第4花 買い物に行こう
思い出した話を踏まえて目の前で照れているセレナは、昼間だと少しオドオドとしているように見える。
そこもまた、可愛いんだけど。
「セレナ、今度一緒にお出かけしない?」
「…お出かけ、ですか?」
「そう。俺は君ともっとたくさん話したい。君のことを、知りたい」
「…二人で?」
「…できれば、二人でがいいけど、不安ならノクスとアスターも連れて行こう」
ぱち、ぱち、と瞬きをしたセレナがふわりと笑う。満開の花が綻ぶように、目を細めて、俺を見つめてくる。
ちょっ、ま、きゅ、急にそんなかわいい顔しないで!!??
「かっっっ……ぐぅ……」
心臓が。
心臓が忙しい…。本当に、俺をどうしてくれるんだろうこの子…。
「はい!二人も連れて四人で行きましょ…ソル様?」
胸を軽く抑えた俺に、セレナが首を傾げて俺の顔を覗き見る。しゃがみ込んだ俺に合わせてセレナがしゃがんだ。
「…うふふ」
「…楽しそうだね」
「……昔も、こんな風なことがあったんです」
「…昔も?」
「はい」
懐かしそうに目を細めて、俺を見つめるセレナの表情に、頭が痛む。
「…ッ、」
「ソル様、大丈夫ですか!?」
「だい、じょうぶ…」
ソルの記憶だろうか。何も知らない俺に、何かを教えようと、してくれてるのか。
わからないまま、立ち上がる。
「…アスター達にもお話ししようか」
「はい、ノクス喜んでくれるかしら」
「…なんでノクス??」
「ノクスは買い物が大好きなんです」
なんだその情報は…。
「いいじゃない買い物、二人で…え?私も????」
なんで??心底意味がわからんと言う顔をする聖女──アスターに俺は苦笑いを浮かべる。
今やアスターはお部屋でお菓子を食べている。机の上に並べられたいくつかの本を広げて、クッキーを一口放り込んだ。
聖女というよりは、普通の女の子だ。
ノクスはすぐ近くに居たのでお買い物の話をしたらそれはもう普段見ないようなウキウキした顔をしていた。今も隣で何を買うか考えている。
ひっそりとアスターに話しかける。
「ノクス、本当に買い物が好きなんだな」
「ノクス様は、ゲーム画面だと衣装とかを購入するところにいる人なのよ」
ひっそりした声で返されて、ああ、だから買い物好きなのか…と納得してしまった。
「…シナリオ通りに動いてると言いつつ、やってることはあんまり変わらないんだなぁ」
「そうみたいね、そんで私はこの人たちをどう救えっていうのかしら…全く見当もつかないわね」
そういえばアスターは頼まれていたんだった。机の上の本はそのためだったのだろうか。
「…まあ四人で行くっていうなら仕方ないわね。これもシナリオね」
「え、シナリオにあるの?」
「そうよ。ただし、ソル様が私を誘うパターンだけどね」
「そうなんだ」
「興味なさそうな声…まあ興味ないんでしょうけど」
やれやれと言いたげなアスターを横目で見た後セレナに近寄る。
「四人で遊ぼうね」
ニコッと笑顔を返されてしまい、今日はやけにセレナが素直だ…と俺の方が照れてしまう。
「ノクスがおすすめのところがあるそうです」
「僭越ながら、この私、ノクスが皆様を存分に!楽しませましょう!」
「ノクス、お前そんな感じだったんだなぁ」
まだあって数日も経ってないけど、ノクスの意外な一面を早くも見てしまった。
──ウィステリア王国には、紫の花が咲き誇る藤の並木が、王城から城下町まで一本の道となってまっすぐ続いている。
風に舞う藤の花々を目にしたある詩人は、太陽の名を持つ国王になぞらえ、この国をこう称えた。
『紫の花道を照らす、太陽の国』
「へえ、確かに藤の花…」
「日本のゲームだから、そういうのが多いのよねえほら見なさいよあのお菓子見覚えあるでしょ」
「本当だ…メロンパンだ…」
城下町を歩く俺たちは、もちろん変装をした。普段赤い髪で目立つセレナは黒髪に。俺も黒髪にしてもらってどこにでもいる人と同じような出たち。
ノクスとアスターはよく城下町をうろうろしているとのことで返送する必要はない、と豪語して普段の姿だ。
「…綺麗」
セレナが城下町で楽しく賑わって踊る人たちを見る。紫の花が散る中、音楽に合わせて踊ったり、売り込んだりしている人たちの暮らしに感動している。
…ゲームの中の世界、シナリオ通りの世界。わかっていてもこうして生きている姿を見ると、途端に世界が動いていることを実感する。
「あれは?あれはなんですか?」
「なんだろう、ねえアスター、あれはなに?」
城下町を歩いたことがないセレナと何も知らない俺に、アスターは困ったような顔をする。
「ほんっとに、箱入り娘と記憶喪失はこれだから…」
「どっちも仕方ない話だろー」
「いい?アレは、あなたたちの騎士団よ。見て、あのかっこいい真ん中の騎士団長!」
「待ってセレナも見たことないのおかしいだろ」
「僭越ながら、セレナ様のお父上…オリオン殿下が見せたがらなかったのです」
「…なんで?」
「血生臭いものを見せたくはない、と」
…それはなんて、寂しいのだろう。何も知らないことが、いいこととはいえないと、俺は思う。
「…妹にすら、俺危険なことが世の中にはたくさんあるからってニュース見せてたのに…」
「騎士団に見つかっては面倒です、せっかくのお忍び買い物。ここでロスするのは私が嫌なので皆様こちらへ」
ノクス誘導の元、細い道を通る。
「…私が嫌って…お前」
「買い物のために今日楽しみにしていたんです、騎士団の話などまた今度でもいいでしょう」
「ねえ、ノクスあれは?私アレを食べたいわ!」
セレナの綺麗な指がラーメンと書かれた店を差した。俺、アスター、ノクスは固まる。
わかる。美味しい。美味しいんだよラーメンって……。
「また今度にしましょうお嬢様、彼方の方が美味しいものがあります。このノクスがお嬢様を楽しませて差し上げます」
ノクスの判断は早かった。セレナの体の向きをスッと変えて、別の興味に持っていく。
「…また、来れるの?」
「うん、今度もまた四人で行こうね」
「別に誘ってくれたら私も行くわよ」
「…じゃあ、また今度にします…」
よかったぁ!!
その時俺たちの心は間違いなく一つになっていた。




