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わたし、熊さんよめ!




「お、おかあ…さま、あの……」

「私新作のドレスが着たいのね!」

「ち、ちがいますううううう!!」



あれ、やっぱり駄目だったかと思ったお嬢さん、こそこそと義母の部屋に入ろうとして早々に転ぶ。









「―――クリスマスプレゼント?」



紅茶の香りを楽しみつつお嬢さんの声に耳を傾けていた子爵の母、そしてお嬢さんのお姑さんにもなる夫人を前に大げさに頷くと、あの事件以来ビビりに拍車がかかったお嬢さんが頼み込みました。


「わ、わたし、あげられるような物もないので……とても申し訳ないけど、何か手作りのもので…贈りたいなって」

「そんな自分を低くしちゃ駄目よ?テディなんてあなたがくれるのなら暖炉の薪だって喜ぶんですからね」

「薪!?」


その例えもどうなのかと思ったけれど、優しくお嬢さんの不安げな手を擦ってくれる義母の手が気持ち良くて、黙り込んでしまいました。



「―――まあでも、好きな殿方に手作りを贈りたいのは古今東西変わらぬ想いよねえ。……うん、いいわ!せっかく私を頼ってくれたんですもの、とても素敵な贈り物を作りましょ!」

「おかあさま…!」

「そうね、普段着一式とかどうかしら?本当は夜会用が好ましいのだけれどね、ほら、そうすると夫に集ろうとする害虫を一発で殺せる最強の手札にもなり得るのよ。でも時間的に苦しいわよねえ、ああでも夜会用…あの子とあなたの夜会用…たまには大人っぽく出すとこ出すのもいいかもしれないわね。春の祭りになったらこの母が可愛らしい物を作るから着て頂戴ね!やっぱり季節の花を入れて……」

