第17話 番外編 駆け落ちしました。
出がけに雑貨屋に寄って、アンネは侯爵夫人と自分の父上に手紙を書いておやじに頼んでいた。
さて。出発。
俺の実家までは、3日かかる。北部の、しかもその北の端。途中の宿場で二泊になる。夜掛けすると馬が疲れてしまうしな。
雪が降る前には帰りたい。
馬に二人乗り。アンネを抱きしめているのでお腹は暖かい。途中でアンネにコートを買おう。
華やかな王都での生活が長いアンネを半年も雪の中の生活につれて行くのは…正直俺にも躊躇があったし。
返事がもらえなかったから、あきらめかけたのに…ついてきてくれた。嬉しい。
馬に揺られながら、アンネがくすくす笑いをする。
「どうしたの?アンネ?」
「ん?ねえ、クルト、食べるものが無かったら、私、一生懸命働くからね」
「うん。ありがとう。でも、そんなに心配しなくても…」
「家だって、二人で頑張れば建てれそうよね。森があるんでしょう?森の木を伐り出せばいいしね」
「…アンネ?家はあるよ?」
「うふふっ。マルハウスで鍛えられたから、たいがいのことはできそうな気がするわ。一人じゃないんだもの。ね?」
「うん…でもね、本当に田舎だよ?王都に住んでいたアンネには退屈じゃない?華やかさもないしね」
「大丈夫よ。田舎もクルトも大好きよ!お家だって、ヤン爺さんの家ぐらいでもぜんぜん大丈夫よ!!!」
「…アンネ…」
多分、本当にそう思ってくれているんだろう。相変わらず面白い子だなあ。
二つ目の宿場町あたりで、もう雪がちらちら降り始めていた。
町の毛皮屋に立ち寄る。
「…いや、クルト?無駄遣いしている場合じゃないでしょう?そんないい毛皮のコート買わなくても…退職金で馬も買ったんでしょう??」
「お前が思っているより寒いんだよ?それに…ずっと一緒に暮らすだろう?」
そういうと、こくこくっ、とうなずいた。アンネは…顔を赤くして照れているようだ。
「ブーツもいるな。帽子と手袋も。皮のスラックス?いいかもね。おやじ、マフはある?」
「…クルト?」
どうも、本格的に雪になりそうだ。夕方までには家に着くように急ぐ。もこもこになったアンネを抱えるように抱きしめながら馬を進める。先ほどから降り出した雪で、道が白くなってきた。
まだ午後3時を回ったぐらいだと思うが…周りはもう暗くなってきた。馬の息が白く見える。
馬の進む先に、篝火が見える。その奥に石造りの城門。
「おお!若!若がお戻りだ!」
「開門!!!」
「若!」
「クリストハルト様が戻られたぞ!」
「おお!若が嫁を連れてご帰還されたぞ!」
辺境伯家の家紋の入った門が、ゆっくりと開く。
「ようこそ、アンネリーゼ。ヤン爺さんの家よりは、少し広いよ?」
「えええええええええ?????」




