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転生したけど、ただの高校生やってます  作者: 岸波
転生と、静かな始まり
9/10

それぞれの放課後、交わる気持ち

人との関係は、当人同士だけで完結するものじゃない。

どこかで誰かが見ていて、知らないうちに言葉になり、

それが“噂”として広がっていく。


それは時に、距離を近づけるきっかけにもなれば、

逆に心を遠ざけてしまう理由にもなる。


図書室で過ごす穏やかな時間。

そこに生まれた小さな変化が、

少しずつ周囲にも届き始めていた。


“ただ一緒にいるだけ”の関係が、

他人の言葉によってどう見られるのか――


そして、その中で九條とほのかは、

何を選び、どう向き合っていくのか。


静かな日常に、わずかな波紋が広がる第9話。

どうぞお楽しみください。

第9話:「それぞれの放課後、交わる気持ち」


 昼休み。

 俺は机に突っ伏しながら、ぼんやりと天井を見ていた。


 ――図書室のこと。

 ――ほのかのこと。


 最近、考える時間が増えた気がする。


 「おーい、九條。なんか最近ぼーっとしてない?」


 声をかけてきたのは藤井だった。

 相変わらずの明るい調子で、俺の机に肘をつく。


 「そうか?」

 「そうそう。なんか“青春してる顔”してる」


 「なんだよそれ……」

 思わず苦笑する。


 藤井はニヤッと笑いながら、少し声を潜めた。


 「でさ、最近よく図書室いるよな?」

 「……まあな」

 「三浦さんと一緒にいるって、クラスでちょっと噂になってるぞ」


 ――噂。


 その言葉に、ほんの一瞬だけ心がざわついた。

 見られるのとは違う、不特定の誰かに広がっていく感じ。


 「別に、変なことしてるわけじゃないだろ」

 「そりゃな。でもさ――」


 藤井は少しだけ真面目な顔になる。


 「三浦さんって、あんまり誰とも関わらないイメージあるじゃん?

 だから余計に目立つんだと思う」


 その言葉は、責めるでもなく、ただの事実みたいに聞こえた。


 「でもさ、最近ちょっと変わったよな」

 「……何が?」

 「三浦さん。前より表情やわらかくなってる」


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。



 放課後。

 俺はいつものように図書室へ向かった。


 扉を開けると、ほのかが席に座っていた。

 目が合うと、小さく手を振る。


 「九條くん、来たんだね」

 「うん。今日はちょっと遅れた」


 席に座りながら、少し迷ってから口を開く。


 「さっき、藤井にさ……」

 「藤井くん?」

 「うん。俺たちのこと、噂になってるって聞いた」


 ほのかは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。


 「……そっか」


 小さな沈黙が落ちる。


 「やっぱり、嫌か?」

 俺が聞くと、ほのかは少しだけ考えてから答えた。


 「正直に言うと……ちょっとだけ怖い、かな」

 「……そっか」

 「でも――」


 彼女はゆっくり顔を上げる。


 「前みたいに、“全部避けたい”とは思わないよ」



 「私ね、前は“人に見られること”とか“噂されること”がすごく苦手だったの」

 「うん」

 「でも今は……九條くんと話す時間のほうが、大事だなって思える」


 その言葉は静かだけど、はっきりしていた。


 「だから、噂があっても……」

 少しだけ照れたように笑う。


 「嫌じゃない」



 言葉が出てこない。

 ただ、その一言が胸に残る。


 「……俺も、嫌じゃない」


 それだけ言うのがやっとだった。



 その日の帰り道。

 俺はひとりで歩きながら考えていた。


 噂。周りの目。人の評価。


 前世では、そういうものに縛られてばかりだった気がする。


 でも今は――


 それよりも大事なものが、少しずつできている。



 翌日。

 教室に入ると、藤井がニヤニヤしながら手を振ってきた。


 「お、図書室ボーイ来たな」

 「やめろそれ」

 「で? 昨日も行ったんだろ?」

 「……まあな」


 藤井は満足そうに笑う。


 「いいじゃん。なんか楽しそうでさ」


 その一言に、自然と肩の力が抜けた。


 ――ああ、これもきっと“普通”なんだ。



次回予告:

第10話「少しだけ、特別な約束」

今回もお読みいただき、ありがとうございました!


第9話では、「噂」という少し外側からの視点を通して、

九條とほのかの関係を描きました。


二人の中では自然に積み重なってきた時間でも、

周りから見ればそれは特別に映る。

そして、その“周りの視線”が、本人たちの気持ちに影響を与えていく――

そんな現実的な変化を意識した回です。


藤井という存在も、ただの冷やかしではなく、

少し距離のある第三者だからこそ見えるものを持っているキャラクターとして描いています。

こうした“外からの言葉”が、物語に少しずつ厚みを加えていければと思っています。


また、ほのかが「怖いけど嫌じゃない」と答えた部分は、

彼女の成長のひとつでもあり、

九條との関係が彼女にとって安心できるものになっている証でもあります。


そして九條もまた、

“普通でいること”の意味が少しずつ変わり始めています。


次回は、そんな二人の関係に

ほんの少しだけ踏み込む「約束」が描かれます。

小さな一歩ですが、大きな意味を持つ回になる予定です。


引き続き、ゆっくりと進んでいく二人の物語を見守っていただければ嬉しいです。

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