処女航海に出たけれど…分からないことだらけです!(壱)
ファンタジーは世界の設定やら、なんやらでどうも説明的に書いてしまうところが難点。平八メモはそんな複雑な世界設定を整理するためにつけてみました。
さあ、ヒロインのフィンちゃんが出てきましたが、この娘、若くして艦隊の提督でお姫様みたいですが・・・。ちょっと、変、変な女みたいです。
メグリアさんに連れられてこの異世界トリスタンに到着したのは3日前。到着したといっても目をつむり、ジェットコースターの急下降を連続5分間くらったというような感覚の後、いかにもといった魔法陣が描かれた部屋で目が覚めた。そこは魔法国家メイフィアの異世界管理室。異世界召喚という正式手続きで連れてこられた人間はほとんどいないそうで、魔法陣を取り囲んだ5、6人の人間が平八を物珍しそうな視線で見た。
通常はこの魔法陣からこの世界の住人が観察のために平八の世界に行くのに使われるらしく、異世界からこの世界に正式手続きを得てやって来た人間は250年前に遡らねばいないらしい。(正式じゃない方法で来ることはあるそうだ)
しばし、休憩の後、面接があった。部屋に通されると二人の女の子がいた。第5魔法艦隊提督との面接というから、格式ばった感じを予想していた。しかし、二人共、見ようによっては軍服っぽく見える服を着ていたものの、フリルをあしらった、白の上着に白のタイトスカートにショートブーツという出で立ち。頭にちょこんとベレー帽をかぶっている。右胸に付けられた宝石は階級章だろうか。左肩にⅤという文字が書かれたワッペンが縫い付けられている。
「東郷平八さんですね?」
胸の宝石2つがエメラルドグリーンになっているオレンジ色のショートヘアの女の子が口を開いた。
「は、はい。東郷平八…です」
「ふ~ん。異世界から来た割にはどこにでもいそうな感じの男の子ね」
見た感じ、自分より年下だろ!と感じの女の子に男の子と言われると、ちょっと気に障る。だが、平八の視線はその生意気そうなオレンジ髪の少女の隣の人物に注がれた。流れるような長い黒髪。切れ長の目に色っぽい長いまつ毛。平八に見つめられた少女も真っ赤になる。
「ど、どうしたの?フィン?いくら、男の人の前で緊張すると言っても…」
モジモジする黒髪少女にオレンジ髪の少女が自己紹介を促す。
「フ、フィン…フィン・アクエリアスです…」
小さな声でそれだけ言った。後は何故か涙目になっている。
「フィンは第5公女。第5魔法艦隊提督なのよ。一応、この国では偉い人扱いだけど、そんなことは気にしないで、普通に接してくださいとのことです。ちなみに、私は彼女の友達で、同じく第5艦隊所属、副官兼索敵担当官をしているミート・スザクです。」
ミートと名乗った少女は、よく見ると目がクリッとした可愛い顔である。何より、大きな巨乳が動くたびにバイン、バインと揺れる。メグリアさんほどじゃないにしてもこれは将来、楽しみだ。だが、平八もそんなセクシーなミートちゃんより、スレンダーで清楚な佇まいのフィンの方に目がクギ付けであった。
「フ、フィンちゃんだよね?小学生の時に…」
と平八が言いかけると
「う、うう…」
突然、涙目になったフィンが部屋をものすごい勢いで飛び出して行ってしまったではないか。慌ててミートちゃんが後を追いかけていく。10分後ぐらいして、渋々、ミートちゃんが戻って来た。部屋にこもって出てこないという。
「まさか、あなたフィンの知り合い?」
「いや、知り合いというか、何というか…。小学校の修学旅行の時に会ったというか」
「え?ええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
ものすごい驚き声を出すミートちゃん。
「うそ!?あなたが…?」
相変わらず失礼な娘である。フィンの友達というなら、平八と同級生のはずである。
「あなたがねえ…」
何度もそう言ってミートちゃんは平八の姿を足先から頭のてっぺんまで何度も見る。そして机に置かれたファイルをペラペラとめくり、やっと納得したかのように頷いた。
「フィン提督はあなたを採用と言ってます。報酬は月12ダカット金貨。食事、服、住居は提供するわ。休みは不定期。これはバトルシップに乗るから仕方ないわ。条件は悪いと思うけど、これが私たちの精一杯の条件。受けてくれるわよね?」
そう言われても、12ダカット金貨の価値が分からない平八だったが、ここまで来たら断る筋はない。
そんなこんなで、この第5魔法艦隊旗艦レーヴァテインに乗っている。フィンとは面接以来、一度も会うことなく、この艦で再び出会った。あてがわれた宿舎に彼女がいなかったせいだが、平八の宿舎は街の宿屋って感じの安そうなところなので、第5公女とか言われているフィンはきっとお城にでもいるのだろうと勝手に思っていた。お姫様はお姫様なりに忙しいのだろう。
