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ンードラロギア  作者: ああああ


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第八十七章:奈落の宴 酒と肴【閲覧注意】

八十七章です。【閲覧注意:過激な描写に関する警告】


本エピソードには、キャラクターに対する深刻な精神的・肉体的苦痛、および性的暴行を示唆する過激な描写が含まれています。


これらは、グロードル帝国という国家の歪み、そして戦場という異常空間が人間をどのように変質させるかを描くための、物語上避けられない演出として執筆しております。


特に、主要キャラクターの尊厳が著しく損なわれる描写がございます。ショッキングな展開、あるいは不快感を抱く可能性のある方は、閲覧をお控えいただくか、十分にご注意の上でお読みください。

サン・ガレ城の城門外れ、冷たい影が落ちる路地裏。そこには、勝利に沸く本丸の喧騒とは無縁の、凍りつくような死が転がっていた。


憲兵隊長クラウス・ミュラー少佐は、手袋を嵌めた手で、遺体に被せられた汚れた粗布をゆっくりと捲り上げた。

「……っ!」

隣にいた若い憲兵が短い悲鳴を上げ、次の瞬間、激しく嘔咽した。石畳の上に、昼食のスープがぶちまけられる。


「……これは、ひどいな」

ミュラーの呟きは、白い吐息となって消えた。

横たわっていたのは、自国の兵士だった男だ。だが、その姿は「戦死」とは程遠い。鈍器のようなもので何度も殴打され、原型を留めぬほどに破壊されている。敵軍の剣による整然とした死ではなく、剥き出しの狂気によって貪り食われたような死様だった。


「少佐……っ、ここ数日間、異常ですよ! 暴行、傷害、果ては身内同士の殺人まで……! 一体、この城の中で何が起きているっていうんですか!?」

口を拭い、震える声で訴える部下に対し、ミュラーは感情を押し殺した目で記録簿を見つめた。


「戦争という非日常の中にいれば、人の理性が焼き切れることもある。非日常的な事件が増えること自体は、不思議ではない。……だが」

ミュラーの指が、発生件数の欄で止まった。

「……この数字は、統計の限界を超えている」


サン・ガレ城を奪取して以来、事件の発生率は右肩上がりどころか、垂直に近い角度で跳ね上がっている。それはまるで、目に見えない疫病が兵士たちの精神を食い荒らしているかのようだった。


執務室に戻ったミュラーは、山積みの報告書と格闘していた。

彼の鋭い眼光を照らし出す。事件の加害者、被害者、発生時刻、所属部隊……それらを精査していくうちに、一つの不気味な共通点が浮かび上がった。


「被害者も……判明している加害者も、すべて前線部隊の人間か」


後方支援や輜重兵、司令部付きの兵士たちには、この「狂気」は伝染していない。最前線で王国軍の猛攻を退けた、いわゆる「英雄」たちばかりが、私生活では獣へと成り果てている。


