8. ドキッ☆神様ハーレム
「じゃあ、おまえの言う神様ってやつは何なんだ」
マダガスカルがしつこい。
おまえこそ神をどんなものと思っているのか。仕方がないので説明してやることにした。
「おまえは神のことを、都合の良い願望充足機とでも思っていやしないか?
俺のいう神は架空の存在ではない。実在するものだ。おまえたちの主観からすれば万能の存在だが、俺たち自身からすれば然程、万能ではない。
俺たち、神と呼ばれる存在のことをおまえにも分かるような言葉で言い表すのは難しい。おまえたちの眼では、俺たちの実像の全体を見ることが出来ないのだから概念として説明するしかない。
俺、つまり神とはいわゆる物体ではなく現象なんだ。人間のいう意味での実存する『形』はなく、ただそこに『ある』だけの存在だ。人間に似た姿をとっていたとしてもそれはたまたま見えているだけの一面に過ぎず、本質は全く異なる内面を持つ。
いうなれば超生命体で、この次元の外、多次元宇宙にまたがる純粋なエネルギー体なんだ。明確にいうならば生物ですらない」
「超生命体キター」
冷めた目でマダガスカルが呟いた。が、俺の話はまだ終わっていない。
「俺たちは個々の存在ではなく、一つの存在の異なる現象であって、それぞれ違う姿を取っているように見えてもすべからく同根、同一体なんだ。
つまりどんな姿であれ、全部俺。ここにいるのは我であり、同時に我らだ。我々にとって自我とは表層に過ぎない。
平面を切り取ったものを断面とみなし、重ね合わせることによって立体を生成するがごとく、我々の表層もあくまでこの次元に現れた、切断された現象の一部にすぎない。
我々はこの『大陸』の創造者であり、その存在は次元をまたぐ。我々は決まった姿を持たない。神が姿を表すとき、その姿は実体ではなく人々の願望の現れなのだ」
「厨二設定てんこもりだな。実体を持たないというなら、今ここにいるお前は何だよ?」
その質問は当然でるものだと思っていたので、微笑みと共に、準備していた答えを示した。
「俺は神だよ。一にして全、全にして一であるもの。そのなかのエイレイシアという表層だ。俺は美しいだろう? 神とは美しいものなのだよ。何故なら人びとがそう望むからだ」
「自分を美しいとは、おまえはナルシストか」
マダガスカルがうんざりした様子で言ったが、俺は別にナルシストではない。純然たる事実である。そして、俺の話はまだ終わっていない。
「おまえは俺が女神を名乗ることをやたら気にするが、姿すら定まらぬ俺にとって性別など些細なことだ」
「些細じゃねーよ! 気にしろよ!!」
何故に気にする必要があるのだ。
まあ、それは置いておいて、俺はマダガスカルに質問してみた。
「ところでおまえ、他の俺にも会ってみたいか? 美男美女、美幼児美老人、選り取り見取りだぞ」
「おいまてコラ! 美男もいらねーが、それ以上に、後ろの二ついらないよな? 俺は託児所か!? 介護老人施設か!?」
相変わらずマダガスカルは騒がしい。大人な俺は気にせず続けてやった。
「おまえ、見るからにそういうのと縁遠そうだしな。よし、紹介してやろう。めざせ神様ハーレム!」
「いらねーよ! お前の同類ばっかなんて、悪夢でしかねーよ! ぜってぇ収拾つかねぇ!!! 違う意味でドキドキするわ」
「大丈夫か? 不整脈か? 安静にしろよ」
「なぁ、俺はいつになったら帰れるんだ……?」
心配してやったというのに、マダガスカルが遠い目で明後日な内容をつぶやいた。
そんなこと俺に聞かれても。自力で帰れとしか言いようがない。