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アドミラル~魔法艦隊の艦長に転職したら、彼女(提督)ができました~  作者: 九重七六八
第1章 パンティオン・ジャッジ ~魔法王国メイフィア編
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公女様はアルバイト中です(壱)

処女航海を終えて魔法王国メイフィアの首都クロービスに到着した主人公たち。でも、救国の英雄のはずなのに安宿?ヒロインのフィンちゃんもバイトしているし?

これって?どういうこと?

 平八は魔法王国メイフィアの首都クロービスの安宿に滞在している。一応、この世界を救う魔法艦隊の艦長であるから、お城とか、せめてもっと高級なホテルに滞在かと思いきや、下が酒場になっている庶民御用達の宿だ。まあ、堅苦しいのはきらいな平八には、これはこれでありがたいのであるが。


 平八だけでなく、ナセルやミートちゃんたちも付近の安宿に宿泊している。さすがにフィンちゃんは城にいるらしいが。


(あの子、顔に似合わず、すごくケチなんじゃ・・・)


と思って、平八がベッドから起き出すと、下の食堂でそのフィンちゃんがエプロンをつけて働いている。


(え?なんで?彼女って、この国のお姫様じゃないのか?)

「あ、あの、平八くん…」


平八を見つけたフィンちゃんは、平八に話しかけてくる。


「朝ごはんの用意できてます。はちみつパンと卵焼きとミルクだけだけど…」

「あ、ああ。」


 フィンちゃんの可愛いエプロン姿にちょっとドギマギした平八は、なんて言おうか急に心臓がドキドキしてきた。


(エプロンが似合ってるね、フィンちゃん。いや、美味しそうだね…君が、じゃない、はちみつパンが…)


 頭の中でそんなセリフを反芻する。フィンちゃんはお盆から目玉焼きの乗った皿をテーブルに置くと、小さな声で、


「この目玉焼き、私が、あの、作ったんですよ…。あの、味わって食べてください」


と言ったので、平八はあまりの幸せに頭がボーッとしてしまう。


(もしかしたら、フィンちゃんて、僕のためにウエイトレスを?)


と思ったが、さすがにそれはなかった。フィンは他のお客にも朝食の給仕をしていたからだ。お客からチップをたくさんもらっている。お客は「公女様、がんばってくださいね」とか、「苦労しているね、少しだけど使ってください」と幾ばくかの金貨や銀貨をフィンちゃんの持っているお盆に置いていく。


(一体どういうこと?この国の公女様は、庶民の仕事をするしきたりでもあるのだろうか?)


 平八は不思議でならない。そうこうするうちに、フィンちゃんが恥ずかしそうにそっと近づいてきた。何だかモジモジしていて可愛い。


「へ、平八くん…明日の夜、お城でセレモニーがあることは知っているよね」

「あ、うん」


「その前に…あの、その…」


 フィンちゃんの顔が真っ赤になってくる。胸に手を当てて、深呼吸している。


「あの!わたしのお買いものに付き合ってもらえませんか!」


一気にフィンちゃんが言葉を吐き出した。言ってから、両手で顔を隠している。聞いている平八にも彼女の心臓の音が聞こえてきそうで、さらにそう言われて、平八の心臓が高鳴る。


「あ、ありがと!うん、喜んで!」


そう答えると平八の心は張り裂けんばかりに喜びで溢れかえった。


(うああ!フィンちゃんとデート!しかも、向こうからお誘い?いや、待て待て…)


平八は(冷静になれ!)と心に言い聞かせる。


(フィンちゃんは、お買い物って言った…。デートとは言ってない。危ない、危ない。また、勘違いするところだった。勘違いして、大恥かいたことは何度もあったじゃないか!?)


フィンちゃんは平八に近づくと、そっと金貨を差し出した。


「こ、今月のお給金です。12ダカット…少なくてごめんなさい」

「あ、いいよ。別に…」


 平八には、金貨12枚の価値が分からなかったが、食事と寝るところと着る服(今は普段着のシャツとズボンというラフな格好だが、艦長の時は立派な軍服がある)が最低限あるので、これにお小遣いがあるというのは贅沢なくらいであった。


「そ、それじゃあ、お昼の12時に市場で。市場はこの宿を出て大通りを右手に行くとあります」


 そう言うと、フィンちゃんはそそくさとエプロンを脱ぐと宿屋を出て行った。これからまたどこかで用事があるのであろうか?


 平八は部屋に戻って支度すると、フィンからもらった12枚の金貨を握りしめて、市場へ向かった。

魔法王国メイフィアは、よくゲームで出てくる中世の世界によく似た町並みであった。浮遊する金属でできた近代的な船があるにも関わらず、人々の家は石や木で作られているし、人々の服装も質素だ。まるでファンタジーの街に紛れ込んだ気分にさせてくれる。


ただ、よく見ると、動いている馬車の馬はユニコーンだったり、何やら呪文を唱えてから、手のひらを使って人と話しているなど、魔法を使っているような光景がいたるところに見える。ファンタジーの攻撃呪文などはないが、人々は魔力を使って日常生活を便利になるようにしているらしい。


(考えようによっては、現代の日本と変わりないじゃないか?魔法の代わりに携帯電話や、自動車、電子レンジ、オーブン、テレビ・・・みんな魔法と同じだ)


 平八はこの世界に来て、違和感がないのは魔法というツールを使っているとはいえ、便利に暮らしている様子は元の世界と変わらないからだと思った。市場は広い。通りがいくつも交差しており、露天から商店、石でできたビル?まであって、とても1日では回れない規模に感じた。フィンとの待ち合わせは市場の入口のアーチ状の門のところであったが、1時間はあるので、ちょっと見て回ることにした。


