パンティオン・ジャッジ前夜祭(壱)
今回、パンティオン・ジャッジ(ドラゴンと戦う魔法国家メイフィアの代表を決める艦隊戦)の前夜祭が開かれ、出場する5人の公女が明らかになります。
「只今より、パンティオン・ジャッジに選ばれし、5人の公女の入場を行います」
司会の書記官が厳かに告げる。魔法王国メイフィアの王都クロービスの中心に位置する王城トラフォルガーの大広間には2000人を超える客が招かれていた。今夜の式典を機に5人の公女が率いる艦隊同士の戦いが行われ、この国の世界を救う代表が決められるのだ。
第5艦隊旗艦レーヴァテインの艦長である東郷平八は、この式典に関係者として参加している。他に参加しているのは同じレーヴァティンの乗組員たちで、メイド長のアマルダさん以外は、士官待遇ということでこの式典に参加している。後は王族、貴族、軍の高官、大商人、賢者、技術者、学者などこの国の一流の人間が集まっていた。
「まずは、第1魔法艦隊提督、第1公女マリー・ノインバステン王女殿下」
「うおおおおっ!」
という大歓声と「王女殿下万歳」の掛け声の中、輝くような金髪に巻き毛、スタイル抜群の女性だ。年は平八と同じくらいに見える。欧米のモデルか?と思えるようなゴージャスさの中に王女と呼ばれるだけの気品と血筋の良さが前面に出ている。
(すげえ…美人)
平八も思わず小さくつぶやいた。そのくらい、高貴なオーラを放っている。
「みなさま、今日はよくお集まりいただきました。感謝致します」
そう一言を残し、会場の5つ置かれた椅子に座る。
「第2魔法艦隊提督、リメルダ・アンドリュー公爵令嬢」
今度は黒髪スレンダー美少女が現れた。ちょっと目がつり上がった感じのキツイ感じではあるが、このお嬢さんも清楚な気品に包まれている。
「第3魔法艦隊提督ローザ・ベルモント嬢」
3人目はマリー王女よりもゴージャス…いや、超迫力ボディ。Gカップはあるのではという巨乳の谷間を宝石が散りばめられたパーティードレスの胸元から惜しげもなく出し、さらにビックなヒップがプリンプリンしている。長い赤毛のロングヘアにちょこんと乗るティアラは光り輝く5つの大きな宝石が輝いている。指にも豪華な指輪が光る。王女様や公爵令嬢よりも豪華さの点で目立つ。ゴージャズという英単語がぴったりな女性である。
(平八、あの娘がベルモント財閥のご令嬢だ。今回の参加者の中では魔力は弱いが金の力は史上最強で、統率する艦隊数は第1魔法艦隊以上と聞く)
そうトラ吉の声が聞こえる。
(確かに、この世界に来て大金持ちはこういう人だよ!というのを具現化しているわ)
と平八は感心してしまった。この世界に来ても元の世界と同様の庶民の暮らしをしてきたから、こういう金持ち娘を見るのはとても新鮮だと平八は感じたのだった。
「第4魔法艦隊提督、リリム・アスターシャ嬢」
今度は「リリムちゃーん!」
という掛け声と共に宮殿の外に集まった群衆の声が響き渡った。どうやら、ものすごいかずのファンがこの城を取り囲んでいるらしい。
(リリム・アスターシャは、この国の超売れっ子歌手。メイフィアの歌姫さ)
そうトラ吉が解説するまでもなく、平八にはこの美少女のアイドルとしての輝きを感じた。但し、リリムちゃんはちゃん付するのがふさわしい。どう見ても小学生か中学生という小さな女の子だ。歌姫といってもまだお子様である。
「なあ、トラ吉。今回のパンティオン・ジャッジは250年ぶりなんだよな」
「ああ、そうさ。というより、250年に1回開かれるから」
「王女様に、公爵令嬢、財閥令嬢にアイドル…さすが、250年に1回開かれる伝統の儀式なんだろうけれど、あの中にフィンはかわいそうじゃないか?」
平八は思わずそうトラ吉に話しかけた。確かにフィンも美人だし、可愛いとは思うが他の4人のキャラの強さに比べるとあまりに違いすぎた。この4人に比べたらフィンは地味すぎる。
(いや、そこが良いのだが)
平八がそう思ったことは、間違いないようで、最後にフィンが紹介されても型通りの拍手で軽くスルーされてしまっていた。フィンもそれで満足のようでそそくさと席に座ると、座っているにいない…みたいな感じになってしまった。
この後、マリアンヌ女王が登場し、パンティオン・ジャッジの開始宣言と共に立食パーティーとなった。参加者は5人の公女に話しかけたり、思い思いに談笑にふけっている。
ナセルの奴と見るとはミートちゃんに昨晩のことで怒られているのか、彼女の前でペコペコしている。怒られているはずなのにやつの顔は嬉しそうだ。平八もフィンのところへ行こうかと思ったが、昨日のあのフィンの姿を思い出すと会うのが恥ずかしくてどうも一歩が出ない。
「君がフィンの旗艦の艦長に抜擢された異世界の青年?」
後ろから話しかけられて平八が振り返ると、長身細身で金髪のサラサラヘアを嫌みたらしくかきあげているイケメンが立っていた。いかにもヨーロッパの王子という風体で大抵の女子が「きゃあ!王子様素敵~」などと叫ばれるが、それに「ふっ…」などとほざいて、
