25.男爵令嬢の嫁ぎ先
※ラストに作者絵注意
「御機嫌よう、イリア様」
「御機嫌よう、マリア様」
ふふふ、と微笑むマリアはとても幸せそうです。
珍しく夫と夜会に出かけたので、先ほどから独身と間違えられて愛の言葉を囁かれていた(まったくの無表情で)のですが、のんびりお酒を貰うイリア夫人を見つけて異性を振り払って引っ付いてきました。
「お元気そうでよかった」
大変でしたわね、という言葉がとてつもなく棒ですが、イリア夫人は「いやー、本当ですよぅ、でも元気いっぱいですよー」とお酒を呷るのです。
「そういえば、あなたの旦那様はどうされたので?」
「グレット様ならお父様にご挨拶を―――」
「マリア!」
のんびり答える彼女の背後から、むっとした顔の侯爵がやって来ました。
イリア夫人の前からマリアを退かして、「お前か、」と喧嘩を売り始めます。
「あ?何ざんしょ」
「お前だな、マリアに悪影響を与えた女は!」
「…もともとマリア様はアレでしたよ」
「うっさい!……『リリスの何とかかんとか』って本をお前が教えたせいでマリアの目が穢れたんだぞ!」
「"暴れん坊令嬢♥リリスのサディスティックライフ"ですか?あれは良い勉強になりますよ」
「なんだ勉強って!無垢なマリアにいらんこと教えるな!」
「流行の本を知らないと、他の奥様からハブられますよー?」
媚び0の言葉の数々に噛みつく侯爵―――の腕に抱きつき、マリアは幸せそうに顔をくっつけていました。
堪能しきったのか、マリアは「面白い本でした」と思い出したようにイリア夫人に微笑みますが……。
「俺の嫁に何してんだー!」
「なっ…グレーフェンベルク死ね野郎!」
「ああ!?んだコラ、坊ちゃんローゲルテばーかが!」
「てめえの嫁が俺の嫁にいかがわしいもん読ませたんだぞ!どう責任とってくれんだコラァ!」
「んなもん自己責任の世界だろうがハゲ!」
「誰がハゲだハゲ!」
何でこの二人ハゲハゲ言い合ってるのかしら、とイリア夫人はチーズを齧ります。
それがとても美味しかったので―――緩んだ顔に手を当てて味を楽しんでいると、熱い男の世界に入ってしまって一人ぼっちになったマリアに気付きました。
本心ではこのままスルーしたかったのですが、マリアの目に真っ黒い物が渦巻いて伯爵を見ているので慌てて「お話しましょ」と手招いたのです。
(……この子、面倒臭いわー)
そう思いつつ肉とチーズ、美味しそうなのをちょこちょこ取った物を押し付けると、マリアは少し驚いた顔をして、ふと微笑みました。
「美味しそう」
あ、でも可愛い、とイリア夫人がマリアの変化に目を見開いていると、ちらっと伯爵を見た彼女の瞳に気付いて「やっぱねーな」と考え直しました。
「あー…ず、ずいぶん…仲良くなったようで?」
「え?」
「侯爵と。…噂だと、最近は"真っ直ぐ帰る"ことが多いようだけど」
「ああ……」
卵を使った料理を齧っていたマリアは思い出した顔で、普通の女の子のような顔で言うのです。
「グレット様が、外のお酒よりも私が注いだお酒の方が好きって、言って下さるから」
「ほー…デレましたねえ」
「それと、暇が出来ると色んなところに連れて行ってくださるの」
「いいですねえ」
「でも、私は感動も感謝も、上手く言葉に出来ないから……」
「ふむ?…あ、すいませんお酒いっぱーい!」
「交換日記をしているの」
「おっとっと……え!?」
「宝物なの。今二冊目なのよ」
「結構書いてますね!?」
などと嫁たちがお喋りをしている傍で、伯爵と侯爵は口をそろえて「その女と仲良くするな!」と怒鳴りました。
ですがマリアがじっと夫を見つめると、どんどん気まずそうな顔で「て…適度なお付き合いをしろ」と言い直し、その様を伯爵は大変愉快そうな顔で指差して哂います。
「はっはー!あのローゲルテ侯爵様が嫁の顔見てらー!」
「うっせーんだよ!お前だって嫁の言うことホイホイ聞いてるくせに!」
「違いますぅー、イリアはただ俺が思っていたことを察してくれてるだけですぅー」
「ヴェルンハルト様、ちゃんと食べて元とってください。はいこれ」
「あ、ありがと……」
「目指すはこの量で十皿ですよ」