「へい、兄ちゃん、腹減ってたら魚の串焼きどうだ?肉のスープもあるぞ?」

「ジュース、ジュース。美味しい果物ジュース。いっぱい銅貨1枚」


 食べ物屋から雑貨屋まで露天を見ると、おおよそのことが分かる。まずは金貨の価値。


 金貨1枚は銀貨5枚と等価。銀貨1枚と銅貨5枚は等価らしい。そして、食べ物の値段とお金の価値を換算すると、金貨1枚はどうやら、日本円で2千円って感じ。


「となると、金貨12枚は2万4千円か…。確かに1ヶ月の給料としては安いよな」


 何だかフィンたちに騙された感じだが、渡すときに申し訳なさそうな表情を浮かべたフィンの顔を見ると、きっと、これが彼女の精一杯の出せるお金なのだろうと好意的に考えた。それに今の自分は艦長といっても、ほとんど仕事をしていないと思ったのだ。


「おい、そこの異世界の青年よ」


ふいに下から声をかけられた。思いがけない方向に平八は驚いた。そして、その声の主を見てさらに驚いた。長靴をはいた小さな猫がガラスのビンに入れられていた。値札が付けられている。


妖精ケット・シー ペットにどうぞ! 3ダカット5分の4


(ケット・シーってなんだ?)


「おい、青年、この俺様を買ってくれないか?きっと役に立つぞ!」


小さいくせに随分偉そうな口調の猫だ。そもそも、猫がしゃべったら驚くのが普通だが、平八は、街のファンタジーな雰囲気にその異常さを普通に受け入れている。


「君を買って僕になんの得があるっていうのだよ」

「あるさ…俺様は妖精ケット・シー。この世のことはなんでも知っている。それこそ、千年も寿命があるからな」


「千年って、君が生まれたのは何年前なのさ?」

「俺様の生まれたのは、今から四百年前さ」


「本当か?何だか怪しい?そんなに生きられるのか?」


 平八はケットシーというその生き物の興味を持ったが、そんな長生きする貴重な生き物がこんなところで売られていることがおかしい。


(大体、3ダカット5分の4ってなんだよ。金額にして7600円?高いのか安いのか…)


やれやれ…と平八は両手を上げて立ち去ろうとすると、このケットシー、言葉遣いが変わって、急に懇願口調になる。


「なあ、頼むよ。頼みます。おいらを買ってください。でないと、猫遣いの荒いおばはんに買われたら、おいらは死んでしまうよ!ああ、そうだ、おいらが魔法で占いをしてあげるから?」


「占い?」

「そう、占い。妖精ケットシーの占いはよく当たるんだ!」


「ふーん。じゃあ、やってみ」


 ビンの中で猫が立ち上がり、長靴姿で華麗にタップのリズムを刻む。そして一回転すると、ケットシーは口調を変えてこう話をしだした。


「お主には好きな女の子がいる。相手もお主のことを快く思っているようだ。だが、大いなる力の前にその思いは絶たれ、お主は愛を失うであろう」

「ほ、本当か…そんな不吉な占い?」


「但し、妖精ケットシーを買えば、その運命は変わるであろう」

「はいはい…インチキね」


「ちょ、ちょっと待ってくださいって!本当ですよ。このおいらを買ってくれれば、運命は変わります。ホントッス」


 必死なケットシー。胡散臭さは充分感じているが、何だかかわいそうになってきたのも事実である。平八は、こいつを買って解放してやろうと思ったのだった。


「あのおじさん、この動物買いたいのですけど」


 平八は露店のオヤジに話しかける。オヤジは売れないと思っていたらしく、平八が買うと言ったら大喜びで、このケット・シーに服従の誓約魔法をかけて売ってくれた。誓約魔法をかけられたペットは死ぬまで付き従うらしい。


「いやあ、ありがとうよ、旦那」


店から離れてケット・シーはそうお礼を言った。


「僕の名は東郷平八。平八でいいよ。君は?」


「服従するおいらの名前はペットに身分格下げされた時に奪われてしまったのだ。服従の誓約魔法をかけた平八の旦那が名を付ける権利がある」

「名前ねえ…」


 平八はこの長靴を履いた猫を見る。本当に猫ぐらいの大きさで2足歩行している以外はただの猫だ。毛並みは茶トラなので、平八は日本の猫によく付ける名前が浮かんだ。


「じゃあ、君はトラ…トラ吉にするよ!」

「トラキチ?何だかカッコイイ名前だな。平八の旦那、オイラは気に入ったよ」


 そう言って、この不思議な猫妖精はくるりと宙返りをするとコロンっと指輪に変わった。


「平八の旦那。普段、オイラはこの指輪にかくれているから、用事があったら呼んでくれよ。まあ、用事がなくても出てくるけど。ちなみにこの声は平八の旦那だけにしか聞こえない妖力だから」


 平八はそっと指輪を拾った。金色がベースでトラ柄の指輪だ。それをそっとポケットに入れる。何だか変なペットというか、相棒と出会ってしまった。店のオヤジによるとケット・シーは第2大陸の妖精族が住む地域にいる種族で、本来はペットにならないそうだが、犯罪を犯して妖精族から追放されてペットの身分に落とされるものがいるそうだ。


トラ吉の奴、一体どんな罪を犯したというのだろうか?まあ、それは平八にはそのうち分かるのであるが。


猫妖精ケット・シーのトラ吉。主人公平八の頼もしい相棒!といっても、真面目な主人公に悪いことを教えそうな奴っぽですが・・・。

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