「戦場での恐怖による心的外傷……。いや、それだけでは説明がつかない。攻撃性の増幅が、あまりにも早すぎる。……何かが、彼らを『変えて』いるのか?」


ミュラーの思考は、兵士たちの「違い」を探し始めた。

装備、宿舎、支給される食料……。

「支給品、水、保存食、……さ、酒……か?」

記述を追っていたミュラーのペンが、ピタリと止まった。


前線の兵士たちにのみ、労いとして「特別な酒」が配給されていた。

通常のエール(麦酒)だけではない。身体を芯から熱くさせ、恐怖を忘れさせるという、強い酒精を持つ蒸留酒。


かつて、戦争が始まる直前、アンゾールマ国で、麻薬中毒者やモンスターが『狂戦士』となった事件が、ミュラーの脳裏を過る。


「まさか、この酒に……」


ミュラーは手元の蒸留酒の支給記録を凝視した。

だが、その成分を確かめる術は今の彼にはない。軍医官は参謀本部の管理下にあり、憲兵が立ち入ることは許されない「聖域」だ。


窓の外では、またどこかで兵士の怒号と、何かが砕ける音が響いた。

勝利の美酒を煽る兵士たちは、自分たちが「人間」であることを辞めるための薬を飲まされているとも知らず、ただ飢えた獣のように次の獲物を探している。


ミュラーの背筋を、得体の知れない冷たい悪寒が通り抜けていった。この城は、勝利したのではない。巨大な「狂気の実験場」へと変貌していたのだった。



レイン中隊の天幕を包む澱んだ熱気は、一向に晴れる気配がなかった。それどころか、禁忌の酒によって増幅された兵士たちの精力は、昼夜の境界を完全に破壊していた。


「おらっ! もっといい声で鳴けよ! 『名門』の感想はどうしたぁ!」

湿った衝撃音が響くたび、レインの身体は無慈悲に跳ねる。


「ひ、ぎぃっ……あ、ぁぁあッ!!」

レインの身体が、背後から突き上げられる衝撃で大きくのけぞる。彼女の白かった肌は、男たちの無遠慮な指跡で赤黒く変色し、全身が脂汗と卑俗な体液でぬらぬらと光り輝いていた。


かつての凛とした中隊長としての面影はどこにもない。散乱した衣服の上で、彼女はただ突き上げられる衝撃に身を委ねていた。


「ああんっ!! き、きもちっ……いい……です!! もっと、くださぁぁい!」


その言葉は彼女の本心ではない。

精神が崩壊する寸前で、彼女の防衛本能が選んだ「生存戦略」だった。陵辱を快楽と思い込み、自らを貶める言葉を吐くことで、魂が砕け散るのを防ごうとする、哀れな自己催眠。


「フィールド家の令嬢は、今や高級娼婦もびっくりの愛玩動物に堕ちたな。見ろよ、この媚びた目を!」


「これだけやっても、まだまだ締め付けやがるぞ!」


兵士の一人が、レインの乱れた金髪を力任せに掴み上げ、その耳元で怒鳴りつけた。

「ほら、言ってみろ! 婚約者のロイド中佐と、俺たちのどっちが優れてるんだ! 答えろッ!」


レインの視界は、快楽という名の防衛本能で激しく点滅していた。彼女の壊れかけた脳は、この苦痛を「至福」だと変換しなければ、一秒として正気を保てないところまで追い詰められていた。


「あ、はぁ……あぁんっ! ろ、ロイド……なんて……知らないっ……! 兵隊さんたちの……これ……すごい、の……! あ、あたしを…………ぐちゃぐちゃに、して……ぇえッ!!」


「ギャハハハ! 聞いたかよ、今の! 『名門』の令嬢が、自分をぐちゃぐちゃにしろだとよ!」

男たちはその言葉を合図に、さらに飢えた獣のように彼女へ群がった。

兵士たちの下卑た笑い声が、彼女の耳元で爆ぜる。彼らにとって、高貴な女性をここまで堕落させたという事実は、禁忌の酒よりも深く彼らの本能を酔わせた。


「おい、次は俺だ! どけよ、まだ足りねぇんだろ、このメス犬は!」

入れ替わり立ち代わり、絶え間なく注ぎ込まれる暴力的な欲望。レインはもはや、自分を抱いているのが誰なのか、それすらも認識できていなかった。ただ、次にやってくる衝撃に備えて、自ら腰を振り、媚びた声を上げるだけの肉塊に成り下がっていた。


「あ、あ、ぁ……っ!! はぁ、はぁっ……も、もっと……もっと奥まで……。あたし……もう、皆さんの……おもちゃ、だから……っ! お願い……壊して……壊してぇっ!!」


「壊してほしいだと? よかろう、望み通りにしてやる!」


「 処女を失ったばかりの女が、こんなに早く『メス』に仕上がるなんてなぁ! ロイド中佐殿が知ったら、腰を抜かすぜ!」


彼女の悲鳴混じりの喘ぎ声は、天幕の外で吹き荒れる吹雪の中に溶けていく。

誇り高き騎士、レイン・フィールドという存在は、物理的な苦痛と、それを覆い隠そうとする過剰な快楽の濁流に飲み込まれ、完全に消失していた。


その狂乱のすぐ傍らで、ティアは壁に背を預けたまま、静かに座っていた。

「ティア曹長殿は、ヴァル曹長殿に拡張されて緩かったからなぁ! ギャハハ!」

兵士の罵声を浴びせられる。彼女もまた、地獄を通り抜けてきた一人だった。だが、彼女の瞳にはレインのような「逃避」の色はない。


ただただ、冷たく、深く、底の見えない憎悪の沼が広がっているだけだ。

彼女は、自身の肌を這う感触よりも、目の前で「気持ちいい」と鳴き、現実を直視することを放棄したレインの姿が許せなかった。


(……いいわ。あなたがそうやって、汚泥の中で夢を見るというのなら)