「―――って、これ面倒見てもらってるだけじゃん!乳離れできてないガキかよ!第一元とるってどうなんだ!?」
「うっせー!こっちだって色々あんだよ!」
「はいはい、食事中に怒鳴らないでくださいねー。お口拭きますよー」
「何なのあれ…ないわー…―――そう思うよな、マリア?」
あの、切れ味の良さそうな光を瞳に持っていた男はどこに行ったと苛々しながら妻に話を振れば、マリアは皿に料理を盛っていて。
急いで戻ってくると、一口大の肉をフォークに刺して「どうぞ」とじーっと見上げるマリアが。
「…………」
とりあえず侯爵はフォークをくるんと回すと、マリアの小さな唇に肉を押し付けて食わせてやりました。
「…美味いか」
「ぷまいです」
「そっか……帰るか…」
「はい」
腕に引っ付くマリアを連れて、侯爵はずるずると扉を目指し、
「―――イリア様。またマリアと"遊んで"くださいね」
今度は派手に。
そう言って、侯爵夫妻は気まぐれに帰ったのであります。
*
「あーら、モントノワール子爵様だわ」
「相変わらず…大きいですわね」
「まあ、少しは見てくれもマシになったんじゃないかしら」
「それでもあの人は無いですわー!」
伯爵夫妻はその声に、同時に振り向きました。
目立つ子爵が大きな手を差し出してエスコートする先、柔らかな緑と白のドレスの裾を持ち上げて。
銀の髪を結い上げて、白い項を曝した令嬢は伏し目で不躾な視線を逸らすと、伯爵夫妻の前で優雅に一礼をしました。
そしてエメラルドの耳飾りを揺らし、若い赤を乗せた唇を開きます。
「イリア様、グレーフェンベルク伯爵閣下、……お久しぶりです」
「おう」
「お久しぶりですリーゼさん。そして私のことは『お姉さま』ですよ」
「は、はい……おねえ、」
「あ、やっぱそれで」
「えっ」
「遊ぶな」
まったく、と伯爵は早々に終了した優雅な挨拶に溜息を吐きました。
「テディ、親父さんたちは元気か」
「ああ、元気元気。母さんもよく動いてるよ」
「何のために動いてるのかは聞かないでおこう。…どうだ、こいつの家は慣れたか」
「はい。…皆様、良くしてくれます。……」
「いいなあ」
イリア夫人の何気ない言葉にお嬢さんは向き直ると、そっと再度頭を下げました。
「お姉様、本当にお世話になりました。感謝してもしきれないほどに…私、」
「気にしないでくださいな、それに私、口出ししただけですし」
「閣下もありがとうございました」
「俺は後か…っだ!てめ、踏ん―――ちっ、おかまいなくっ」
まったく変わらぬ夫妻のやり取りに羨ましそうな顔を一瞬覗かせていると、黙っていた子爵がポンとお嬢さんの肩に手を置きまして。
お嬢さんは見上げて、一生懸命整えた子爵の顔に微笑みます。
そっと、二人寄り添って。
「お二人とも、」
「俺たち、来年の春には結婚することになったんだ」
夜会の雑音を通り抜けるような、そんな声で。
微笑みを交わす二人の手には、婚約指輪が光っておりました。
*
これで美少女と熊さんは、色んな人に祝福されたのだとさ。
追記:
【美少女と熊さん】編、すっごく長かったですが最後までお付き合いしていただきありがとうございました。
書いてて「お嬢さんもっとしっかりしろよおおおおおお!!!」と苛々したりもしましたが、無事に終わってなによりです。
最終的に「弱気な少女が幸せになれるまで」の過程を書こうとして失敗したばかりかラスト熊さんの出番少なかったですね……うーん、ラストを綺麗に飾るのは難しい…。
この後は番外編などをちょこちょこ乗せて終了したいと考えています。
※この先、作者のいらん絵があります。色々大丈夫な方だけどうぞ※
ワイルドキュートヤンデレの三拍子が揃っております……あー疲れた……。
左からお嬢さん、イリア姐さん、マリアちゃんです。
本当は視線の先に旦那様がいる雰囲気でやろうとしたんですが……【美少女と熊さん】出番初期三人のイメージです(キリッ
私に画力があれば誰得野郎三人きゃっきゃうふふにソファ座ってる絵が描きたかったです……。
お目汚ししてすいません、なお拍手文変更しました。
……誰か私の作品描いてくれないかな……(チラッ




