ゾンビと私と息子-1
私は、びちょびちょびちょに涙で濡れた顔を手で擦り、若の胸元に飛び込んだ
顔を上げ若を見ると、若は少し微笑んでいた
「若が居なくなってから大変だったんですよ」
と、話そうとしたが若は聞いてくれず私を押し倒そうとした
暑くもなく、寒くもない、ちょうど良い季節に私は、畑仕事をしている
土をクワで耕し、土を柔らかくした
雑草を抜き、息子が大好きなブロッコリーの種をまく
4ヶ月後には、収穫し二人で美味しく頂くのを想像するとニヤけてしまう
息子の修二が、畑のそばを駆け足で通る
「あまり、遠くに行かないで!」と注意をすると
「分かっているよママ!」と息子が答える
「特にフェンスの近くは絶対ダメだからね!」と注意を付け加えると
「分かっているよママ!」と同じ言葉が返って来た
私は、息子に注意した施設を囲むフェンスに目を移した
フェンスの向こう側には、老若男女のゾンビが複数行ったり来たりを繰り返している
服はボロボロ
髪はボサボサ
白濁した目
体中、傷だらけのゾンビ達は、こちら側に入りたそうだが
私達はゾンビになりたくないので勘弁である
先日、集会でフェンスを監視する係の者から
身体能力の優れたゾンビが居たそうで、フェンスを乗り越える可能性があると共有された
もし、そいつがフェンスを乗り越え敷地内に侵入された場合の対策も考えられた
近くで働く3人がグループになり、その身体能力の高いゾンビを迎え撃つ
集会所で「楓さん、よろしくね」と声を掛けてきたのは、隣の畑を管理する平田さんと、その奥さん
迎え撃つ作戦とは平田さん夫妻が、防御に徹する
二人が防御する間に、私が一撃を与えるというシンプルな作戦
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」と私は頭を下げた
「ところで、息子さんは何歳になった?」旦那さんに問われ
「6歳になります」「落ち着きなく、いつも走り回っています」と私は昼間走り回り、疲れたのか私の膝の上で眠る修二の頭を撫でながら困り顔をする
「男の子は、それくらいじゃなきゃ」と奥さんに言われると
私は苦笑いをした
「王が向こう側に行ってから、どれくらい経つ?」
向こう側とは、フェンスの外
つまり、ゾンビ化してどれくらい経つと聞かれている
「半年になります」私は修二の頭を撫でながら答える
「この子は、日本が再建したときに王となるべき子だ」
「大切にしなきゃいかん」
私は修二の頭を撫でるのを止め頷いた
集会が終わり、私と修二の住まいに向かう
修二を起こし、手を繋いで歩いているが眠いらしく足取りがフラフラだ
小さな酔っぱらいで、かわいい
抱えあげると、寝てしまった
住まいと言っても、鉄道コンテナを改造しドアと窓を加えたもので
室内は2人分のベットを置いたら半分を占拠してしまう程の大きさ
ベットの他には、テーブルと椅子を置いたら終わりだ
炊事はコンテナの外に屋根を付けたスペースで薪で調理をする
修二と寄り添って寝ているのでベットは一つ空いている
空いているベットの持ち主は
フェンスの外で口を開けヨダレを垂らし
呻いている
私は抱きかかえ寝ている修二をベットに寝かせて服を脱がし、濡れたタオルで体を拭いてパジャマに着替えさせた
私自身も、衣服を脱ぎ下着を脱ぎ修二が使用した濡れたタオルで全身を拭きパジャマに着替え修二の隣に入り込む
今夜は少し風が吹いているせいなのか、ゾンビたちのうめき声が室内に入り込む
私は修二を抱き寄せ、耳をふさぎ目をつむる
ゾンビ達のうめき声の中に、若の声が入っていると思うと寝付けない
つづく




