第三四話 寿司と白黒
ヘッドセットを着ける前に、鷺山めのこは両手の親指から小指までを順番に折っていき、小指から親指へと開いていく。最後にぐっぱと手を開いて閉じるを繰り返してからパソコンの電源を入れてヘッドセットを頭に乗せる。
パソコンが立ち上がるまでの間に冷蔵庫の中からペプシの二リットルペットボトルを取り出してグラスに注ぎ、ダイソーで買った一〇〇本一〇〇円のストローをグラスに差す。
パソコンが立ち上がるとすぐにOBSとYouTubeを立ち上げて配信を開始する。
いつも通りのTシャツを着ただけのめのこの姿がカメラに映る。画角はやや左上でめのこの表情が良く見えて、なおかつ邪魔にならない位置だった。
──望おつ
──夕方から配信tskr
──この時間に配信珍しいな
──寝てないに一票
──またFPSしてたか?ちゃんと配信しろ!こっちはお前のランクも分かんないからな!
「うるせー。こんな時間からなに配信見てんだ、社不の集まりか」
──俺らが社不ならお前も社不だろ
コメントを無視して、此夢望としてGTAを立ち上げる。
立ち上げた画面の中には、いつも通り子供の落書きのような覆面を被った黒いスーツの夢梨さらばが立っている。
駐車場でインパウンドしていたシッツ・ハクチョウドラッグを出し、いつも通りRe:VIVALのアジトへと向かう。
その最中、Re:VIVALからの無線が入る。
『四八七七、コンビニ強盗しました』
『了解。さっきウロウロとガリガリくんコーラ味がインしたっぽいから注意するように』
『了解、一四〇八のコンビニ行きます』
『YOTSUBAの穴熊と銀行強盗行ってきまーす』
騒がしい無線にさらばは口元へ笑みを浮かべてエンジンをふかし、バイクを走らせる。
「夢梨さらば、インしました」
『さらばおつー』
『さらばさぁん! 今日もよろしく!』
返ってくる挨拶に、彼女の頬が緩む。
帰ってきたと言わんばかりの彼女の笑みを、リスナーだけが見ているのだ。
そこにYOTSUBAの狸から電話が入る。さらばはバイクを走らせたまま、その通話を取った。
『もしもし?』
「どうした?」
『明日の飛行場強盗までに薬って全部売った方が良いよな』
「あー、パクられたら困るし、その方が良いかもな」
『これ、売ると通知行くから警察まーた大変になるな』
狸の言葉にさらばが「わはは」と笑い、そして口を開く。
「やろうぜ、できること全部。警察を暇にさせないために」
『オッケー、お互い楽しもう』
「ご武運を」
『ご武運を!』
狸との通話が切れたとほぼ同時に、Re:VIVALのアジトへとバイクが到着してさらばはシッツ・ハクチョウドラッグをインパウンドする。
アジトの中へ入ると、パンプパンパースが一人座っており、彼女はさらばを見ると軽く手を挙げる。
「さらばさんおつかれー」
「おー、おつ。休憩?」
「そう、さっきパクられたから」
楽しげに笑ったパンプパンパースの言葉に、さらばも笑いを返す。
「いくら払わされた?」
「二〇〇万! 高級車窃盗だったから」
「安かったな、良かった」
「ほんとだよ。さらばさんは?」
パンプパンパースからの問いかけに、さらばは上を向く。
「相棒とコンビニ強盗」
さらばがそう言うと、パンプパンパースが立ち上がる。
「一緒に行っていい?」
「もちろん」
「最高!」
お互いに笑いを返して屋上のヘリポートへ向かい、さらばの赤いスパローが格納庫から姿を現す。
「いいなー、スパロー! 私も買おうかな」
「持ってない?」
「持ってない! 私、ワルキューレなんだよね。もう一機くらい欲しいと思ってたからスパロー買っちゃおっかなぁ」
「ワルキューレってどんなヘリ?」
さらばからの問いかけに、パンプパンパースが待ってましたとばかりに口を開く。
「あのね! 四人乗りの軍用ヘリで、前に機関砲が付いてて、左右にミニガンが付いてるの! 操縦士は撃てなくて、隣の人が機関銃、後ろの二人がミニガンを撃てるんだけどぉ……」
「けど?」
「Re:VIVALはみーんなヘリに相乗りしないから、普通のヘリなの!」
パンプパンパースの言葉に、さらばが思わず「わはは」と笑い声を上げる。
「ヘリ好きはみんな自分のヘリ持ってるし」
