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50世紀青年〜不死身が死ぬまで〜  作者: 過猶不及
第二部

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目覚めにはこれ

 東に昇る太陽の日差しが照っている。天気は快晴、太陽光は遮られることを知らず地面に差しこんでいた。夏には心地よいと感じていた朝の涼しさも、秋ともなれば寒さに変わる。


 ここピスケ第三魔法学園では、あと20分で朝のホームルームが始まろうとしていた。


「ヤク!」


 ピスケ第三魔法学園の寮にある、とある一室での一幕。コタロウが勢いよくドアを開けると、朝の日差しとともに秋風が吹きぬけた。廊下に比べて格段に寒かった。コタロウは部屋の異変に気づきながら、今はそれどころではなかった。


 ヤクが眠っているベッドに歩みよる。見おろすと、いまだにスヤスヤと寝息をたてている。コタロウはため息をつくと、勢いよく身体をゆすった。


「ヤク起きろ! ホームルームが始まるぞ!?」


「……ん……?」


 激しい揺れを、ようやく感じとったか。ヤクは眉間にシワがよる。


「おお! 起きたかヤク! 早く……」


「むにゃむにゃ」


「むにゃむにゃ!」


 コタロウは耳を疑った。目の前の男は、たしかに「むにゃむにゃ」と言った。コタロウは、「むにゃむにゃ」という言葉を漫画的表現だと思っていた。必死の揺すりもやめて、手で口をおおった。


「『むにゃむにゃ』、だと? 『むにゃむにゃ』って言ったのか……? 人って『むにゃむにゃ』って言うのか……!? てか『むにゃむにゃ』ってなんだ!?」


 コタロウはヤクの肩を掴み、そのまま上半身を無理矢理に引きおこした。


「口を開けろヤク!」


 ヤクに訴えかけるように言うと、ヤクは言われた通りに口を開く。目はまだ眠ったままである。にもかかわらず、合言葉で開く扉のように。ゆっくりと確実に上下の唇が離れていくのである。これも、日々の餌づけの賜物か。  


 コタロウは、口が開かれたことを確認すると、てのひらに毒を生成しはじめた。毒は、濃い紫色のプルプルと弾力があった。ちょうどスライムのような感じだ。そして、毒はまたたく間に三角に形を変えていく。なにやら粒状の小さく楕円形のものも、表面に現れる。その見た目は完全におにぎりそのものであった。極めつけに、海苔まで再現する芸の細やかさをみせる。しかし、色は紫色である。


「食え!」


 生成されたおにぎりをヤクの口にねじ込む。紫色のお手製にぎり飯を食らったヤクは、目を閉じたまま静かに咀嚼を開始する。


 少しして、ヤクの口の動きが止まった。喉が動いた気配はないので、おそらくまだ口の中に残っている。


「む……」


 声ではない音がヤクから発せられる。口というよりも喉の奥から出た感じの音だ。


「ごばばばばばばがはっ!」


「おー、起きたかヤクー。おはよう」


 人の声とは思えない悲惨な断末魔をよそに、コタロウは涼しい表情で挨拶をする。ヤクの断末魔は確実にコタロウへ届いていた。しかし、コタロウには想定内のことであった。吐くだろうと思って渡して、吐かれたのだ。なにも驚くことはない。


「な、なに食わせたてめぇ! 辛味と苦味と渋味と酸味がいっぺんに来たぞ!? 殺す気か!」


 喉を抑えながら、ヤクはコタロウに怒鳴り声をあげる。上手く声が出ていない様子で、カハカハと乾いた咳を何度もしている。寝起きだからなのか。はたまた毒のせいか。おそらく両方だろう。


「起きないお前が悪い。目覚めの1発ってやつだ。どうだ? スッキリ起きれたろ」


「スッキリどころか、ぽっくり逝きそうだったわ。なんだこの劇物……食感と香りは握り飯だったのに、味が地獄だ」


 意気消沈するヤクを見て、コタロウは得意げに人差し指を立てながら話しはじめた。


「これまでの俺は、自分が侵されていることにも気づかない毒の開発をしていた。だが今回はちょっと趣向を変えてみたんだ。」


 コタロウはふたたび、てのひらに紫色のおにぎりをつくり出す。


「これは、味覚や嗅覚にも訴えかける毒だ。お前も言ってたろ、『味が欲しい』って。そこからインスピレーションを受けてだな…」


「俺が言ったのは『美味しくしてくれ』だ! こんなの望んでない! 全く美味しくない!」


 自身の膝をガンガン叩いている。まるで駄々をこねているようだ。ヤダヤダという効果音が聞こえてきそうである。


「んんん? そうか……まあ、ごめんな。俺も悪ノリがすぎたよ。食堂のおばちゃんからパンもらっといたんだ。口直しと朝食に、な?」


 癇癪かんしゃくを起こすヤクに、コタロウは眉毛を困らせて反省の態度を示す。そして、懐から小さな紙袋を取りだした。中には焼き立てと見えるふっくらとしたコッペパンが1つ入っていた。それをヤクに差し出す。ヤクはベッドの横に置いてある時計をチラリと見た。時間は8時19分をさしている。朝のホームルームは8時30分に開始される。ここが寮でなければ、遅刻確定であった。


「あ、ああ。もう食堂閉まってる時間か。俺も悪かった、わざわざ起こしに来てくれたのに。助かったよ」


 もとはといえは、悪いのは寝坊をした自分であると思ったのだろう。ヤクも反省のいろをみせる。ホームルームまでもう時間がなかった。ヤクは、コタロウからコッペパンを受けとると口へと放りこんだ。


「ごばばばばばばがはっ!!!」


「ははは! どうだどうだ!? こんどは見た目もそっくりそのままコッペパンだろ!? ただよう風味も手に持った感覚も! これには俺も苦労したんだ……」


「い、いい加減にしろおお!」


 残り10分。はたして、2人は教室に間にあうのだろうか。


 本題に入るまでにはもう少しかかりそうですね。ここまで見て頂き、本当にありがとうございます。


 少しずつでも、文章力は上がっているのでしょうか、、、自分では分かりませんが、少しでも読み易くなったと感じて頂けていたのなら、幸いです。

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