公女様はアルバイト中です(弐)
今回は主人公とヒロインが武器屋にお買いものに行く話です。武器屋で買うものは・・・なんと、「戦艦!?」
剣とか杖とか魔法の巻物じゃないんかい!?
(おい、待ち合わせしている姉ちゃんが来たようだぞ。お、可愛いね。平八の旦那、面食いだな。どうやって、あんな美少女ものにしたんだ?)
心の中でトラ吉が話かけてくるので、視線を泳がすとフィンが走ってくるのが見えた。このメイフィアの気候は日本の初夏という感じで、じっとしているだけで汗ばむ。平八は長ズボンとTシャツみたいなラフな格好だが、フィンも白いワンピースにつばの広い帽子という出で立ち。ワンピの丈が膝より少し上で恥ずかしがり屋のフィンにしては大胆な格好であった。
「へ、平八くん…ま、まちゃました?」
(かんだよね?今、かんだよね?)
かあ~っと赤くなるフィン。平八もなんて答えていいか分からなくて固まってしまう。
(おいおい、旦那。えらい純情だね。相手の娘も今時いないタイプだが…おろ?)
心の中のトラ吉が、フィンの顔を見たようだ。
(旦那の彼女、第5公女じゃないですか!?どうやって、ゲットしたんすか?)
興奮して喋り方がおかしい。
「お前はしばらく黙っていろよ」
平八は思わず、トラ吉に向かって話したら、フィンが自分に言われたと思って、
「ご、ごめんなさい。平八くん」
そっと下を向いてぽつんと話した。
「いや、今のは君に言ったんじゃないんだよ。ホント!」
キョトンとしているフィン。
「それより、今日はここでお買い物するんだよね」
「う、うん…」
「で、何買うの?」
平八はフィンの可愛い姿に今日は何か可愛い小物とか、服とかを買うのだと完全に思っていた。
(も、もしかしたら、水着を買うから選んでって…シュチュエーションだったりして!)
平八の勝手な妄想が続く。
「平八くん、これはどう?」
白地に鮮やかな花柄のワンピース。華奢なフィンでも出てるところがあって、引き締まったウエストと細い足がバッチシ。次はフォルターネック。オレンジ色のリボンが可愛い。大胆な黒を基調としたタンキニ、そして赤いビキニ…そして、な、なんと!この国にもあったのか!スク水!!
(魔法王国メイフィアありがとう)
「どうしたのですか?平八くん」
「はれ?」
「何だかボーッとしていたみたいで…」
「ああ、ごめん、フィン」
平八は魔法王国といっても相手の考えが分かる魔法がなくてよかったと心底思った。
「で、フィン。何を買うの?」
「軍艦」
「は?」
「軍艦です。戦列艦は無理だけど、駆逐艦1隻くらいは何とか…」
平八は驚いた。可愛い女の子が勇気を出して、「お買い物に付き合ってください」と言って買うのが、軍艦?駆逐艦?
「うそ?」
と思ったが、本当であった。フィンは市場の奥に行くととあるビルの建物に入っていく。店の看板は
「国軍放出品販売所」などと書かれている。
「ごめんください」
フィンの後について平八も店に入る。中はファンタジーゲームの武器屋のイメージだ。売っているものは銃やら刀やら、ちょっとファンタジーぽい感じがするのかしないのか不思議な品揃えだ。
「これは公女殿下、やはり来ましたね。ブルードラゴン幼生を撃破したと聞きました。賞金が入ったのでしょう」
「はい」
「Sランクだと5000ダカットくらいですか」
「はい。それで買える船はありますか?」
白髪が目立つ初老でメガネをかけた店のオヤジは、分厚いカタログをめくる。それには、レーヴァテインと同じような空中に浮かぶ戦艦の写真があった。
「5000ダカットでは、やはり性能や状態を考えると駆逐艦クラスでしょうな。戦列艦だとかなり古い年式になってしまいます」
「戦術の幅が広がるものはないでしょうか?」
「う~ん。潜空艦は面白いですが、値段がはります。中古でも1万ダカットからですね。それに公女殿下、メンテナンスや乗組員の給料や生活費を考えたら、賞金すべてを使うわけにはいけませんでしょう」
「そうですね」
(マジで…軍艦買うのか)
平八もカタログをそっと見る。レーヴァテインよりも大きい戦列艦は値段が二桁も違う。5000ダカットだと買えるのは中古の駆逐艦クラスだ。フィンの予算は3000~4000ダカットのようで、それだと数えるくらいしか選べない。
「どうですか、この魔法弾連射ができるミサイル駆逐艦。年式はちょっと古いですが状態はいいですし、オプションで魔法爆雷連射機能をお付けします。それで値段は4500ダカット」
「も、もう少し安くはしていただけませんか?」
公女が値切るという姿は少々違和感があったが、どうやら、公女提督は自分の艦隊を自分で買って編成するらしい。
マジ?軍艦って買えるんかい?
