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小説家人形  作者: 五島タケル
四章
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異世界へのトンネル

 飛行機の窓から眺める沖縄は穏やかなグリーンの海が広がり、以前とは違ってどこからも煙や爆風も上がらず、一見すると落ち着きを取り戻しているように見える。


 だがつい3か月ほど前まで私はここで全く違った思いを抱いていた。

日々悲惨な戦闘を繰り返し、何人もの県民の命を犠牲にし何人もの仲間の死を沈痛な思いで見送った。命からがら逃げるようにこの地を後にした苦い思い出。


 確かに私はここで戦争をしていた。

名目としては反乱鎮圧であったが、あれはまごうことなき血で血を洗う戦闘行為そのものだった。


 そのはずの場所は今やその気配を隠し静けさを保とうとしている。不思議な感覚だった。

私もその時の恐怖感は抑え、慰霊のためにここへ来たんだという心境になっていた。



 空港から出て出版社へ向かう途中の車の中からも、直に沖縄市街を眺める。

実際に見る街並みは、お店や住居、ビルなどの建物がいたるところで崩れ落ち、やはり痛々しい戦闘の爪痕が残っている。

市民の姿は一人も見えず、ほとんどゴーストタウンといった様相だ。


 それもそのはず、現在沖縄には戒厳令が敷かれ市民の自由な行動は固く禁じられているという。

生活物資の配給のみ定期的に学校のグラウンドや公園、公民館などで行われているらしく、その決まった地点にのみ人が集まっていた。

まるで敗戦後の風景を思わせるものだが、沖縄の人々もこの現状を受け入れたと見え、集う人々の表情は落ち着いて見えた。


 依然、沖縄は日本の統制下にある。

まだ正式には日本の治安組織、警察や機動隊がこの地から撤退したという情報は発表されていない。反乱組織が鎮圧されたという情報もない。

ただ沖縄では戦闘がいったん止み、不思議と膠着状態が保たれている。


 安西さんの話では、今は停戦状態に入っているという。


 他国の介入を受けても米軍は何故か沈黙を守り一向に動いてくれない中で、日本の治安維持部隊は不利な状況を鑑み、戦略的撤退を決めたという。

 そのため反乱勢力とも一時停戦を結んだということだ。


 後のことは沖縄県民の意思に委ねようということで、もはや余力のない日本政府はほとんど匙を投げたのだろう。いずれこの島もコチラ側陣営の管理下に入る、安西さんは最後にそう言っていた。



 静まった街の中を、広い道路沿いに一定の感覚を持って規律正しく兵士が配置されている。もちろんC3隊員であるわけがないが、明らかに日本の兵隊でもなかった。


 ここにいる彼らは、一歩もここから動かないといった強い意思と、やや悲壮感を感じさせる固い表情で立っている。

彼らの胸の徽章には赤い旗印が見えるのでやはりここはもう、安西さんが言う通り規律の元へ下っているのだろう。


 それを考えると悔しさと無念で忸怩たる思いが込み上げてくるが、だがあの争いで体感した住民たちの強い反抗の意志、憤りを目の当たりにし、そしてそれに便乗する外国勢力の介入を許してもなお、何ら有効な手立てが打てない日本の国家としての施策の拙さを鑑みると、こうなるのも仕方のない事だとも思えた。


 たとえ促される形だとしてもここに住む人たちが規律を望み、たどり着いた結果ならば受け入れなければ。私は窓から目を逸らし、少し目を瞑る。



 ほとんど車の走らない道路をスムーズに進み、私たちは出版社の入っているというビルへと到着する。そこには安西さんが、一人の40前後の薄毛の男性と共に立っていた。瞬間的にイヤらしいイメージが頭に浮かぶ。


「やあっす五島さん待ってたっす。長旅ご苦労様です。どうっすか?まだすこしヤな気分になりますよね?」

「まあね。まだこの地へ来るのはねちょっと気分的に・・・・・」


 安西さんの着るシャツが汗で体に張り付き、ふくよかな胸のラインがはっきり見える。何気ないセリフを呟きながら、私は彼女に欲情を感じていた。

まだここにいることで、生命の危うさを感じているのかもしれないことを意識する。


「・・・・でもずいぶん変わったよ。街並みが落ち着いているだけでも、あのころとは違ってずいぶん希望が感じられる」

 この現状の街中を見て、ゴーストタウンに希望を感じるというのは、自分で言っていて大げさすぎる、ウソっぽいとは思っていたが、私は隣にいる男性に気を使って発言をしているつもりだった。


「あっはははは、まあいずれ軍も去り土地がまた我らの元に戻ってくる。そして復興がじきに始まるでしょう。希望を感じるのはその時でしょうね」

 隣の男性が笑って答えている。

気さくな人柄が感じられ、私の気分が若干和らぎ安西さんへ抱く性的なイメージも消えさった。


「あっと紹介しますね。コチラの方が五島さんの本を出版してくれる会社の社長さんで、八重原さんです」

「よろしくお願いします、私は八重原やえはらといいます。ここで創星界そうせいかい出版という小さい出版社をやらせてもらってます。

まだ出来て数年でコレといった本は出せてないんですけど、気骨のある作品を生み出そうって姿勢は崩していませんので。五島さんの小説大変気に入りました。ウチの目玉にするつもりです」


「はっはあ、それは私にとっても大変ありがたいことで・・・・・、あっ改めまして私は五島タケルといいます。これからよろしくお願いします」

 近くで見ると意外に若々しくギラついた印象を受ける。私ともそう年齢は違わないのかもしれない。彼にもどこか共感めいたものを感じていた。



 八重原さんに案内される形でビルの3階にある会社に入っていく。創星界出版と書かれたドアをカードキーで開けてもらい中へ入ると、一つの学校の教室ぐらいのスペースに、立派なオフィスがお目見えする。

中には女性が1人と男性2人、3人の社員がデスクについていた。


 まず私は中央の大きなテーブルに平積みにされた大量の本の山に目を奪われる。


「ははっこれどうぞ。五島さんの本ですから」

 その場からたじろいで動けない私に、そのうちの一冊を取って手渡される。ここに至ってようやく実感が込み上げ、私は自分の小説を手にした感動を味わうことになった。


 白いシンプルなハードカバーの表紙には、豪華さを演出しタイトルが金色で印字されている。シンプルさを強調した装丁だ。


 作品のタイトルは、『境界~ボーダー~』とされていた。


「へえ、タイトル変えたんだ・・・・」

「どうっすかね?白い表紙と短く強い言葉でそっちの方が内容が強く印象付けられると思って私がタイトルもデザインも決めちゃったんすけど・・・・・。五島さんは不満っすか?」


「いやいいよ。うんすごくいいと思う。なんていうか安易だけどカッコいいよ」


 特に不満は無かったからあえて文句はつけない。

彼女か他の誰か、より良きタイトルはこれだと判定して選んだのなら間違いないはずだ。

 

 この積み上げられた本の山を見て変更したいなど言えるものか。



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