ティアは、傍らで肩で息をしながら休息している兵士に、ゆっくりと視線を向けた。

その男は、ティアのあまりにも無機質な美しさに気圧され、一瞬言葉を失う。


「……良いことを思いついたわ。もっと楽しくなる方法を。……あのね……」


ティアは幽霊のような足取りで男に近づき、その耳元で毒を流し込むように囁いた。

「……ねぇ、ただ弄んでいるだけじゃ、飽きてこない? 彼女は『中隊長殿』なのよ。ふさわしい役目を与えてあげなさいな」


その提案を聞いた男の目が、濁った歓喜に染まる。

「……っ! なんだそりゃ! ギャハハ、最高じゃねぇか!!」

男の顔が、期待に歪んだ。ティアが提案したのは、人間が思いつく限りの尊厳の破壊を、より劇的に、より残酷に演出する「舞台」の作り方だった。


ティアの唇が、一瞬だけ弧を描く。

それは微笑みなどではない。自分を地獄に突き落としたレインと世界そのものへの、宣戦布告だった。


「さぁ……始めましょう。英雄たちの『大勝利』を祝う、本当のパーティーを…」


そう言い残してティアは天幕をすり抜け、ロイドの執務室へと向かう。


天幕の入り口からは、兵士たちが、琥珀色の酒瓶を手に次々と入ってくる。

レインは朦朧とした意識の中で、自分に向けられる欲望の質が変わったことにまだ気づいていない。


「おい、起きろ、中隊長殿!」

乱暴に髪を掴み上げられ、レインの虚ろな瞳が強制的に前を向かされる。

「いいか、俺たちが攻めているだけじゃ面白くねぇ。次の戦いでも俺たちが王国軍を皆殺しにできるように、中隊長殿自らが俺たちの士気を高めてくれるんだよ。わかるよな?」


「あ、は……。し、士気……?」

レインの壊れかけた脳に、かつての軍人としての言葉が突き刺さる。


「そうだ! 指揮官らしく、俺たちを奮い立たせてみせろ! その淫らな身体と声を使ってなぁ!」


兵士たちは琥珀色の酒を煽り、獣のような期待を込めてレインを取り囲んだ。

彼らが求めたのは、単なる肉体の提供ではなかった。自分たちを蹂躙している男たちに対し、自ら『もっと強く、もっと激しく私を抱いて、勝利の糧にしてください』と、指揮官として、そして一人のメスとして懇願させること。それこそが、ティアが描いた『最も醜い地獄』の形だった。


ハンスのいない執務室は、冷え切った墓標のようだった。

ロイドは、机の上に置かれた「証拠書類」の束を虚ろな目で見つめていた。賄賂の着服、機密の横流し――どれも身に覚えのない、だが完璧に偽造された「事実」だ。


「ハンス……君まで私を置いていくのか」

数少ない理解者であり、泥沼の戦場でも背中を預けられた男が消えた。参謀本部という巨大な意志が、ロイドから四肢を奪うように、着実に外堀を埋めていく。身体は癒えても、心は霧のような孤独に包まれていた。


(誰も信じられない。この城に、私の言葉が届く人間はもう……)




八十七章読んでいただきありがとうございます。前エピソードに続き、執筆者としても非常に胸が締め付けられる思いで筆を進めました。


今回描いたのは、単なる暴力の連鎖ではありません。

「負のマナ」によって理性を失いつつある兵士たち。ロイドのような知略家が、その場その場で最適な指示を出していたわけでもないのに、たかだか戦争が始まる前の作戦と士気だけで2倍以上の兵力差を覆せるわけがありません。その種明かしでした。


これまでロイドはキレイな立ち位置で、詭道によって戦争を有利に進めてきました。生き残るために精神を乖離させたレイン、そして絶望の果てに「復讐の演出家」へと変貌したティア。舞台は整いました。地獄の業火が燃え上がり、今まさに彼に襲い掛かろうとしています。


物語はここから、救済なき暗黒の復讐劇、あるいは真の意味での帝国の崩壊へと加速していきます。


非常に「胸糞」の悪い展開が続いておりますが、この絶望の先にある彼らの終着点を、どうか最後まで見届けていただけますと幸いです。

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