少し戦いや日常の話をしながら、真剣ながらも楽しい時間が過ぎていった。



「おおー、随分と綺麗になったもんだねー」


 道場の中を見回す。リフォームしたて、ということもあって元々そこまで汚くはなかったが、やはりこうして掃除を終えると、見違えるほど光って見えた。


 最後こそ魔法で小さいゴミなどを集めて、仕上げをしたが、手作業でここまで綺麗になるのは、予想以上だ。


「お疲れ様。今が五時くらいか……寮までは十五分歩けば着くしな……夕飯は六時半から。よし、一時間は時間あるな」


 この世界に時間という概念はないに等しいので、ボクの独り言に三人はいぶかしげな表情を見せる。


「夕飯まで時間あるから、これからのことの説明をしておくよ」


 ボクの言葉を聞いて、今度は三人の表情が引き締まる。


「アルミリアさんには、これからこれの特訓をしてもらいます。ちょっと待ってね」


 そう言って、ボクは一度道場の道具倉庫へと入る。その中から、鞘に収まった一本の細い剣を手に取る。


 ついでに傍に立てかけてある竹刀二本も取り、三人の下に戻る。そして、細い剣をアルミリアに突き出す。


「これは……レイピアですか?」


「そ、レイピア。アルミリアさんの戦い方には、こっちの方が合ってそうですから。なので、これはこれから頑張ってもらうための、ボクからのプレゼントです」


 これは、ボクが剣のメンテナンスをしてもらっている武器屋で買ったものだが、かなりいいものの部類に入る。装飾は少ないが、斬れ味がよく戦闘においてはかなり役に立つ。


 アルミリアがボクの手からレイピアを受け取る。そして、小さく笑みを零したかと思うと……


「ありがとうございます。必ず、このレイピアと共に強くなってみせます!」


 満面の笑みを浮かべて、そう宣言した。その言葉に、ボクも笑みを浮かべて頷き返す。


 大事そうにレイピアを抱きかかえるアルミリアの横で、チルニアとパミーがボクの持つ竹刀を見詰めている。多分、今の様子からこの二本が自分達に与えられるものだと察したのだろう。


「はい、二人にはこれ。魔法の指導もしてあげるけど、ここは道場……接近戦の技術を高めてもらう。これからは、二人にはこの竹刀を使って、お互いを殺すつもりで戦ってもらう」


「こ、殺すつもり!?」


「そう、殺すつもり。大丈夫、これは痛みは木剣よりも少ないから。剣術の基礎はもう学園でも 習ったし、今度は本戦で使うことが成長に一番つながる。でも、本気で臨まないと、効果は下がるからね」


 ボクから竹刀を受け取り、数秒間お互いの顔を見詰め合う。そして、真剣な顔でお互いに頷き合い、ボクに視線を戻す。


「やるよ。あたし、パミーを殺す気で……!」


「私も、チルニアを本気で斬るつもりでやるね。……あれ、でも。私いっつもチルニアには結構本気でやってるから、いつも通りでいいのかな」


 パミー、やっぱりチルニアには厳しいみたいだ。


 でも、チルニアも一人称が「あたし」になってるし、自分にも言い聞かせられただろう。二人は大丈夫そうだ。


「じゃあ、今日はここを十周ダッシュしておしまい! はい、ゴー!」


 ボクの掛け声と共に、三人は走り出した。


『あんたは走らないの?』


「今はね。それに、ボクは指導しないとだから、最初の方は三人の動きから癖とかを見ておきたいんだ。それに合わせて、やりやすい動きを研究する」


『ふーん、あんたなりに考えてんのね』


「そうさ。ボクはこれでも、大抵のことに全力で臨む主義だからね」


 五周ほどでペースの落ち始めた三人に喝を飛ばしながら、ボクは一つだけ思った。


 ──ボクが目指すべき世界は、この三人が武器を持たなくていい世界。いずれ、そんな世界に作り変えることが出来るだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