違う
「俺が……めちゃくちゃ強い……だと?」
「はいー! 今日も強さが輝いてますよー!」
「どどどどどういう意味だ!?」
声は震えていた。さっきまで、手ごたえを感じてほくそ笑んでいた姿はなかった。一瞬にして、口はガタガタと支障をきたし、目が見開かられていく。
「ええ〜? その言葉通りですよー? 魔法を平気で使うような動植物がいるあの森でー、5000年も戦って強くならないわけないじゃないですかー」
「あ、あのくらいの強さがこの世界では普通なんじゃ……」
「そんなそんなー! あの森は特別ですー。なんせ神聖な森ですからねー。あんなんが世界基準とかー、どんだけ殺伐とした世界〜? ってかんじですよー」
なにご冗談をという感じであった。守護天使は、ヤクが謙遜をかねてふざけているとでも思っているのだろう。しかし、ヤク本人には全くもってその気はなかった。
守護天使は大昔に、この星のことを「規模が違う」と評した。ヤクも、前世を過ごした地球とはスケールがまるで違うということを、実際に自分の目で見てきていた。守護天使の言葉は、たしかであった。
「お、俺はこの世界の基準に合わせるためにここまで頑張ってきたんだぞ!?」
「え、知らないですよそんなのー」
「知らないってお前!」
「だってー、そんな話聞いたことないですもんー! 森を出るために強くなるって言ってたじゃないですかー!」
意見が噛みあわず、もどかしさを感じる。
「それもそうだけど……あれ? 俺、言ってなかったっけ?」
「聞いてないですー」
自分は言っていなかったのだろうかと、頭の中で考える。思い出すのは、他愛もない話ばかりであった。内容は覚えていない。ただ、そこら辺にある草や木を指差して、あーでもないこーでもないと喋っていたような記憶しかなかった。覚えるほどの内容をほとんど話していなかったのだ。
そうか、言っていなかったか。自分は、自己完結して終わっていたのか。あの異常な強さは、やはり異常であったのか。動物が魔法で攻撃してくる生活は、やはり常軌を逸していたのか。
「嘘だああああああああああああああ!」
天を見上げながら、頭を抱えた。脚に力が入らなくなり、膝からくずれ落ちる。本当は、ヤク自身もおかしいなとは感じていた。拳1発で倒れてしまうような弱小盗賊団を倒したくらいで、凄い凄いと言われたときから。
「そうだよなあ……第一、俺5000年生きてるもんなあ……」
「そーですよー。常人の寿命はたかが知れてますからー。いいとこ100年とかそんなもんですからねー」
「そこは前と変わらねぇんかい……」
100メートル先という容易な距離に置かれた的。簡単に消しさることのできる魔石。対して、先生たちの驚きよう。筆記が究極に難しかったから、実技は簡単にしてくれたのだと勝手に解釈していた。しようとしていた。
地面についた手が離れない。自分が、とんでもない存在になってしまったのではないかという不安。学校になど通っていけるのか。平穏に暮らせるのか。これからどう生きていくことが正解なのか。次々と頭に浮かんでくる。
「どうしたんだい急に!?」
突然、大声で叫びながら崩れていったヤクを心配してか。ゲントレーが駆けよってきた。ヤクは、引きつった表情で最高責任者を見あげる。彼は、ギョッとした顔をしていた。
「お、俺って……つつつ強い、ですか……?」
「え? あ、ああ。とても強いよ」
「がはっ!」
その笑みが、優しい声色が、今は矢のようにヤクの心臓を貫く。ヤクは、声にならない声をあげながら、あお向けに倒れていった。
「おい、どうした!? なにしたんスか、ゲントレーさん!?」
フィールとともに、モモツギも駆けてくる。
「ええ!? 自分は強いか聞かれたから、『とても強いよ』と答えただけだよ?」
「たしかに。あの魔力コントロールと変換効率は、普通じゃないですよね」
「ぐはっ!」
追いうちをかける「普通じゃない」発言が、脳天につき刺さる。ゲントレーはしゃがみ込むと、ヤクに顔を近づける。
「次はモモツギ君との実戦形式の試験なんだが……大丈夫かい?」
その言葉に息をふき返したヤクは、ゆっくりと上半身を起こした。そして、目の前にしゃがみながら心配そうにこちらを見ている先生をチラリと見る。
ついさっきまでは、とうぜん受けるつもりであった。学校に通うことはヤクの念願である。その意思に変わりはない。可能ならば受けたい。しかし、その気持ちをどうしても邪魔してしまう。自分が、“他人とは違っている“という事実。夢がようやく現実になる、1歩手前まできている。片足を踏みこんでいる、はずだ。筆記試験という不安材料はあるが。
まわりは、こんな自分を受けいれてくれるか。自分は本当に、周囲と馴染めるのだろうか。消極的なイメージが、ヤクの脳内を駆けめぐっていく。
やはり、出直そう。ヤクは決心して立ちあがる。
「俺、今回は……」
「その試験、俺がひき受けぇえええる!」
やはり、出直そう。ヤクが決心して口を開く。それと同時に、男の声が闘技場中に響きわたった。声は、観客席のほうから聞こえた。4人が一斉に観客席を見渡す。すると、1人の少年がヤクを指差しているのだ。鬼の形相で。ヤクを睨みながら、その少年は威風堂々と足を広げて立っていた。




