リメルダさん、ピンチです!(四)
ドラゴンを倒してホッとする第2魔法艦隊提督リメルダさん。しかし、状況は思いがけない方向へ進んでいきます。
「ドラゴン、生命反応なし。討伐成功」
ナアムの報告が聞こえたが、リメルダはドラゴンのあまりの強さに声がなかった。
(あれでMクラス…クラスGやレジェンドドラゴンとどう戦えばいいの?)
気丈なリメルダも手が小刻みに震えていた。妖精族の艦長、ナアムがそっと親友でもある第2魔法艦隊提督の手を取った。
「姫さま、少なくとも私たちの攻撃はドラゴンに通用しました。被害は甚大ですが、初戦でMクラスを倒せたのですもの。パンティオンジャッジを制した人類の魔法艦隊は、奴らを殲滅し、この世界を守ることができますとも」
と力強く言ったのだった。
「そうね。ナアム、こちらの被害は?」
「第12パトロール艦隊は1隻を残して全滅。司令官ウルバヌス中将は戦死の模様。1隻も中破。現在、火災が発生中。我が第2魔法艦隊は、撃沈、戦列艦1、巡洋艦2、駆逐艦3。大破、戦列艦2、巡洋艦2、駆逐艦4です」
「戦力を根こそぎ奪われたわね」
「被害を受けた艦は自力飛行できますので、近くの軍港へ移動させます」
「そうね。そうしてちょうだい」
リメルダはほっとして、指揮官席に腰を下ろした。被害は大きかったが、あのドラゴンがもし都市を襲ったら大変なことになったであろう。あのメテオストライクの魔法がバーニングカムの町に降り注いだら、それこそ町が地獄と化すところであった。
「提督、お茶をお持ちしましょうか?」
副官に言われて、リメルダはやっと気を緩めた。体を伸ばしながら副官の持ってきた熱いお茶を一口飲み、今後の予定を考えていた。艦隊の修理を考えるとパンティオンジャッジへの参加日程が大幅に狂うのだ。
「姫さま!第3魔法艦隊が…」
艦長のナアムが、そう言って指を指したので、その方を向くとキラリと光ったのが見えた。
(うそ!?)
前を航行する傷ついた戦列艦オパールローズが爆発する。振動で旗艦ブルーピクシーも揺れる。リメルダは思わずカップを落とした。床に落ちて割れてお茶が飛び散る。
第3魔法艦隊が攻撃してきたのだ。そうパンティオンジャッジ中であり、公女の艦隊はお互いに代表権をかけて戦っている最中なのだ。
通常、第5魔法艦隊が順に勝ち上がっていくのであるが、途中の艦隊が上の艦隊に戦いを挑んでもルール上は許された。第3魔法艦隊は、下から勝ち上てくる4ないし、5魔法艦隊と戦い、その戦力と経験値でもって第2魔法艦隊に挑むのが定石であったのだが、今の状況を見て方針転換したに違いない。
第2魔法艦隊はドラゴンとの戦闘でその戦力の大半を失っていたのだ。そしてデストリガーを使ったリメルダも魔力が枯渇していた。提督の魔力が十分でない状態の艦隊をここでトドメを指すのは簡単であった。だが、それはルール上許されても、人として許されない行為でもあった。かなり卑怯なのである。
「第3魔法艦隊旗艦、クイーンエメラルドにつなぎなさい!」
リメルダは通信兵に命令する。ほどなく、魔法通信で提督ローザ・ベルモントが艦橋のスクリーンに映し出された。
「これはどういうこと!ローザ」
「あら、お怒りのようですわね」
「当たり前です。こちらは対ドラゴンとの戦闘で大半の戦力を失ったのです」
「そのようですわね。おかげでわたくし、楽に勝てますわ」
「卑怯とは思わないの!」
「思いません。わたくしの目に映るのは千載一遇のチャンス。棚からぼた餅ですわ」
「こんなんで勝っても、国民はあなたをあざ笑うでしょう」
「ふふふ。勝てばいいのです。それにこんなこと、お父様のお金の力でいくらでも改変できますわ。あなたはここで終わりなさい。まあ、撃沈するのはかわいそうだから、適度にダメージを与えておくわ。艦隊は全滅させてもらいます。これでわたくしは、マリー公女様だけがターゲットとなりますわ。ホーホホッホ…」
高笑いと共に通信が途切れた。と同時に第3魔法艦隊からすさまじい砲撃が開始される。ドラゴンとの戦いに傷ついた第2魔法艦隊はなす術がない。
「戦列艦からレベル7ファイヤーボム3発来ます!シールドがもちません!」
「魔法魚雷1発、後部に着弾、浮力低下…」
「姫さま、このままでは全滅です!」
ナアムがリメルダに叫ぶ。リメルダは決心した。ここで意地を張って全滅しても意味がない。少しでも戦力を逃がし、再起を図ることだと。それには艦隊を解散し、各艦がそれぞれで逃げることだ。
「第2魔法艦隊の指揮を解除する。有人艦は各自の判断で戦場を離脱せよ。航行不能になった艦は降伏しなさい」
そう命令を伝える。すると各艦の艦長から、
「降伏して、第3魔法艦隊に編入されるぐらいなら、自爆します!」
「最後まで戦って、少しでも卑怯者にダメージを与えたいと思います!」
と返答が入る。リメルダは彼らの思いに感謝したが、旗艦には絶対魔法防御の守りで艦橋にいれば命まで失うことはないが、他の船は違う。これ以上、自分に従う者たちに死んで欲しくはなかった。
「ダメです!これは命令です!」
リメルダは各艦長に逃げるよう再命令するが、
「提督、最初の解散命令は受諾しています。もはや、我々は提督の指揮下にはありません。我々は自由意思で戦うのです」
「あなたたち…」
「我々はリメルダ様が、パンティオン・ジャッジに勝利し、人類を救う方だと信じております。ここで艦隊は潰えたとしても、あなた様なら、どんな形でもドラゴンどもを狩って、この世界を守ることができると信じています」
リメルダは涙で声が出ない。次々と第3魔法艦隊に破壊され、落ちていくが猛反撃で第3魔法艦隊の損害も出ている。
「姫さま、エアブレイドレベル9来ます!直撃です!」
敵旗艦から発射された魔法弾がこちらに向かってくる。あれを受けたら、このブルーピクシーの装甲では耐えられない。もはや、これまで…と思ったリメルダは思わず目をつむる。
だが、それは割って入った味方の戦列艦ナイトローズに当たった。巨大な戦列艦が破壊され、爆発炎上して落ちていく。
落ちながらも艦橋で、こちらに向かって敬礼している乗組員の姿が見えた。
「ば、馬鹿なんだから…あなたたち…」
リメルダの目に涙が溢れてくる。
「姫さま、ブルーピクシーの被害も甚大です。浮力ユニットが破壊され、これ以上、浮いてられません。森に不時着するしかありません」
ナアムがそう叫ぶ。もはや、船のコントロールは不能であり、持てる魔力を総動員して船の行方をごまかす魔法と存在をしばらく消す魔法を駆使して広大なレジェンドフォレストと呼ばれる森の中へと不時着していった。
卑怯な第3魔法艦隊・・・。リメルダさん、どうなってしまうの・・・。




