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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第一部
12/78

末恐ろしいバケモン

不埒ふらちな男め……お前は、この俺が倒す!」


 拳を胸に打ちけながら宣言すると、少年は勢いよく観客席から飛びおりた。客席から中央アリーナへは高さでいえば、3人分はある。階段を使って降りるのが普通だ。


「な、なんだ……?」


 降りてきたのは、パーマがかかった明るい髪をセンターで分けた少年だった。凛々しく太い眉毛が眉間に寄せられ、切れ長な目がダイスケをまっすぐとらえている。


「なにしてんだマルコ……今、授業中だろ。早く戻れ!」


 モモツギは呆れた様子である。乱入してきた少年、マルコはどうやらこの学校の生徒のようだ。マルコは、叱られているにもかかわらず全く退く様子がない。モモツギの動きを静止するように手を前に出し、空いた手を額に置く。


「止めないでくれモモツギ先生……男には、やらねばならないときがあるんだ。それが今なんです……!」


「なに言ってんだお前……」


「試験は、全体的な戦闘技術を見るんですよね? じゃあ、俺が相手でも問題ないはず!」


「そんなわけないでしょう。早く戻りなさい」


 モモツギだけではダメだと感じたのか、今度はフィールが止めにはいった。しかし、マルコは全く聞く耳を持っていないようだ。現に、彼はダイスケから目線を外さなかった。


「かまえろ!」


「待ちなさい!」


 マルコに呼ばれ、とっさに身をかまえる。マルコはすでに臨戦態勢にはいっていた。天高く腕をあげて、空に向かって叫ぶ。


「【雷魔法 / 無限雷ムゲントルト】!」


 地面に黒い影が現れはじめた。見上げると、いつの間にか空には黒い雲ができていた。それも1つだけではない。今もなお増えつづけている。


 黒雲は、1つに集約していく。そして、またたく間に闘技場全体を覆う雷雲となったのである。雲の中で雷がひかりながら、ゴロゴロと不吉な音を轟かせている。自然発生でないのは明らかだ。彼の魔法によるものなのだろう。


「あいつ、俺たちも巻きこむ気か……!」


「痺れろ!」


 瞬間、降りそぞいだのは雷の雨。闘技場中に降る雨に撃たれた箇所は黒く焼け跡が残っている。当たれば痺れるどころの騒ぎではなかった。上を見ると、今まさに頭上にも雷の雨が落ちてきそうである。


「【強化魔法 / 感覚強化】……」


 辺り一面に、遅れてきた雷鳴が響く。戦いの火蓋が今、切って落とされたのだ。次々と地面に落ちる雷。綺麗に整備されていた地面は一瞬で焦げ跡だらけの荒野へと変化していった。


 ダイスケは頭上に降ってきた雷を躱すと、無数の雷の合間をすり抜けていった。それはまるで、豪雨の中を雨に当たらず歩いているような光景であった。


「あ、当たらない!」


 地面が傷ついていく中、大介には当たらなかった。攻撃の全てを紙一重で躱している。ダイスケには、雷が落ちる場所がわかっていたのである。ダイスケは、マルコとの距離を着実に詰めていった。


             ✳︎


 教師3人は観客席に逃げていた。しかし、ここも安全圏ではないようで、わずかに雷が轟いていた。


 モモツギは腕輪の1つを外すと、ギュッと握りこむ。次の瞬間、腕輪は消えて、代わりに大きな傘が出現した。モモツギはそれを広げると、2人を中に招いた。


「【感覚強化】……いよいよただ者じゃないな」


 ゲントレーが尖った髭をなでながらうなる。


【強化魔法 / 感覚強化】 

 勘を極限まで鋭くする。極限まで研ぎ澄まされた感覚は、相手の未来をも見通す力を持つ。


「強化系はいわば、火事場の馬鹿力のようなもの。かなり追いこまれた状況でなければ、発現なんてしないはず」


「いやあ……重要なのはそこじゃないんス、フィール先生。感覚強化は、たしかに覚えるのも大変なんスけど、使いこなすのはもっと大変なんス……」


 モモツギは、大きく息を吸った。


「目の前に広がる“今の光景“と、頭に広がる“未来の光景“とのギャップ……とっさの判断なら、なおのこと。それは、致命的なミスにつながりかねないんス」


「下手に使えば、むしろ邪魔になってしまうような、扱いがとてと難しい魔法なんだ。でもあの子は……あの子はそれを、平然と使いこなしている」


「【感覚強化】を使える人から見れば、末恐ろしいッスよ……」


 モモツギの言葉に、2人はおし黙ってしまった。この3人の中で、【感覚強化】を使用できるのはモモツギとゲントレー。ただ、実戦で扱えるレベルまで達しているのはモモツギだけであった。そのモモツギがそう言ったのだから、2人は唾を飲みこむほかなかった。


 ダイスケという少年。17歳にしてすでに【感覚強化】を我がものとしているように、モモツギには映った。大量の雷はもはやカーテンのようであるが、少年の身体は綺麗なまま。余裕の笑みすら浮かべている。


「あれは、バケモンだ」


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