「モテる男はつらい…」などとキザなセリフをはく感じの青年だ。
ちなみにこういう男は見た目だけで平八は大嫌いと判定している。これなら顔はいいのに三枚目のナセルの方がマシだ。
だが、見た目だけで敵と決めるのも知らない世界では不利なので、平八は適当に
「はあ?」
と応えた。
「僕はヴィンセント・ヴァン・ノインバステン伯爵」
「ノインバステン?あの王女のお兄さんか、何か?」
この国の女王はマリアンヌ・ノインバステン女王であるから、この男、少なくとも王族なのだろう。イケメンで血筋も名家とは万死に値する。
「兄?おーう!それは間違っている。僕はマリーの従兄妹で現時点で彼女のパートナーさ。つまり、彼女の最強の魔法第1艦隊旗艦コーデリアⅢ世の艦長さ」
「なるほど…ライバルってわけか?」
平八が小さな声でぼそっとしゃべると、その言葉を目ざとく聞いたヴィンセントは右手を額に当てて、急に笑い始めた。
「ククク…ハッハッハ。これは笑える。僕と君がライバルだって?これは何のジョーク?もしかして、君は知らない?知らないんだ!いや、ますます面白い」
平八は不愉快になった。最初の印象はどうやら正しかったようだ。このいけ好かないイケメン野郎は性格も最低なようだ。
「僕はこの世界に来てまだ10日だ。知らなくて当然だ」
「そう言えばそうだったね。いや、これは失礼。まあ、せいぜい、がんばってくれたまえ。君と戦えることを祈っているよ。まあ、100%無理だけどね。あ、そうそう。言い忘れていたけど、君の提督、フィンちゃん。結構可愛いね。第5魔法艦隊じゃ、注目されないけど、ああいう地味目の美人はいいね。だから…」
「だから…なんだよ!」
平八が答えるや否や、グイっとヴィンセントは平八の胸ぐらを掴み、耳元で囁いた。
「お前、フィンには手を出すなよ。彼女は僕が目をつけたんだ。勝ったら恩賞として彼女を僕のヨメにしようと思っているからな」
「よ、ヨメって?」
ヴィンセントはスっと平八を話すとグラスを傾けて、一口飲むと
「いやいや、第5艦隊旗艦艦長の健闘を祈るよ!せいぜい、この僕の引き立て役にたってくれるよう健闘を祈っているよ。それじゃ」
ヴィンセントはそう言うと、左手を上げて立ち去った。パーティに参加している令嬢たちの熱い視線を受けながら。
「トラ吉、アイツは何言ってるんだ?フィンを嫁にするってふざけるな!」
「旦那~アイツの言ってることは間違っちゃいない」
「ど、どういうことだ?」
「あの男がマリー王女の艦長ってことなら、順当に言ってフィンちゃんは、アイツが望めば嫁になるしかない」
「な、なんで?」
平八は驚いた。そんなことが許されるのか?
「オイラの妖精族ではそんなしきたりはないけれど、この魔法国家メイフィアは魔力で成り立ってる国だろ?魔力は血脈なんだ。魔力の強い遺伝子が次世代のこの国家を支えていくんだ。パンティオン・ジャッジで優勝した公女のパートナーは、任意の女性を嫁に指名できるしきたりがあるという。よって、現在、優勝候補であるマリー王女のパートナーである奴が、フィンちゃんを嫁にする可能性が高いということ」
「そんなバカな!フィンがあんな奴に…」
平八はショックで心がぽっかり穴が空いたようになった。フィンが遠くへ行ってしまう。ギュッと制服の帽子を掴み、両手で握り締めた。
「旦那。オイラを救出しなければ、その運命だったけれど、このオイラが平八の旦那のサポートする限り、その運命は覆しますって!」
「だって、奴を倒さなければいけないのだろう?」
「正確に言いますと、旦那がフィンを救うには、1回戦、第4公女リリム・アスターシャの第4艦隊を撃破。そして2回戦、ローザ・ベルモントの第3艦隊を撃破」
「ちょっと、ちょっと待て、トラ吉!」
「何ですか?旦那」
「それって、僕たちが奴と戦うには、3回勝たなかればいけないってこと?」
「そうです。だって、第5艦隊ですからね。奴は上がってきた相手を決勝で破れば、優勝してフィンちゃんをGETできるってわけだ。うらやましいぜ!」
「圧倒的に不利じゃないか!」
「考えようによっては、そうじゃないかもしれませんぜ?」
トラ吉が言うには、そもそもパンティオン・ジャッジの制度があるのは、艦隊同士が戦うのは切磋琢磨してレベルを上げることを目的にしている。3度も格上と戦い経験を積めば、充分強くなるということだ。もちろん、迎え撃つ方も十分経験を積んだ相手を撃破すれば、経験値は上がる。平八は最初、味方同士で戦わなくても全員でドラゴンとやらに立ち向かえばいいじゃないか?と思っていたが、トラ吉の意見だとレベル1の魔法使いが5人でドラゴンに立ち向かうよりも5人で切磋琢磨してレベル10になった一人が戦った方が勝つ可能性があるということだ。確かにそうだが…。
いや、やっぱり出た五郎八の小説に必ず出るいけ好かないイケメンキャラ。こう言う奴に心あたりがあるわけではありませんが、主人公のライバルになってもらいましょう。