「お、おかあさま!おかあさま、話が飛んでますっ」

「あらあらごめんなさい…うーん、でもあなたは裁縫初心者よねえ…それでこの期間…うーん………あ、そうだわ!」

「!」

「これならロリ可愛くてテディも大喜びよ!」

「おかあさま、ろりかわいいってなんですか?」




―――何てことがあった後、お嬢さんは自分から何度も何度も義母の部屋に行きました。


度々義母のドレス攻撃があったけれども、案外裁縫には辛口な義母だったけれど、お嬢さんの贈り物の出来は想像よりも綺麗な物です。



「見て見て、サディ様への贈り物なのだけれど」

「わあああ…!すごい!なんて綺麗な服…!」

「ふふふ、私も出来ることが少ないから、クリスマスはこうして作った物をあげているのよ」

「いいなあ……わあ、こんな細部まで…!」

「あら、あなたにもあるのよ」

「へ?」



手が傷だらけのお嬢さんに、「本当はこういうの、テディが贈りたいでしょうねえ。でもこのお母様が一番乗りよ!」と笑って誤魔化すと、そっと贈り物を畳みました。


「たとえ体が弱くても、満足に外に出れなくても。こうして家族に贈り物を作れるだけで、十分幸せなの」

「そうですね…」

「でもねえ、男の人にこういう感情って、分かってもらえない物なのよねえ」

「……?」

「ふふっ、今年のクリスマスイヴ、私たちはお外にお出かけよ!」

「ええっ!?」

「テレーゼもね、婚約者も吃驚な贈り物をして心臓を止める…ああ違う、心臓を射止めるつもりらしいから、帰って来ないわ」

「」

「二人っきりのイヴねえ!」



そんな嬉しそうな顔で言われると、お嬢さんは何も言えないではありませんか。


「クリスマスは家族一緒に過ごしましょうねえ」と微笑む義母にお嬢さんは項垂れるような形で「そうですね…」と呟きました。











真っ白な雪道のようなお菓子。チョコケーキの上にも真白の粉の魔法。

子供だましの飲み物に、タルトタタンと若鶏、魚の良い匂い―――


「……たべきれません…」


もう目の前のサラダとチーズをもちゃもちゃ食べられればいいような。もう見ただけでお腹いっぱいです。


二人だけだからとアイボリーのテーブルを引っ張り出したせいで、手狭なテーブルの上は大変にぎやかです。


「まあまあ、いいじゃない。こういう日はたくさん食べ物がある方が」


子爵は本物のお酒片手に笑っていて、お嬢さんはその差に頬を膨らましてしまいます。


お嬢さんだってお酒の一つ二つ飲める年齢だというのに。子供扱いばっかりです。


「リーゼは可愛いなあ。――ほら、乾杯の音を聞こう?」

「むぅ……」


お嬢さんは渋々グラスを手に取ると、子爵のそれにそっと合わせて綺麗な音を聞きました。

少しずつ喉を通るそれが案外美味しくて、お嬢さんはちょっと上機嫌。…なのを見られて、頬を赤くしてそっぽ向きます。


「よっしゃ、じゃあタルトタタン…うん、このくらいで」

「ちょっ、食べきれな」

「鶏はこれくらいかな?」

「えっ」

「あとこれとー、それと…」


お嬢さんの皿にポイポイと入れていく子爵にお嬢さんは涙目です。

いつもいつも、食事の度に思うのだけれど――子爵はお嬢さんを太らせて、食べてしまいたいのでしょか?



「…こんなに食べたらドレスが入らなくなります」

「いいんだよ」

「えっ」

「お嬢さん、華奢過ぎて不安になるから。もう少し肉付けてもらわないと」

「え、あ――こ、これが普通ですもんっ」

「いーや、ここまで抱え甲斐のない子は初めてだ。ウチの猟犬よりも軽いよ」

「犬より!?」



どんな犬なのでしょう。猟犬というからには重いのかしら、軽いのかしら――今度、会わせて欲しいと言うべきかしらと思っていると、子爵が口の横にソースが付いているのにも気付かず鶏肉を頬張っているのに気付きました。


お嬢さんはそれをじっと見た後、こんなに頼りになる人でも可愛いなあとこっそり笑って、目が合った子爵に人差し指を自分の顔に当てて教えてあげます。


「おっとごめん、お嬢さんの前で――」

「いいえ、テディさん可愛いです」

「女の子に可愛いって言われてもなあ」


だって目の前には熊が一匹。…じゃない、熊のような男が一人。


なんだか子爵は自分の容姿についてとても気にしているようだけれど、お嬢さんにとっては格好良くて可愛くて、男らしくてどきどきしますのに。


それを伝えたい―――お嬢さんはちょっと落ち込んだ子爵に、傷の癒えない手で愛らしい色の包みを差し出しました。



「ぷ、ぷれぜんとです」



ちょっと早かったかな、いらないって言われるかなと不安でしょうがないけれど、お嬢さんはたぶん今だと信じてみます。


子爵は息を飲んだ後、笑みを噛み殺してそっと受け取りました。


「開けていい?」

「もちろん」


本当はやっぱり駄目と言いたいけれど―――子爵が包みを開けると、出てきたのは可愛らしい、



「くま?」

「は、はい…一生懸命、おまじないも込めて作りました」


くるくるの毛並。チョコレートのような色。


襟から出る大きなリボンは緑と銀で、可愛らしさが強調されています。



「可愛いなあ」

「あ、あり、ありがとう…ございます……」

「どんなおまじないを込めたの?」

「……―――ずっと元気でいてくれますように」



私にとってそののように癒してくれるあなたが、ずっと元気でいてくれますように。


―――そう、照れ照れとお嬢さんが言うものだから、子爵まで顔を赤くするはめになります。

子爵はとりあえず誤魔化すように、酔っているように大きく笑うと、愛らしい熊さんに頬擦りしました。


「うん、今まで熊は好きじゃなかったけど、この子は好きになれそうだ」


似てるー?とふざけてひとしきり笑った後、「じゃあ俺も、」と子爵はお嬢さんに箱を差し出しました。


「……?長いですね…」


それと何だか高そう。…お嬢さんは慎重にリボンを解くと、「わあ…!」と顔を驚きに染めました。



「万華鏡…!」



覗き込む先は、ステンドグラスよりも美しい世界。


ここまで立派で手の込んだもの、とても高かったでしょうに。食事の席で持っているのも申し訳ない――のに、手が離せない。



「ドレスとか宝石とかを贈っても、なんだかパッとしないなあと思って。べーちゃんの所に腕のいい職人がいるって聞いて頼んだんだ」

「こんな…素晴らしい物…私、あんな熊しか――」

「俺にはこれ以上の価値が、あの熊にあると思うよ」



そう微笑む子爵に、思わず「薪でも喜ぶ」と言った子爵の母を思い出しました。


(…この人は、何もできない私にここまでしてくれる―――)



