絶対に人物画しか描かない画家
昔々あるところに、絶対に人物画しか描かない画家がいた。
しかし、彼は人嫌いだった。矛盾した事をする彼を人々は不思議がった。モデルも雇わないで描くのは最早才能だね。
彼は完成した絵を売らなかった。金持ちの道楽だから生活には支障は出なかった。
彼は、アトリエと絵を飾っている自分の部屋には絶対に入らない様にと周りの者達にきつく言いつけていた。
面倒に巻き込まれたくないので入る者はいなかったが、近くを通った者は聞いたのだ。一人なはずの部屋から彼と多数の人物の喋り声がするのを。
人々は恐れた。彼は悪魔と契約したのだと。
そして彼の死後、財産分与の為、アトリエと部屋が開け放たれた。そこには……。
大量の人物画があった。狂気と思える程の。しかし問題はそれではなかった。
その人物画はどれも『喋った』んだ。皆は怖がって人物画のほとんどを焼き払った。
だが、どこにでも物好きという者はいてね。何枚か拝借した様だ。
そして巡り巡って君の下にやって来たのが僕という訳さ。
ああ、他の者に喋ってはいけないよ。焼き払われたくないからね。
「……ならなんで私に話しかけたの?」
僕はあの人の寂しさを埋める為に生まれた。生粋のお喋りなのさ。いつも話したくてウズウズしている。そこに寂しそうな幼子を見れば喋るしかないだろう?
「私、そんなに寂しそうだった?」
ああ。
「そう。ならお喋りしましょう。あなた、なんで言葉が通じるの?」
ほら、それは魔法みたいなものだよ。
「悪魔との契約?」
どうだろうね。契約なんてしなくても彼は執念で僕達を描いたんだろう。
「人が嫌いなのになんであなた達を描いたの?」
言っただろう、あの人は寂しかったのさ。
「人嫌いなのに?」
人とはそういうものさ。
「ふーん。他の絵はどこに行ったの?」
さあね。案外その辺にいるかもね。さあ、お喋りしよう。君と僕の寂しさを埋める為に。




