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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第一部
10/78

言うのが遅い!

 いつ敵に襲われるかもわからない状況だった。なるべく魔力は温存しておかなければならなかった。魔力が底を尽きることは、すなわち即死を意味していたからだ。少ない魔力量で、殺傷能力の高い攻撃が必要だった。そして大前提、ダイスケは死にたくなかった。


「だから、俺はコンロトール重視の遠距離攻撃を磨いていったんだ」


 幸運にも、ダイスケは初めに【視覚強化】の魔法を手に入れていた。遠距離攻撃にこれ以上適した魔法はない。


 目を閉じて、右手で鉄砲の形をつくる。その銃口という名の人差し指を的に向ける。指先に力を込める。全身の魔力を一点に集中させるイメージ。次第に、魔力が指先に集まっていくのが感覚でわかる。目を開けると、指先には今まさに魔力で固められた弾丸が形成されていた。


「いけー!」


「うるせ」


 次の瞬間、魔力の弾丸が指先から放たれた。弾丸は真っ直ぐ、的に向かって突きすすむ。1ミリメートルのブレもない。ひたすら真っ直ぐと進んでいく。


「おいおい」


「なんて正確な……」


「不正はありません。あの子の実力です……!」


 放たれた魔力の弾丸は、100メートル先の的へ。その最も小さい丸の真ん中を抜いていた。


「あんな的、1キロ先だって打ち抜ける。あんがい実技は優しいかも」


 これはどういう評価になるのかと、3人を見る。3人とも目を見開いて的を眺めていた。どうやら、結果は上々のようだ。筆記が酷すぎたから、実技を甘めに設定された可能性がある。しかし、設定したのは先生方の落ち度である。目指せ満点合格。アマナツたちに合わせる顔がニョキニョキと生えでてくる感覚が湧いてくる。


「つ、つぎはこの魔石に魔法を当てて、威力を測る。この魔石は魔力を吸収する性質があるから、思う存分力を発揮してかまわないよ?」


 ゲントレーの説明していた石。直径1メートルはある大きな石だ。表面を黒い光沢で覆い、ツルツルと丸みを帯びた形状をしている。なにに使うのかとずっと気にはなっていたのだ。やはり試験に使用するのかと納得する。しかし、これは岩ではないのだろうか。


「はい! 頑張ります!」


 試験とは、一挙手一投足が見られている。声の大きさもまた、相手を量るための貴重な情報源だ。小さいよりも大きいほうが、前のめりな印象を受けるはずだ。守護天使に教わった。


             ✳︎


 長距離攻撃を主体としてから、300年が経過していた。中々、狙撃手も板についてきた今日このごろ。限界は突如訪れた。


 それまで無敵だと思っていた攻撃が、遠距離攻撃が通じない敵が現れたのだ。コントロール重視の攻撃では倒せないほど硬い装甲を身にまとう怪物だ。


 図鑑で見たことがある見た目をしている。名前は覚えていないが、恐竜の仲間だったはず。特徴的な3本のツノ。鳥のくちばしのように尖った口もと。四足歩行で、盾を取りつけたような顔をしている。これが、とにかく硬かった。そこでダイスケは考えた。コントロールをある程度捨てて、威力に大きく振ったのである。


しかし、それでは今度は素早い敵に対して攻撃が当たらなくなってしまった。さきほどの怪物も、見た目に反して恐ろしく俊敏であった。木々をなぎ倒して迫りくるあの衝撃。恐怖以外の何者でもない。そこでダイスケは、仕方なく。魔力消費度外視の威力重視に戦法を変えたのだった。


 しかし、その戦法にも限界が見える。


「ハァ……ハァ……」


 魔力の消耗が激しい威力重視の攻撃は、やはり自身への負担が大きかった。彼自身、最初からわかってはいた。しかし、背に腹はかえられなかったのだ。慣れるしかないと高を括ったが、やはり限界だった。敵は昼夜問わず襲ってくる。へばっている余裕はなかった。できるかぎり魔力消費を抑え、あれやこれやと試してみる。どれも安定しない。