申し訳ない。ごめんなさい。………嬉しい。



「うれしい、です……ありがとう、テディさん…!」



いつか、私の生が途切れるまで、あなたの灯が消えてもなお。


私を愛してくれるあなたに、その倍以上、愛したい。幸せにしてあげたいと、図々しくも思うのです。








――――そうして食べ終わると、二人は暖炉の前でのんびりしていました。


お互いプレゼントを大事に抱えているのが何だか子供らしくて、暖炉の熱気とは違う熱でお嬢さんの頬は赤いのです。



「いやあ、この歳になってお嬢さんと初めて一緒のクリスマスを過ごしたもんだから、この後どうするか悩むなあ」

「私も、お父様が亡くなられてからは…お祝いごとなんてしたことないです」

「ははっ、じゃあ二人して手探り状態かあ……」



クリスマス。屋敷に家族はいない。現在、子爵の部屋。


……何だか身の危険を感じるような感じないような。でも心地良くて、お嬢さんは温かい子爵の腕に頭を預けたまま、ぽそりと呟きました。


「……サンタさん、結局もう会えなかったなあ……」


父の死以降、ぱたりと。義母は「お前が悪い奴だからだ」と言うだけで。


一度でいいから会ってみたい―――と思っていると、目がまん丸の子爵がお嬢さんを見つめていました。



「…サンタさん?え、サンタさん……?」

「え、サンタさんですけど…?」

「リーゼ…あの、何歳まで来てた?」

「…お父様が亡くなる前です。それまではお父様がサンタさんの知り合いだから、欲しい物を予め言ってあげると親切で云々って……あっ、子爵もサンタさんの知り合いですか!?」

「」

「私は不義の子だから、悪い子だけどお父様が頼んでくれたから、サンタさんは来てくれたのかな……もう成人したし、嫁いでしまうし。サンタさん……会えないのでしょうか」

「あー…あの、あれ……そんなことないんじゃないかな!!」

「!…じゃあ会えますか!?」

「」

「わ、わたし!もう一度会いたいです!サンタさんにありがとうって言いたいんです!いつもお父様が伝えておくからって言ってくれたのでお父様に感謝の言葉を贈っていたけれど―――お父様が言うには、サンタさんはとても強くて格好良くて大きなトナカイを従えて真夜中を徘徊するそうなんです、忙しいから声を掛けちゃ駄目って言われてて、」

「………おとうさん…見栄張っちゃって…」

「え?」

「あっ、いや!…いやーそんなすごい人と知り合いだなんて、リーゼのお父さんはすごいなー!」

「はいっ!お父様はすごいんです!」



屈託のない純真無垢な笑顔で言われると、もう子爵には「真実」を教えることが出来ません……。

せめて亡くなる前に、もしくは誰かが成人を迎える前に教えてやればいいだろうに―――そう思う子爵ですが、実はあのお嬢さんを憎んでいた義母でさえも、このまったく疑っていない少女の様子を見ると「いじわる」出来なかったのでした。



「あの……リーゼって、サンタさんから欲しい物ってある?」

「え?」

「いやあの!俺の…あの……そう、父さんが!サンタさんの友達だから!!」

「ええ!?」

「リーゼはとても――俺をこんなにも幸せにしてくれる良い子だから。サンタさんも今まで通りにお父さんから教えてもらえなくて困ってたんだろうけど、きっと今年…か来年にでも素敵な贈り物をあげたいって思ってるんじゃないかな!」

「ほ、本当ですか!」

「うん………ごめんっ父さん…」



嘘を嫌う父だけれど、でもきっとこの子を前に嘘を正そうなんて出来ないのでしょう。


母もロマンティックな物が好きだし、頼りの姉はきっと「あの星の向こうに住んでるのさ!」とか適当なことを言って頷きそうな気がします…つまりは彼女が気付かない限り、ずっとこの嘘を守らなければいけないのでしょうか。



「……でも、きっとはしたないって怒られてしまいます…」

「いいから、言ってごらん?」

「………乗ってみたいんです。」



トナカイに。夜空を走るソリに。



―――子爵は思いっきり顔を引きつらせた後、照れ照れしたお嬢さんの頭を撫でてあげました。







ロリと付き合うとこんな被害が!




なお設定ではお嬢さん、16か17歳のはず……せめて13の時点で教えてやれよと思います←


熊さんはたぶん、色々ズレてる幼な妻に振り回されることになると思われ。


◆拍手にてクリスマス熊さん一家を書きました!

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