睡眠学習確定演出
時は戻り現在。
「さっきから君、チラチラ“あっち“を見ているね? あっちには、いったいなにがあるのかなあ?」
バドが指差す方向に、ダイスケは目をむける。いや目を向けずとも、ダイスケには分かっていた。そこになにがあるのかを。
「おい」
「チッ、余計な……」
言うが早いか、メンテインは即座に後退する。ダイスケは、バドがなにしようとしているのか、ある程度検討がついていた。
風が吹いた。しかし、草原を吹きぬける心地のいい風ではなかった。突風というべき鋭く刺すような風であった。それが、ダイスケの横を通り過ぎていく。
見ると、小さい弾状の魔力の塊がバドの手の上に出現していた。次の瞬間、ダイスケは目を見張った。さっき、起床した瞬間に感じた、強大な魔力。それよりもさらに強く濃い力を感じとったのである。
「【魔壊・終曲】……」
禍々しい魔力の弾が、バドの手から放たれた。どれだけの被害が出るか、ダイスケには予想もつかなかった。頭を回せる猶予もなかったのだ。ダイスケは即座に足を踏み出した。踏んばった衝撃は大地を砕いていた。
次の瞬間には弾とダイスケの身体が触れていた。地上から140センチ程の所で眩むほどの閃光が起こる。刹那、轟く大爆発。空気が圧力によって押されていく。大地の表面はえぐれ、木々が跡形もなく消えていく。
遠くにかまえるピスケの街には、地面の破片がパラパラと降り落ち、涼風が吹きぬけていった。
✳︎
そこには、宙に浮く3人の姿があった。ダイスケはない。
「あれ? おかしいな。ここら辺で爆発しても街までは届くと思ったんだけど。ギリギリで威力を抑えられたみたいだ」
バドが驚いて、爆発が起こった中心に目をやる。まだ土煙が舞い散っており視界は悪かった。
「自己犠牲の精神かあ? たかだが常人ごときが、気取りやがる」
「敬意くらい払いなさい。たとえ敵でも、彼は勇敢に……!?」
3人は疑わなかった。ダイスケが死んだことを、誰一人として疑うことはなかった。だからこそ、驚愕した。なぜか。
街に爆発が届かなかったから。
たかが常人が自分の命よりも他人の命を優先したから。
理由は、それだけではなかった。
「ダイスケさんー! 大丈夫ですかー!」
「ああ。くそ死にたくはねぇ、死にたくはねぇが……今のはなあ、ちょっと頭回んなかった」
そこには、土煙に咳き込みながら立つ少年の姿があった。
「生きてる……!?」
「直撃だったろ……」
目を見開き、空いた口が塞がらない様子のコミュニとメンテインに挟まれるバド。眉をひそめて、鋭い視線でダイスケを見つめた。
✳︎
ダイスケは不死身である。よって死ぬことはない。さっきは、爆発をどうするかに問題が絞られていた。ダイスケは自分の身体を弾にぶつけた。そのあと、弾と自身とをシールドで何重もおおい、威力を弱めていたのである。今となっては愚策だが、ダイスケには余裕がなかった。咄嗟の策にしてはよくできたほうだと、自分を褒めたいくらいには、頭は白紙の状態であった。
「まただ」
目を見開き、硬直する2人をよそに、バドは冷静に言った。
ダイスケの足から腕から頭から、身体全体から、無数の黒い帯が現れた。黒い帯はダイスケの身体に纏わりつくと、急速にその締まりを強くきていった。
「拘束か!?」
「うちのリーダー、ズボラなの」
「……用心深いと言って欲しいね」
バドは苦笑いを浮かべると、ダイスケに向きなおる。
「この魔法の真髄は、拘束のほうなんだ。爆発はオマケみたいなものでね。まあでも、拘束まで至ったのは、君が初めてかもねえ」
バドはニヤリと笑みを浮かべる。他の2人はそんなバドの横顔を覗き、苦笑いを浮かべていた。
「戦いの最中に、よそ見なんかして余裕だったね? 俺はただ、君を戦いに集中させようと思っただけなのに……」
「それ、本気で言ってんのか……?」
「コミュニ」
ダイスケの雰囲気が変わった。半目でのほほんとしていたのが、鋭く切れた目に変貌していた。絡みついている黒い帯状の物がブチブチと音を立てながら消滅していった。その様子に、バドを含めた3人の口角が下がる。バドのコミュニを呼ぶ声も、打って変わって真剣であった。
「ハイハイ……【魔傀・片想いの極地】」
ダイスケは自身の身体の異変に気づき、顔を顰めた。頭が吸い込まれるような気分と、のめまいを感じたのだ。
「本気じゃあないさ、気に食わなかったんだ。だって悔しいじゃない、よそ見だなんて……ホントは、ただ俺たちだけを見てほしかったのさ」
「……胡散臭いやつだな」
ダイスケの膝が地面に着く。そして、ほぼ同時に両掌も着地した。丁度、土下座の体勢である。
「【高速移動領域】……【感覚強化】……」
