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青髭攻略してやろうぜ!  作者: ものもらい
本編2:【美少女と熊さん】
22/42

9.熊さん、熊さんすぎてお嬢さんを泣かす



※夜にまた一話更新します。





まあ、伯爵夫妻の仲の良さに面食らったものの、イリア夫人が気さくな方だったのでお嬢さんはすぐに懐いてしまいました。


イリア夫人は口答えはすれども気の強すぎる女性という訳でもなく、にこにことしては毒を吐いて伯爵に突き刺しているのに、口調が柔らかいので穏やかな雰囲気は損なわれないのです。


狩猟ハンティング姿に変えた伯爵の隣で、夫人は膝下スカートから伸びるブーツに纏わりつく子猫にくすくす笑いながら、お嬢さんの手を引いてくれました。


「―――あ、あの、どこに行くんですか?」

「森だ」

「奥です」

「………」

「べーちゃん家の森になー、秋模様に変わるととても綺麗な湖があって、そこに向かってるんだよ」


分かりやすく答えてくれたのは子爵だけです。

お嬢さんは「そうなのですか」と言うと伯爵の持つ銃と剣に恐る恐る目を向けて、


「……湖は、危険ですか?」

「いや、熊だの野犬だのが出るのは西の山だ。俺たちが向かう先には野兎か狐くらいなもんだよ」

「……だが、最近こっちにも狼が出始めたからな、用心にこしたことは無い」

「お、おおかみ…!」

「だぁーいじょうぶですよぉ。生きて帰れますって」

「はっ、男二人囮に使ってか?」

「いえ、最近動く的でも眉間に当たるようになったので、ヴェルンハルト様のお側でお助けしたいと思っていますよ?」

「おい待て動く的って何だ?」

「にゃーん」

「それにべーちゃんなんて西の山を遊び場にしていますから。心強いでしょ?」

「ね、猫ちゃんを野獣の山に!?」

「おー…英才教育」

「愛が無いんだよ愛が」


イリア夫人のとんでも発言に一々反応しつつ、四人と一匹は森の奥へと進みます。


すっかり怖くなってきたお嬢さんは子爵の服の裾を掴みながら、そわそわと伯爵に聞きました。


「―――あ、あの、西の山……く、駆除とかはしないのですか?」


お嬢さんの母がよく、「お得意さんが獣の被害で商品の納品を遅らせて困る」と言っていたので、放置させる意味が分かりませんでした。


「うーん、食卓用のお肉以外は、よっぽどの被害でもないと山狩りはしませんねえ」

「何よりバランス崩れると山が枯れるからな。西の山は領地の境界線でもあるから、むしろ野犬だのは放置しといた方が良いってもんだ」

「あ…ええっと、野犬を足止めに使う、ということですか?」

「そ。正規ルートなら獣の被害が無いように整備してある。テディのところは野獣野放しに加えて罠も仕込んでるから、そこの熊と喧嘩しても迂闊に森やら山に行かない方がいいぞ」

「罠…あ、あるのですか?」

「んー?あるよ、昔は俺もよく引っかかってたもんだなあ」


引っかかってたの!?―――とお嬢さんは子爵の子供時代にビビりつつ、ぴったりくっついて進んでいたのですが。


お嬢さんの手を掴んでいたイリア夫人が突然立ち止まると、「べーちゃん?」と声を上げて、


「ヴェルンハルト様!べーちゃんが行方不明にっ」

「西の山でも平気な猫だろ、放っとけ」

「何を言ってるんですか!あの子は森の地理は分かりませんよ!今日教えようと思ったのに……」

「……山は分かるんだろ?」

「そりゃ、私が一緒だったから…」

「何でお前まで山に入ってんだよ!?」

「しっかしまー、静かに居なくなったもんねえ」

「ね、猫ちゃん…」

「すみません、私の責任ですので私が探して参ります!ヴェルンハルト様、お二人を湖に、」

「馬鹿!ここでも熊の姿が見かけられてんだぞ、お前なんか昼の腹の足しにならあ!」


そう夫人の腕を掴むと、伯爵は子爵に「道は分かるな」と聞き、子爵はのんびりと「何度も言ったからねえ」と答えたので―――後に合流、後で詫びはする、と言って、伯爵夫妻は道を外れ………。