「敵がどんどん強くなってる気がするが、気のせいか?」


息が荒い。ちょうど集団で移動する猿のような怪物たちを振りきってきたところだった。


「最初にいた場所は神聖な場所だったんですよー。普段は、動物はほとんど寄りつきませんからねー。でもそろそろ場所的にー、動物が活発になっている所に突入したって感じですー」


 ここからが、いよいよこの森の本領が発揮される場所のようだ。今まででさえ、落ち着けた日々はほとんどないというのに。


「森を出たら、まずは昼夜問わず寝るぞ俺は」


「精神的にきてますねー。魔力も身体能力の1つですからねー。使えば疲れるのは当然ですがー」


 心配しているのだということが、声からわかる。こんな状況でも、1人じゃないだけいくらかマシだ。


「クソ……このままじゃまた殺されちまうなあ。どうすれば良いんだ」


 「あ! じゃあー、魔力変換効率を高めてみてはどうでしょうかー!」


 手を叩く音が聞こえてくる気がした。だいぶ疲れているようだ。


「何だそれ?」


 今まで聞いたことのない単語を言われて戸惑ってしまう。


「魔法は体内の魔力によって発動しますよねー?」


「そりゃそうだろ。ナメんなよ」


「でも魔法に使われる魔力ってー、いいとこ全体の2割程度なんですー。知ってましたー?」


「知るかよ……って2割!? 少な! 残り8割はどこいくんだよ!?」


 大介にとって魔法知識は守護天使からによるものだ。言われなければわかるはずがない。この守護天使はそこら辺を良く理解しているのだろうかと、時々不安になる。


「残りは魔法には使われずに体外にバーッて出てっていっちゃうんですー。ムダですよねー!」


「たしかにムダだな。じゃあ、その魔力変換効率ってのを高めれば」


「もっと長期的な戦闘が可能ですねー!」


「それはもっと早く教えろよ!」


 この守護天使は基本言うのが遅い。重要であればあるほど、言うのが遅い。この300年と少しの間に、言う機会はいくらでもあった気がしていた。


 なにはともあれ、この言葉をキッカケに、大介は魔力変換効率に重点を置くようになる。そしてここから、本格的に威力重視の魔法攻撃を磨いていった。幸か不幸か、300年間魔力コントロールを練習してきたことが良かったのか、上達は早かった。


「今度こそいける!」


その時の大介は、確信していた。これで森での生活は安泰であると。思いあがっていたのだ。


             ✳︎


 ダイスケは、両てのひらを魔石にあてた。


「【炎魔法/燃焼アントワーヌ・ブラスト】!」


 蒼い炎が魔石を飲みこむ。火柱は天高くまで上がり、闘技場内の温度を急速に上げていった。教師3人は、そのあまりの熱さに顔をしかめる。目を開けるのもやっとのようだ。耐えきれなかったようだ。その場から離れ、観客席まで瞬時に移動した。それでも絶えず燃え続ける炎。闘技場の壁もミシミシと音を立てはじめる。魔石は、耐えきれずに形を変えていった。


「久々にやると熱い!」


 大介は徐々に威力を弱めていく。火柱が細くなっていく。温度も下がりはじめた。炎が完全に消えたころには、魔石は跡形もなく消えていた。


「魔石が。なんて威力だ……」


「魔力量は平均だったはずじゃなかったんスか?」


「はい。そのはずです」


「しかも全く疲れてないなありゃ。とんでもない変換効率っスよ。」


「ええ、ほぼ完璧な変換効率です」


「え、聞いたことないっスよそんなん!?」


 そんな驚きの色を隠せない教師陣を見て、大介は小さく拳を握りガッツポーズをとる。


「 かなり良い感じなんじゃないか?」


 守護天使に話しかける。余裕が出てきた。逆転合格も夢ではないのではないかと思えてきたのだ。


「当然ですよー。だってダイスケさんはー、めちゃくちゃ強いですからねー!」


「え今なんて?」


 次はいよいよ実技の最終試験だ。


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