ハーメルンの笛吹き男登場
部屋に戻ってソファでぷんすか怒っているカーミラに、メイドがすっとホットチョコレートを出す。
「そう怒るなよ、カーミラ。私が女性の血を吸うのは今に始まったことではないだろう?」
「私が見ていない時にしてっ。」
「そのつもりだったんだけど、いつ帰って来たの。」
「ついさっきっ。」
「で、なにかあったの?」
「あの枢機卿、すっごいスケベだった!」
「なにかされたのか!?」
「されるわけないでしょ。」
伯爵はほっとしてカーミラの横に腰かけた。
「枢機卿は茨姫の居場所を知っていたわ。あの城の茨を薙ぎ払った剣をヘッセン王子に渡したのは枢機卿だったの。」
「枢機卿が魔法の剣を?」
それに父である国王が知らない茨姫の居場所を知っていたのか。
「枢機卿は茨姫に魔法をかけた魔女と繋がりがあるわ。正確に言うと百年前に教会にいた大司教かしら。」
「でもよく枢機卿からそんな情報を得られたね。」
カーミラは気まずそうに伯爵から目を逸らした。
「……ちょっとお茶を一緒に飲んで枢機卿の手の上に手を置いて上目遣いで聞いたらすぐ教えてくれたわ。」
伯爵がガタッと立ち上がった。
「……カーミラ?」
「あ、あなただってあの女の手を握っていたじゃないのっ。私だって鳥肌に耐えて……。」
よっぽどいやだったのだろう、カーミラは小さく震えながら涙をぽろりと流した。また鳥肌も立っている。
伯爵はほうっと息を吐き、ゆっくりと座ってカーミラを優しく抱きしめた。
「頑張ってくれたんだね。君の血を吸いたいよ。」
「それはダメ。」
「わかってる。」
その時、すとっと部屋の隅に珍妙な格好をした男が天井から降ってきた。
ギザギザにカットされた様々な色の襟、同じようにギザギザのチューリップを逆さにしたような帽子をかぶっている。
顔は若いのか年をとっているのか分からない、平凡で不思議な容貌をしている。
「疫病神じゃないか。」
「ほんとだわ、疫病神だわ。」
「うるせえ。俺は『ハーメルンの笛吹き男』というちゃんとした呼び名があるんだ。」
「名前ではないだろう。お前がこの国へ派遣された密偵だったのか。」
「お供のネズミはどうしたの?」
「ネズミは散って情報を集めている。」
ハーメルンの笛吹き男は笛を吹きながら街から街へ渡り歩く。そして街を去る時にはその街から何人かの子供が消える。笛吹き男は疫病を撒いているのではなく、疫病が蔓延しているところに行っていただけだ。そして疫病で死んだ親の子供たちを集めて育て職業訓練をする。
成長した孤児たちはヴィルドゥゲン王国の隠密となるべく育てられ、ネズミと呼ばれて各国に散らばるほか、中には大臣の秘書や騎士団の中に紛れ込む者もいる。
笛吹き男が通り過ぎると疫病が流行り、子供が消えるため彼は『疫病神』といつしか呼ばれるようになった。
「この国にはあまり長居をする必要はないと思うぜ。」




