決戦ですわ
薪の爆ぜる音に、私は〝アリシアの最期〟から引き戻された。
「・・・・こんな気持だったのね、アリシア」
目を覚ました私の胸に、アリシアの無念がわだかまっていた。
私は星空を見上げ、静かに目を瞑った。
◆◇◆◇◆
アリシアの記憶の夢を見て目が冴えてしまった私は、鍋で狼の皮を煮ながらゲームを思い出していた。
「焔爪と凍牙の棲家の構造は・・・・」
その時、恐らく北西と思われる方角から、「ドォオオオオオオン」という雄叫びが聞こえた。
・・・とうとう気づいたか。
メグが、飛び起きた。
「な、なにあの音!?」
「焔爪と凍牙の王が、仲間を殺した奴がいることに気付いたんですわ」
「え・・・!? あれ、オオカミの遠吠えなの!? あんなのもう、爆発じゃん!!」
「メグミ、明日、焔爪と凍牙の王を倒しに行きますわよ」
「ふぁ!? ――え、逃げ回って、にっちもさっちもいかなくなったら戦うんじゃないの!?」
「いえ、こちらから行きますわ――相手の棲家をこちらは把握してるんですの。ならそのアドバンテージを活かしますわ」
次の日、満月の夜、メグと北西へ向かう。
リームは拠点でお留守番だ。
竹簡の地図に書き込みながら――ペンは赤いコンドルの羽から作った羽ペン、インクは炭と膠を混ぜた墨だ。
さらに、まんまの炭を背負ったメグが首を傾げた。
「アリシアさん、炭をこんなにどうするの?」
メグの背中と彼女が引くソリには大量のよく水気を飛ばした炭。
さらに私の背中にも炭。
「これが、今回の戦いのキモですわ」
「こんなので戦うの?」
「ええ」
――やがてたどり着いたのは、白い崖の上。
「この白い崖の下にある洞窟が、焔爪と凍牙の王の棲家?」
「ですわ」
私は指をさす。
「あれが入口ですの」
「じゃあ突入する?」
「なんでやねん」
「え? いやアリシアさんこそ、なんでやねん――焔爪と凍牙の王と戦うんでしょ?」
「いきなり正面から戦うなんてしませんわ。まずは毒ガス攻撃します」
「ど、毒!?」
「毒にも、色々ありますけれど」
「なんだっけ、前に言ってた塩水のやつ?」
「塩水がありませんわ」
「だよね。ウチ等毎日の塩も事欠く有様だもんね――じゃあ・・・なんだっけ温泉地によく湧いてる」
「硫化水素? 硫黄がないですわ」
「じゃあ、毒ガスなんて、作れないじゃん!」
私は、メグの背負っている物を叩く。
「ここにあるじゃないですの。恐ろしい毒ガスを発生させる物体が」
「え・・・・炭!?」
「そう、毒ガス様々あれど、生物の命を奪うものは案外作りづらい。しかし一酸化炭素ほど簡単に発生して、生物の命を奪う毒ガスは、そうそうそうありませんわ」
「ただの焚き火で、毒ガス作るつもりなの? ・・・・ア、アリシアさん、怖すぎる」
というわけで私は、まず天然の有刺鉄線を洞窟の入口からちょい奥まった場所に敷く。
次に、タイマーとして小さな鉄球を作って、その後、分厚い鉄を生成して、洞窟の入口を塞いだ。
今回はロケットストーブの逆だ、酸素供給を減らして不完全燃焼を起こしてもらう。
入口を塞ぐ鉄に作っておいた窓から炭を投入。
火を付けて暫く待つ。
異変に気付いたダイアハウンドがやって来たりしたけど、火を恐れて引き返していった。
「にしても、この白い石は・・・・もしかして?」
私は、この洞窟の地質をしばらく凝視していた。
「どうしたの? アリシアさん」
「メグ、恐らくここは絶対に必要な場所――やはりここは、制圧しないと駄目ですわね」
「え・・・?」
しばらくして、また別の個体らしきダイアハウンドが、鉄に体当たりとかしたけど、そんなことで動くようなヤワな量の鉄じゃない。
何度か新しい鉄塊を、前の鉄塊の前後に作ったりしていると・・・・来た!!
焔爪と凍牙の王だ!!
・・・・焔爪と凍牙の王――その巨体は、他のダイアハウンドの2倍近い。
「うわ・・・・アリシアさん、なにあれ!? 犬じゃなくて象だよあんなのもう!」
「象・・・・たしかに言いえて妙かもしれませんわね」
ヤツがこっちに全力で走ってくる。
が、天然の有刺鉄線を前足で踏んで、わずかに顔を歪めた。
しかし突進を止められたのも一瞬。
ヤツの爪から炎が巻き起こり、トゲ植物を焼き尽くす。
あれが焔爪と呼ばれるの理由。
だけど、ああして、ちょっとでも酸素を消費してくれてるなら有難い。
天然の有刺鉄線が灰になると、焔爪と凍牙が鉄に体当たりしてきた!
私とメグで鉄を押し返したけど、なんてパワー!
一酸化炭素でデバフが掛かってるはずなのに、なにこのパワー!
私は更にタングステン塊を生成。
莫大な質量で、焔爪と凍牙の突進に耐える。
うっ、鉄と違って、元素番号が大きいタングステンを生み出すと結構体力を奪われる!
「メグ!!」
私はメグにセシウムの矢じりを渡す。
「うん!」
メグは私が鉄塊に作っておいた、矢襖から矢を焔爪と凍牙に放った。
でも、その顔が、「サッ」と青くなる。
「だ、だめ! アイツの目どうなってるの!? 目にすら矢が通らない!!」
「なら、こっちを使ってくださいまし!!」
私はナトリウムの矢じりを渡した。
セシウムよりは少し硬い。
「う、うん!!」
メグが再び矢を放つ。
燃料投入口から見ていると、矢をその牙で砕いた。
矢が凍っている。
そして、「なんだこんな物」と飲み込んだ。
これは・・・・!
「メグ、でかしましたわ!!」
「の・・・飲んじゃった」
しばらく矢の氷が溶けなかったのだろう。
焔爪と凍牙が鉄塊に何度か体当たりをした後、
ドンッ
奴の腹から、太鼓を叩いたみたいな音がした。
一瞬、焔爪と凍牙が白目を剥いてふらついたけど、すぐに立ち直った。
「嘘でしょ・・・ナトリウムの爆発を内臓に食らって死なないとか・・・」
「ど・・・どうしようアリシアさん・・・!」