「…し、子爵、二人でも…大丈夫ですか?」

「テディ」

「へ?」

「子爵に戻ってるから。て・でぃ・いー!」

「……もうっ、そんな場合じゃないです!」


わしゃわしゃ撫でてくる子爵にそっぽ向くと、―――やがて道が開けて、



「はい、お嬢さん。綺麗だろう?」

「え……わああ…!」



赤く染まる葉。黄色に枯れて行く葉。


湖に落ちて、ゆらゆらと流れてゆくその軌跡。狐が顔を洗い、小鳥が木の実を突き、やがて飛び立ってその影を湖に落とすのです。



「あ。お嬢さん、無花果イチジクだよ」

「え…あ、本当……」

「食べ頃だねえ」



そう言うと、子爵は手を伸ばして無花果を二つ取り、皮をめくって食べてしまいました。


「ん、大丈夫」と言うけれど―――お嬢さんは商家の人間と言えど、果物をそのまま食べたことなんてありません(体も弱いので、自らしなかったというのもありますが)。

はい、と子爵に渡されても、お嬢さんにはどうしようもなかったのです。


「……た、たべるの、ですか?」

「ん?―――あ、あ~そっか、ごめんごめん。ついべーちゃんにあげる時のつもりで…いやはや、お嬢さんになんか…ごめんね?」

「あ、あの、いえ。……生で食べても、お腹は痛くならないのですか?」

「大丈夫だよ、毒は無いから。―――いや、でも無理に食べない方が」

「……テディさんが」

「ん?」

「テディさんが、食べた物は。……どんな味だったのかとか。お菓子にされたものしか食べたことなかったから。……食べてみたいです」

「……そっか!」



片手に持ってくれていた画材をそっと置く子爵の隣で、お嬢さんは思い切って齧ってみます―――あ、


(……おいしい)


瑞々しくて。少しだけ乾燥した空気に痛んだ喉に気持ちいい。


「……おいしいです」


袖をちょんと引っ張って言えば、子爵はとても嬉しそうに微笑んでくれました。

思えば初めて会った頃、森の中で追いかけられた時は粗野だ凶暴だ怖い顔だと散々に思っていましたが、今では何だか愛嬌を感じてしまうのです。


「…テディさんの所にも、無花果とかあるんですか?」

「森にあるよ。ああでも、庭に石榴ザクロもある。ベリーも数種育ててるから、夏や秋が来ると嬉しいね」

「太っちゃいそうです」

「ははっ、そうだねえ。でもイイもんだよ。俺なんか稽古の後はグーズベリーを齧ったりしてたなあ」

「グーズベリーも育てているのですか?」

「うん。元々、俺の家って家庭菜園とか好きな当主が多くてね。稀に育てた覚えも無いのがあったりとか」

「楽しそう…」

「おっ、お嬢さんもそういうの好き?」

「はい。あまり外に出るなと言われてたから……うん、きっと外に出れるなら、何でもいいのかも」

「ははっ、じゃあもっと外に連れてってあげるよ」



その言葉にお嬢さんが思わず照れ照れしていると、子爵は「もっと無花果取ってくるよ」と背を向けて。

お嬢さんは「無理しないでください」と食べかけの無花果を手に、座り込んで子爵の大きな手が果実をとる様を見守っていたのです。


(……たくましいなあ)


背中。

……なんて思ってしまった自分が恥ずかしくて、お嬢さんは誤魔化すように無花果を齧ると。


―――がさがさ


なんて、聞こえて。

「伯爵…」

様?――と振り向くと、子爵が居ました。―――じゃない、



「く、くま……きゃああああああああああああああ!!!」



何せ口に人の手を咥えていたものですから、お嬢さんが叫んでしまうのもしょうがないのです。

お嬢さんはいつものひ弱ぶりを放り捨て画材を思いっきり熊に投げつけると、無様に逃げようとして無花果を踏んづけて―――転んでしまいました。


「あ、あぁ……!」


あの手は伯爵夫妻の?とか、どうしよう、とか。怖い嫌だとしか思い浮かばなくて。

お嬢さんは一生懸命這い蹲って逃げると、片手が湖に触れて。ひやっとした感覚に驚いて、爪を振り上げた熊を前に固まってしまったのです。


(た、べ、られる―――てでぃ、さ、)


