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第15話 ゆで卵。

クルトが煮込み料理を作ってくれるらしい。先ほどから黙々と調理をしている。

ヘンリック様には薪を運んでもらっている。


なんだかこいつ、さっきから機嫌が悪い。


買い出しの荷物を全部持たせたからだろうか?

パンと豚肉のブロックと、キャベツと玉ねぎと人参。あ、ジャガイモも。

そうそう、来る途中の畑で、早取のカボチャも貰ったんだった。重かったかな?


「お皿は出したわよ?あと何か手伝う?」


一応、ご機嫌を伺ってみる。ん、と玉ねぎを渡される。


「……」

「あんたさあ、何怒ってんのよ?」

「…お前は、ああいう、マルちゃんさんの兄上みたいなやつが、その…好きなのか?」

「は?」


台所で並んで玉ねぎを切り刻む。目に染みて痛い。


「…な…泣くほど好きなのか?」


私の顔を見て、驚愕の表情。


「バカなの?玉ねぎよ。」

「……」


「私はねえ、これでも婚約者がいて…。」

「え?ああ。そ…そうなんだ…」

「なんていうか、いたんだけどね。ほんのちょっと反論してみたら、そいつ、女のくせに生意気だ!って平手打ちよ。」

「え?おまえ…。」

「頭に来たから、グーで殴った。まあ、すっきりしたからいいんだけど。」

「あはははっ。らしいな。」

「それで親にあきれられて、行儀見習いにおばさまのところに出されて、侍女をやってるわけよ。」

「くくくっ。」


クルトは大笑いしながらも、料理の手は止めない。すごいわね。騎士養成所。

私は次はゆで卵を剥けと言われたので、水で冷ましてあった卵を剥いている。


「…俺はさあ、この一件が落ち着いたら、国元に帰ろうと思ってるんだ。すごい田舎でさ、森と雪とリンゴしかないようなところなんだけど。」

「ふーーーん。」


ことこと煮込み始めた鍋から、いいにおいがする。


「お前みたいなやつがいたら、そこでの生活も楽しそうだと思ってな。」

「ふーーーん。え?」


ゆで卵を持ったまま、思わずクルトを見上げる。


「……」

「え?」

「……」

「…ええええ????」

「俺と、駆け落ちしない?アンネ?」

「えええええええええ?????」


「考えておいてくれ。」


木べらでゆっくりと鍋をかき混ぜながら、クルトが恥ずかしそうに笑う。



*****


2時間ほどして、森の管理小屋から二人が手をつないで降りてくるのが見えた。

薪を干してあるところから、台所の脇まで何度も薪を運んでいたヘンリック様が、二人が戻ってきたことを知らせに来た。


心配することはなかったな。


小さいキッチンは、豚の煮込みのいいにおいが漂っている。

なんとなく気まずくて、無言で調理をしていた私たちは急いでお昼のセットを始めた。

煮込みと焼き立てパンとゆで卵入りのカボチャのサラダ。


「うまくいったみたいだから、ワインも開けちゃいますか?」

奥からとっておきのワインを引っ張り出してくる。グラスを5つ。お祝いだわね。


「おかえりなさいませ。あの、ちょっと失礼して。」

二人を出迎えて、ランドルフの頭についた蜘蛛の巣を取る。服の綿埃も払う。


…こいつ…掃除して来たんだな。


あの部屋を見たのか。んんん。今回は本をあまり持ち込んでいないはずだから、そんなには散らかっていないはず。だと思いたい。しゃがんで床も拭いたのか、ランドルフのスラックスの膝が少し汚れている。


「ごめんね、ランドルフ。何度も部屋は綺麗にしろって言ってきたんだけどね。」

私がランドルフのスラックスをはたいてきれいにしているのを見て、ヘンリック様が申し訳なさそうに言う。

「問題、ないよ。そんなこと。マルが苦手なことは僕がやればいいことだし。ね?マル?」

ランドルフは吹っ切れたような笑顔だ。


「えーーと。婚約破棄はないことでいいのかな?」

「うん。」

「はい。」

お二人はお互い見つめあって笑っている。まあ、根掘り葉掘り聞くのは後にしよう。


「じゃあ、お昼にしよう。」



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