瞬間、ダイスケの身体を中心として白い魔法陣が出現した。透明なドームが広がっていき、魔人族の3人もそれに飲みこまれていく。3人は、周囲の変化を確認するように辺りを見渡していた。
「なんだこれは?」
「サポート魔法の類だろうね。しかし、うん……範囲が、ずいぶん広い」
地面を蹴る音さえしなかった。まさに風が吹くように。ダイスケの身体は3人の目の前に、手が届くすぐそこに、すでに存在していた。
「速い……」
「【風魔法/槍拳】」
両拳が風に包まれる。その風は、しだいに鋭く尖った槍の形へと変化していった。
「【魔碍・不可侵条約】!」
ダイスケとバドの間に紫色の壁が出現した。壁は分厚く、しかし向こう側でかまえているバドの姿ははっきり見えるくらい透明であった。ダイスケはかまうことなく、2つの槍と化した両手を勢いよく突きだした。
バキバキッ
ガラスが割れるような音が響いた。瞬間、鋭利な槍の切っ先が、貫通。バドの額に届いた。
「ぐっ……!」
衝撃に耐えられず、ふき飛んでいくバドは、地面に叩きつけられる。しかし、それでも勢いはまだ止まらず、バドは地面を砕きながら沈んでいく。やっと落ち着いたときには、巨大なクレーターがバドを中心に形成されていた。
続けて2つの音がするが早いか、残りの2名も蹴りとばす。直後には地面に叩きつけられ、バドと同様に隕石のごとく大地を変形させていった。
魔人たちの額から血が流れていた。3人はゆっくりと起きあがる。その表情は、驚きを隠しきれていなかった。荒く息をたてながら、コミュニが口を開いた。
「なんで、なんで攻撃できるの!? 今の私たちは、肉親を超えた存在のはず! この、薄情者!」
【魔傀・片想いの極地】
対象は、特定の相手を最愛の人と強く認識する
「そうか、催眠術か。道理でなんか変な感じがしたわけだ……残念だが、俺に催眠は効かん」
ダイスケはとてつもなく精神力が強かった。目眩をもよおしたあと、すぐに普段通りに戻っていたのである。つまり、ダイスケにとって、3人は最愛の人などではなく、むしろ大切な友を亡き者にしよつとした、ただの大量殺人未遂者どもであった。ダイスケは手を身体の前に出すと、魔法を練る体勢にはいった。その表情は真剣そのもの、完全に戦闘体勢であった。
その様子を見て、バドは即座に自分達の背後に手をかざす。すると、黒い渦が出現し、その中から黒光りするゴテゴテの装飾が施された悪趣味な扉が姿を現した。
「データは取れた。次こそは必ず」
言うが早いか、扉が開くと3人はその中に入って行く。
「逃げるのか」
すでに閉まりはじめた扉にむかって、ダイスケは問いかける。挑発であった。先に手を出したのはそっちだと、心の中で詰めよった。
「戦略さ」
言い終わると同時に、重そうな音を立てて扉が閉められた。ダイスケは、かまえていた身体の力を抜く。跡形もなく消えた3人。突然の出来事に、頭の整理が追いつかず、ダイスケは天を仰いだ。そして、チラリと街のほうを見やる。ところどころで、明かりが灯っているのが微かに見受けられた。
「ひとまず、無事でなによりか……」
頭をかきながら、ホッとひと息。胸を撫でおろした。
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取り残されたダイスケは、腰に手を当てると、辺りを見渡した。最早原型は留めていない大地を見て、ダイスケは大きくため息をはいた。
「なあ、計画ってなんだ?」
「知らないですー」
「お前、実は知らないこと多いよな」
「そ、“そういう“のは分からないってだけでー!他のことならだいたいはー…」
「ハイハイ……もう良いですー」
大きくあくびをした。東の空が明るくなりはじめている。もう朝になろうとしているのだ。
「でもでもでもでもー! なんとなく予想はできますよー! 魔人族との間にも色々有りますからねー!」
「なんかあるんだろうなってのはわかった。で、なんだよ“色々“って」
「う〜ん。それはー、話すと長くなりますがー……今、話しますかー?」
「いや遠慮しとく。俺は帰って早く寝たい」
小鳥の囀りが聴こえてくる。まるで試合終了の合図のような。甲高くやかましい音に、耳を塞ぎたくなる。ダイスケは、もう1回大きくあくびをした。
久々過ぎて色々忘れてます。今回の話も本当はもっとバチバチでいこうと思ってた気がするんですが……忘れました。なので割りかしアッサリ。
読み返してはそういう感じかと思い出し、加えて“書き“の拙さに気付き傷付く毎日です。そりゃ1:1評価も頷けるね。
勿論、高くつけて下さった方々やブックマークして下さった方達にはもう足向けて寝れないですよ〜。
何処に住んでるか分かんないので、床に穴あけてそこに足通して寝てます。