平八は心の中でツッコミを入れる。するとトラ吉が返してくる。
「旦那は知らないんですかい?公女様の艦隊は旗艦こそは国から支給されますが、原則、自分が操る船は自分で買うんですよ。メンテナンスも乗組員の確保もそう。一応、支度金やら、毎月の手当は出るらしいのですが、結構な額が公女方の持ち出しっていいますぜ」
「でも、公女ってこの国の王女様だろ?」
「パンティオン・ジャッジのために選ばれた公女のほとんどは、現王家とは血のつながりはないです。まあ、一般の女の子が選ばれることはまずないけどね。でも、今回のこの公女、フィンちゃんだっけ?かなり経済的に厳しそうだね」
「パンティオン・ジャッジって、ドラゴンと戦う艦隊を選抜する予選みたいなもんでしょ。それに出場するために艦隊を率いるのが公女様で、それは選ばれるってこと?」
「ああそうさ。250年前もそうだった。今回は誰が選ばれているのか、オイラが知っているのは、一人は現王家の娘で正真正銘の王女様。あとは大貴族の娘と大財閥の娘って聞いたけどね。この公女様は、大貴族のお姫様でも、大財閥のお嬢さんでもなさそうだね」
トラ吉に言われなくても、フィンには気さくな感じがある。でも、どことなく気品があるのはやはり公女に選ばれた何かがあるのだろう。
「平八くん、どう思います?」
「ああ…いいとは思うけど。お金は大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないです。でも、あと1隻ぐらいは増やさないと…。本当は戦列艦クラスが欲しいのですが…」
そんな健気なフィンの姿を見ていると、平八は何とかしてあげたくなった。
(確かに、戦列艦っていうのか?カタログを見る限り攻撃力がダントツ。だけど、フィンの艦隊は攻撃力よりもスピード、機動力じゃないかな)
平八はそう考えた。そうなると、オススメするのは、機動力の高い船だ。
「フィン。この高速駆逐艦ってのはどうだ?攻撃力は落ちるけど、艦隊のスピードが落ないよ」
「今、2隻保有しているのが高速駆逐艦です。もう一隻買えと…」
うん…と平八はうなずいた。どうせ、中途半端な攻撃だったら、いっそ、スピードを重視したほうがいい。
「この高速駆逐艦だと3800ダカットでいいですよ」
そう店のオヤジが言った。3800ダカット…平八の故郷である日本円にして、760万円という値段である。高級外車が買えるほどの大金だが、軍艦がこの値段で買えるか?となると多分無理だろう。
フィンが買うことに決めた高速駆逐艦も元国軍のパトロール艦で、退役したものを改造して販売しているらしい。そんなもの誰が買うって?
トラ吉によると、出没するドラゴンを討伐して賞金を稼ぐドラゴンハンターと称する連中にニーズがあるらしい。小さなドラゴンでも討伐すれば、5000ダカットの賞金が手に入るらしいが、かなりの戦力がないと討伐は難しいらしい。しかし、国軍のパトロール艦隊だけでは、多発するドラゴンによる被害を食い止められないので、民間のドラゴンハンターを募集しているだという。
平八メモ
その9 軍艦は市場にある中古武器屋で買える。
その10 主力艦である戦列艦は5万ダカットから。
その11 高速駆逐艦は4000ダカット程度で手に入る。
その12 今回ドラゴン討伐をする選ばれた公女は、王女様、大貴族の娘、大財閥の娘がいるらしい。
その13 魔法艦隊を率いる公女提督は、艦隊の経費を自分で出すという。
その14 ドラゴンハンターという職業の人間がいる。
買い物を終えた平八とフィンは、中古の武器屋を後にした。
「あ、あの…おかげさまでよい買い物ができました」
店を出るとフィンがポツリとそう言った。平八は慌てて、
「いや、この世界のこと、艦隊のこと、何も知らない僕が口出しして悪かったよね。後で考えると…」
「・・・・・・・・いいえ。そんなことありません。お金も安く買えましたし」
そう言うと二人共、急に言葉が出てこなくなった。よくよく考えれば、二人きりで話すのは初めてだったことに気づいたのだ。
「あ、あの…これから昼ごはんでもどう?僕がおごるから」
そう言って平八はポケットの金貨を握り締めた。トラ吉を買ったので減っていたものの、まだ8枚の金貨と銀貨1枚が手の中にあった。
「は、はい」
フィンがうれしそうに、そううなずいた。
いい雰囲気の主人公とヒロイン。このまま、ラブラブ路線を突っ走るか?
どう見ても相思相愛のようなんですが・・・。




