40 楽しいお昼休み 狂乱と抱擁の挽歌
「何なんですかこの状況!? 私はこの場をどう処理していけば良いんですか? 陽子さんは暴走するし、彼方先輩は泣き出してしまいましたし。和美さんは対処に追われていますし。訳が分からな過ぎて発狂しそうです!!」
耐えきれず、ふーりんの感情が爆発しました。
始めて見るふーりんの爆発。光お姉様を除いた私達三人は、一大事だと思い、急いで消火に動きます。
「どうしてお姉様は帰ってしまわれたのですか!? 私一人だけお姉様が居ないなんて酷いです、おかしいです。もしかして二人は、お姉様自慢をしたくてここに連れてきたんですか?」
「光お姉様の事なら場所など問わず、何時でも自慢していきますよ」
お姉様への愛にオブラートは要りません。
「うん、陽子さんは一旦会話に入ろうとするのを止めようか。フレデリカさん。和美の事は、私が原因だからね。自慢とかじゃないから。だから落ち着いて。ね?」
「そうだよ、ふーりん。お姉様を泣き止ませるのが自慢とか嫌すぎるんだけど」
「和美、嫌って事は無いでしょ。嫌って事は」
「手間のかかる姉なんて普通に嫌ですよ。あたしは手間のかからない、それでいて頼れる方が良いです」
「そんな事を言うの。なら、和美に全部背負ってもらうからね。エミリーと陽子さんとの仲を取り持つのも任せたよ」
「あ、ずるい。下級生に上級生の面倒まで押し付けようとするだなんて」
「押し付けようじゃなくて、押し付けるんだよ」
二人のやりとりが始まり、説得されるはずのふーりんは、目の前で繰り広げられる追い打ちで、死んだ目で二人を見ていました。
「もうそのやり取りだけで仲が良い自慢じゃないですか!!」
ふーりんの一喝に、二人はやらかした事に気付きました。
ですが、二人にしてみればただのやり取りだったのでしょう。
これは非情に不味いです。普通の会話すら、今のふーりん相手では嫉妬の対象になりかねません。
作戦の建て直しが必要ですが、それには会話が必要です。更にふーりんが燃え上がる事を思えば、会話という燃料を投下する事は出来ません。
姉に飢えたふーりんは、次第におかしくなっていきました。
「私のお姉様は何処ですか? エミリーお姉様。隠れてませんか?パンの間、床の隙間とかには居ませんか?」
羨ましさと嫉妬が溢れすぎて、ふーりんが妖怪的なものに変わってしまったように思いました。
万事休すです。ふーりんを止める手立てはありません。
もう時が解決してくれるのを待つしかないと、予鈴が鳴る時を私達三人は待つ事にしました。
「光お姉様?」
その時でした。光お姉様が立ち上がり、ふーりんに近付いたのは。
「せ、先輩。私に何か御用ですか?」
理由が分からず近付いてきた光お姉様に、ふーりんは身構えていました。
当然光お姉様は動じていません。それどころか、意外な行動に出ました。
そしてそれは、私にとってはとんでもない行為でした。
ふーりんの両頬に手を当てたかと思ったら、そのまま自分の胸に押し付けたのです。
「私というものが在りながら、お姉様!?」
「わ、私にはエミリーお姉様という方が居ますので、あの、その……」
離れようと暴れるふーりん。ですが、次第に抵抗は弱まっていきました。
そして脱力の果てに、お姉様の胸に顔を埋めたままへたり込み、動かなくなりました。
「お姉様。まさか、息の根を止めたんですか?」
恐る恐る尋ねました。光お姉様は、普段通りの様子のまま言いました。
「落ち着いたら気が抜けたみたいね。寝ているわ」
その言葉に驚き、耳を澄ませてみれば、寝息が聞こえてきました。
「えっと、お姉様? これは何かの技ですか?」
「心音を聞くと落ち着くというだけの話。彼女は酷く興奮していたから、かなり効果があったのかもね」
お姉様は人知れず、とんでもない技を持っていました。
「因みにですが、お姉様は誰かにされた事が……?」
知りたいような、知りたくないような……。私は、葛藤の果てに尋ねました。
「あの人に……ね」
懐かしむような表情をするお姉様。
(あの人ってどの人? 私の知らない人ですか? そもそも私、お姉様の交友関係とか家族関係とか一切分かりませんけど)
一人悶々としていると、彼方先輩が慌てた様子で言いました。
「落ち着けた所だけど、そろそろ予鈴が鳴るよ。フレデリカさんを起こして。片付けも急いで」
場を終わらせるため、お昼休みの残り時間を確認していたのでしょう。
普通なら、まだ談笑出来たはずです。ですが、状況的に予鈴がなってからでは授業に遅れてしまうほどに混乱した状態だったので、先輩が早々に時計を見てくれて助かりました。
全員で急いで片付けを始め、焦りつつそれぞれが教室に戻るという幕引きです。
初の昼食会は、ドタバタな展開になってしまいました。ですが、この騒動のおかげで私の心のざわつきはうやむやになりました。