ん。



恐怖で脳内暴走中のお嬢さんがやっと子爵を見つけたのは、案外すぐでした。


大きい体のくせに俊敏な子爵は音を消して回り込み、お嬢さんが内心気に入っている逞しい腕で熊の首を絞めると、もう片方の手で、そりゃもう慣れた様子で。



ごりん。



―――首が折れた熊は、目をぐるんと白に変えて、倒れました。

お嬢さんもその隣で倒れてしまいたいくらいの、地味に嫌な殺し方でした。



「て、てでぃひゃん……」

「ふぅ。小熊で良かったー、親熊だとこうはいかないからね」

「」

「この腕は多分旅人か。…だとすると近くに―――」



おとこのひとって、こわい。


お嬢さんが涙目で震えてるのも気付かず、子爵は用心深く辺りを見渡しています。ジャッと大きなナイフを取り出したのを見たときは、お嬢さんは「ひぅぅぅぅぅ!!」と情けない声を上げてしまい………。


そんな、丁度よさそうなカモに気付いたのか、それとも子供を追って来たのか。


大きな親熊が、鼻息荒くやって来て――――。


(む、無理無理無理!!いくらテディさんが熊殺しって言われてても無理ぃ!!)


と、負けを確信するくらい大きな熊なのです。


「お嬢さん、目を閉じてて!」


―――そう言われても、お嬢さんの体はすでに言うことを聞かないのですが。


逃げて、と思えども、子爵はすでに駆け出しているし。お嬢さんは強張った顔のまま見守るだけしか出来ない。

子爵は腕をかすったけれど臆さずにナイフで首を切れましたが、浅かったのか親熊は元気に暴れます。子爵は仕方なく一歩引き、


「テディ!」


伯爵の声、と少し遅れて、熊が血を吐きます―――伯爵は背後から熊の心臓を狙ったものの、肉のせいで届かなかった……ようですが、あと一歩で殺せます。

男二人が剣を構えなおすと、



「―――あ、撃ちますね?」



ぱぁん。


なんて、ちょうど横から。頭を撃ちぬかれた熊は、子供と同じく目をぐりんとして倒れました。


伯爵が持っていた筒の長い銃を両手に、フッ、と煙を吹き消す姿に、お嬢さんは思わず「お姉さま」と呼んでしまいたくなりました。



「お、ま……えっ?なに…え?」

「練習の成果です」

「お嬢さん腕が良いねえ。才能あるよ」

「まあモントノワール子爵、ありがとうございますふふふ」

「『ふふふ』じゃねーよ!ちょ、せっかく格好付けようとしたのに!」

「あら、私を背にべーちゃんを探してくれてる姿から今この瞬間も、とても恰好良いですよ?」

「何か今のお前が言うと説得力がない!!」



惚気るのは勘弁してください、とお嬢さんがやっと息を吸っていると、不意に腕が温かく―――びくりとしたものの、すり寄ってきたのは伯爵家の猫ちゃんでした。


「にゃーん」

「あ、猫ちゃん…こんなところにいたの…ね…」


猫の背後。


どう見ても「仕留められました」な狐が、喉を真っ赤にして猫ちゃんの足もとに転がされていました。ので。



「きっ…きゃああああああああテディさんんんん!!!」



お嬢さんの顔色を見ようとしゃがんだ子爵に抱きつくどころか尻餅まで着かせて、自分の胸を子爵の顔に押し付けて怖い怖いと泣いてしまったのかもしれません。






お嬢さんが泣き虫なんじゃない。イリア姐さんが肝が据わり過ぎなんです。




補足:


一年交際しての熊さんとお嬢さんですが、


お嬢さん⇒だいぶ懐いた。熊さんに誘われるとトコトコ付いていくように。

熊さん過ぎる容姿に関しては愛嬌感じるレベルに進化。デレ期に突入。照れ照れしてる。


熊さん⇒めっさ可愛がってる。懐いてくれたのが嬉しくてあれこれ世話焼いてる。

照れ照れしてるお嬢さんに釣られて照れ照れしちゃう。


熊さん側の人⇒お嬢さん逃がしたら結婚できないなと思ってるので外堀どんどん埋める手伝い中。


お嬢さん側の人⇒結婚まだ? かお得意様とか子爵より好条件の貴族からのお誘い出てこいって思ってる。主に伯爵に潰されてるけど。


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