「まあ、ヘリ乗るからヘリ好きだしな」
「そうじゃない人達は自分の車とかバイク持ってるし……」
「まあ、茅葺茸も持ってたしな、車」
パンプパンパースがスパローの助手席に乗りシートベルトを閉めてから「そうなんだよね」と呟く。
操縦席に座ったさらばがシートベルトを閉めてからヘリコプターを上昇させる。既に危なげなく操縦するさらばに、パンプパンパースが「すごいすごい!」と声を上げる。
「もうすっかりヘリコプター乗りだね」
「だろ?」
旋回をする度に僅かに下がる機体を持ち直し、コンビニへと向かう。
地上ではパトランプが光り、様々な場所で強盗が起きていることを知らせていた。
「警察は随分大変そうだな」
「ほんとにね。警察じゃなくて良かったぁ」
到着したコンビニ前へスパローを下ろし、監視カメラを壊してから二人はNPCを殺して強盗をする。
金を全て鞄に入れ、すぐにスパローへ戻り上空へ逃げると、ほんの数分でパトカーがサイレンを鳴らしながら走ってくる。
そのパトカーから姿を現したのは早乙女トトロだった。
「なあ」
「ん?」
「後でパトカー強盗しねぇ?」
さらばの提案に、パンプパンパースが一瞬黙ってから大きな笑い声を上げる。
「それ、最高だね! やろやろ! ちょっと待って!」
パンプパンパースがそう告げると、無線を繋げる。
「一〇〇五、コンビニ強盗終わりました! この後パトカー強盗しようと思うけど、やる人ー!」
『爆音奏、やりまーす!』
『俺も俺も! ポッピンポップドッツもやるって!』
「あ、次の飛行場強盗、ポッピンポップドッツも呼ぼうよ。っていうかさ、Re:VIVALおいでよ!」
笑いながら続く言葉に、ポッピンポップドッツの『え! いいんすかそれ!』という言葉が僅かに入る。
「良いよ! オイルリグからの仲間だもん!」
「仏はほっとけに聞かなくて良いのかよ」
無線を入れたままツッコミをいれたさらばの言葉に、仏はほっとけが『良い良い、メンバーなんていくらいても困んないから!』と答える。
「いたのかよ」
『いるだろ、もう俺はこの時間にしがみついてんだよ』
そんな仏はほっとけの言葉に、この時間が既にカウントダウンのさなかにあることをさらばは思い出す。アジトのヘリポートへスパローを着陸させてインパウンドしてから、言葉に僅か惑う。
「早いな、時間は」
「そうだね。……早いなぁ。飛行場強盗も、明日だよ」
屋上からアジト入口へと降りて二人揃って徒歩で道を歩いていく。あちこちに走っていくパトカーの姿を見て、二人でクスクスと笑い声を漏らす。
そんな中で道端にパトカーを停めて食事と水分補給をする十々承知の姿を見つけて、二人で寄っていく。
「おつかれー、警察忙しそうだな」
「おつかれ、ってお前らのせいだからな!? 忙しいの!」
「まあまあ、暇しなくて良いだろ?」
「暇はしてないけど、暇しないだけだからな、ずっと忙しいわ! お前らはそれぞれ独立で動いてるから良いだろうけど、三ギャングに警察だけで対応してんだよ!」
さらばと十々承知が話している中でパンプパンパースがパトカーの運転席へと座る。鍵もかけず、鍵を差しっぱなしだったパトカーが、持ち主の十々承知を置き去りに走っていく。
「マジか!?」
走り去るパトカーを見て声を上げたさらばに、十々承知が「ああー!? 俺のパトカー!!!」と絶叫する。
「いや、あーれはやばいな? ちょっと応援呼べよ」
さらばの言葉に、十々承知が慌てて無線で応援を呼ぶ。
やって来たカレソ・ベントーレに、十々承知とさらばはそれぞれパトカーが奪われた話をする。
十々承知の様子に、彼を慰めていたカレソ・ベントーレを後目にさらばがパトカーの運転席へと座り、エンジンをかけて走り出す。
「あああー!!! 僕のパトカーが!!」
カレソ・ベントーレの叫び声に、さらばが大声で笑い声を上げる。
そして、無線を入れる。
「夢梨さらば、パトカー強盗成功しました」
『パンプパンパース、パトカー強盗成功しました!』
『ポッピンポップドッツ捕まったわ!』
ララバイアグラの言葉に、また笑いが起きる。
さらばは、目尻に滲んだ涙を拭いアジトへとパトカーを走らせるのだった。