「しかし、このトリスタンという世界。みんな空中で暮らしているのか?」
平八は誰に言うでもなく、そう問いかけた。自分の眼下には艦の操縦に従事している人間が5人いる。まずは副官と索敵担当というミート・スザクちゃん。どう見ても平八より年下に見える。フィンの同級生ということは、フィンもこの世界では年下なのかもしれない。ミートちゃんは、なんでもハキハキしゃべる明るい女の子だ。ただ、一言多いのと少々、おせっかいなところがある。今朝も宿屋に平八を迎えに来てくれたのだが、顔を洗えとか歯を磨けとか、朝食はよく噛んで食べなさい…等とまるで母親のような感じであった。
航海長として舵を預かるのがシュテルン・カレラさん。彼女も女性だ。ショートカットのウルフスタイル。髪は灰色である。見た目は20代前半ぐらいと平八と同級性に見える。しかし、雰囲気は落ち着いた感じで、それだけ見れば2、3歳はお姉さんという感じだ。どんな性格かはまだ分からないが。
さらに通信担当のプリム・ケイマンちゃん、防御担当のパリム・ケイマンちゃん。双子の姉妹。一卵性なので見分けがつかない。二人共、長い金髪の髪をツインテールにしている。背が低く、まるで小学生みたいだが年齢も14歳ということだから、お子ちゃまである。一応、髪を止めているリボンが白いのがプリムちゃんで、赤いのがパリムちゃんとのことだ。攻撃担当が平八以外では唯一の男、ナセル・エンデバーク。見た目は平八と同級生って感じ。金髪の髪を無造作に伸ばした長身細身の男だ。メガネをかけて時折、それを中指で上げながらしゃべる癖がある。それは少々キザだが、気さくな性格で平八にいろいろと軽い口調で話しかけてくる。あと、ここにはいないが艦内の生活面のサポートをしてくれるメイド長のアマンダさんという20代半ばくらいの女性がいる。
この第5魔法艦隊旗艦レーヴァテインの乗組員は異様に女子率が高い。たぶん、平八には分からない理由があるのだろうが、今は知らないでいいかなと思った。職場に可愛くて美人な女性がいるのは悪くない。
平八の問いに答えたのはやはり、気さくなナセル。
「何だ?平八はメグリアさんにこの世界のレクチャーしてもらわなかったのか?」
「…教えてもらっていない」
あのダイナマイトお姉さん。いずれ分かるからとか言って、詳しい情報は何も話していなかった。
「メグリアさん、相変わらず適当~。じゃあ、俺が少しレクチャーしてやるよ」
「ナセル!役割がおろそかになっていませんこと?」
そう副官のミートちゃんが割って入る。
「スザク、俺の役割は攻撃担当。現在、第五艦隊は巡航中で敵影はなし。つまり、今は暇ということで。艦長閣下に有益な情報を伝える任務を遂行します」
「もう緊張感ないんだから」
渋々、ミートちゃんはナセルの行動を黙認する。
「平八、この世界トリスタンは4つの浮遊大陸と無数の浮遊島から成り立つ。全部、空中に浮いていて、人間はそこで暮らしている。俺らの魔法王国メイフィアは、魔法族の人間が住む第1大陸に位置する国だ。第2大陸、第3大陸と別の種族の人間が住んでいる。ちなみに同盟を結んでいて、この世界には戦争が起きたことはない」
「地上にはだれも住んでいないのか?」
「分厚い雲の下に広がるのは、酸の海だ。生物など存在しない。希に人が住める島があるって話だが、基本的には死の世界さ」
「酸の海?」
「ああ。突っ込めば、この船もあっという間に溶けてドカンさ」
そう言ってナセルは両手で弾けるジェスチャーをした。この男、話すときはボディランゲージをするから話が分かりやすい。
「君たちは昔っから、空中で暮らしていたのか?」
「遠い昔は地上に住んでいたという話だけど、千年も二千年も前の話しってことだ。二百五十年に一度、このトリスタンに現れるエターナルドラゴンが地上を全て破壊し、海を酸の海に変えたと言われている。本当かどうかは知らないが…。ありえない話じゃない」
「エターナルドラゴン?」
平八はナセルの話からもいろいろと聞きたいことが出てきたが、探知魔法による索敵で前方から近づいてくる船があるとミートちゃんが告げるので、話を中断せねばならなかった。平八は心のメモに聞いたことを書き留める。
<平八のメモ>
その1 この世界トリスタンには4つの浮遊する大陸がある。
その2 第1大陸には魔法を使う人間が暮らす国、メイフィアがある。
その3 第2、第3大陸には別種族の人間が暮らす国があるらしい。
※その生態及び姿は現在不明である。
その4 地上は酸の海で覆われている。
その5 地上に人が住めなくしたのはエターナルドラゴンという生物らしい。
※ドラゴンについては、現在、名前だけしか分からない。
ドラゴンと魔法艦隊…切っても切れぬ関係です。フィンちゃんも平八もこのドラゴンが結ぶ縁みたい・・・。