タイトル未定2026/10/11 15:04
ボケとツッコミ。
まるでコントです。
コメディの旅お楽しみください。
世界各地を巡ってきた。
アジアの賑やかな路地裏、欧米諸国の重厚な街並みはもちろんのこと、バミューダ諸島の透き通る海、アイスランドの厳かな氷河、オーストラリア・タスマニアの小動物。
だが——まだ、マダガスカルには行ってはいない。
我ながら完璧な韻を踏んだものだと、胸の中で密かに悦に入っていた時のことだ。
「でさ、桜、ジョー。結局のところ、どこが一番よかったわけ?」
隣でグラスを傾けていた西田が、悪びれもせずに聞いてきた。旅の話になると、誰も彼もが必ず口にするお約束の質問だ。
「あのな、西田。旅の良さってのは一言じゃ言えないんだよ」
ため息をつき、1時間ほどかけて訪れた各地の魅力を丁寧に語り聞かせた。
絶景の美しさも、途中で遭った災難も、すべてを含めて旅なのだと。
「だからさ、カレーとラーメンどちらが好きかみたいなものでさ。どっちも好きだし、みんなそれぞれに良いんだよ」
オンリーワンで綺麗に丸く収めようとした私に、西田は食い下がってきた。
「いやいや、そこを『敢えて言うなら』どこよ?」
「お前な……じゃあお前が世界一周してから同じこと聞かれたら、一発で答えられるか?」
「じゃあさ、日本国内ならどこ?」
なぜそこまで一番にこだわる!
「日本ならって……じゃあ寿司と天ぷら、どっちが好きかみたいな話だろ!」
「じゃあ、温泉地ならどこ?」
「……アイスランドかな。あそこは蛇口を捻ると温泉が出るからな」
「いや、日本国内の話だって! 範囲広がってるし!」
「あーうざ! 何度も言わせるな! たこ焼きと焼きそばなら、お前ならどうするんだよ!?」
私が少々ヒートアップして問い詰めると、西田はグラスを揺らしながら、のんきに答えた。
「んー……その日の気分かな」
「俺もだよ!」
思わず声が大きくなった。
「どこの国がいいとか、温泉がいいとか、全部その日の『気分』なんだよ! 『あー、今日は仕事疲れたから、今からバミューダ諸島寄って、サッパリした気分になってから帰るか』みたいなことなんだよ!」
すると西田は、怪訝そうな顔で私を見つめて言い放った。
「……例えが全然わからない」
こっちが無理やり例え話に付き合ってやったというのに、逆にツッコミを入れられるとはどういうことだ。
「じゃあさ、車で旅するならどんな車?」
「は? キャンピングカーとでも言えば満足か?」
「そこはさ、ポルシェとかスポーツカーって答えて欲しいなー」
「なんで旅先で燃費の悪いポルシェやフェラーリに乗らなきゃいけないんだよ! 効率が悪すぎるだろ!」
「そういう効率的なことじゃなくて、男の夢だよ、夢!」
話がどんどん最初の「一番の旅先」から遠ざかっていく。
なぜ人はそこまでナンバーワンを決めたがるのか。オンリーワンで丸く収めて何が悪いのだ。何かの曲で歌っていたじゃないか。
……ふう、かなり酒を飲み過ぎたらしい。頭がふわふわしてきた。
それにしても、やっぱりビジネスクラスのフライトは快適だ。上質なワインもシャンパンも、ぐびぐびとお腹の中に収まっていく。
そう、ここは高度一万メートルの雲の上。
ゆったりとしたリクライニングシートの隣では、散々不毛な議論を吹っかけてきた西田が、満足そうにシャンパンの泡を眺めている。
私たちは今、まさにあの「まだ見ぬ地」——マダガスカルへ向かう途中なのだった。
(おしまい)
騙されたあなた。
騙されなかったあなた。
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