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小説家人形  作者: 五島タケル
四章
70/80

吸収

 起きると私はそのままイスに座っていた。

シャツははだけていたがズボンは身に着けたままで、それ以上私は安西さんと何もせず、一瞬意識が飛んだだけですぐに目を覚ましたようだ。


 彼女は私の目の前の席にいて、平然と酒を飲み肉をつまんでいた。


『あっ五島さんやだっー抱きついたら離してくれないんだもーん。まだ私たちそんな関係じゃないって五島さんいつも言ってるのにー何っすかー?ホントにもうー!私にどんな変態プレイさせたいんすかー?もおー』

 

 何を言っているのかよく分からなかった。

だがこの場は彼女に調子を合わせた方がいいと思い、服を直してテーブルに向かい合う。


『ホントはダメなんすよ、私たちの関係考えれば。でもまあ五島さんの気持ちは分かるっす。あれだけ大変な思いしたから誰かに縋りたくておかしくなってしまう気持ち。・・・・・この先、私たちどうなるかなんて分かんないからこんなことしちゃうのかな?』


 彼女はうつむき加減で話しながら、その言葉と言葉の合間に私の方を向き、口の動きだけでずっと、


 し・ず・か・に。

 あ・わ・せ・て。

 き・え・ま・す。 

と伝えてきていた。


「はっははは・・・・。よっ、酔ってたみたいゴメン。どうしても我慢できなくて」

『あっはははそうっすか。なら続きは、キスやります?』


「いやいい、君のは刺激が強すぎる。その言い方はクスリやるみたいに聞こえる」

『はっはあ~ですよね~。なんか私焦ってますよね~?もう少し落ち着いたらっすよね?じゃあその先とかもまだ?』

「うん、もうちょっと前なら問答無用で君にしがみついていたかもしれないけど、今はケガもしてるし、それに・・・・」

『それに?』

 顔は笑っているが目つきはキツく、試されているような感覚がしていた。


「いや、えっえ~っと・・・・、あっそうだ!安西さんってもうC3部隊辞めてるよね?へっ変なこと聞くけどそれでいくらかもらえた?

僕なんてあれだけ辛い思いして名誉まで讃えられたのに、たったの120ぽっちだぜ」

 私は気を取り直して、いつもの雑談の雰囲気を意識して彼女に話しかける。


『えっ?ええっと私は確か80だったと思うっす。五島さんは120っすか~、いや~渋いっすね。私はそれでもけっこう嬉しくて、お寿司を食べに行ったのと、あと旅費にも使ったのですぐ消えて無くなっちゃったっす』


「はっはは、そうか。じゃあ今度僕がおごるからまたお寿司でも行こうよ?」

『おお~嬉しいっす!ぜひぜひ。でも私は五島さんと行けるなら、普通にラーメンとかでも全然嬉しいっすけどね』

 その後私は気を取り直し、いつもの自然な二人を装ってしばらく安西さんと酒を酌み交わしながら、歓談を楽しんた



「でね五島さん私が隊を辞めた時、隊の人間になんて言われたと思います?あっ五島をキズ物にしたのはお前か?だって。

1億狙ってたみたいだけど生きて帰ってきたぞ。残念だったな、っすよ~。ホント私あの支部の隊長かたっぱしからブッ殺そうかと思いましたよ~」


「ハッハハッハハハ、そんなんじゃないのに僕ら」

「ですよね~。五島さんはもっとお金とかより大切な価値観を生み出す人だってのに。あいつら野蛮人はそれが分かってないんすよね~。生きる上での大事な基準やモラルが終始ズレてるっす」

「そうだ・・・・、その通りだよ」


 どれだけ疑念を抱こうがやはり安西さんとの会話は依然楽しく、下世話な話から社会のあり様まで社会批判をユーモアに交えて語り、私はそれに踊らされる形で進んでいった。

私が無駄に意識せずとも、この役は彼女たちが考えて与えてくれたものだと安心感に浸っていた。



 自分の役割のことを考えると、その流れで私は小説のことを思い出していた。


 それさえきっと彼女たちなりの大きな考えがあって、出版までの上手くいくよう手配してくれたのだろう。

実際私の描く小説が絶対的な素晴らしさを持って評価されたのではないということは理解しつつも、それが一体どのような形で利用されるのか不安もあってその経過がどうなっているか尋ねてみる。


「それで僕の、僕たちの大切な小説のことなんだけど、確かこの前安西さん、ある出版社から本にする確約みたいのが取れたって言ってたよね?えっとその後どうなってる?」


『あっええ、そうっすね。ツテを頼った出版社の方からはめっちゃ良い感触が取れて、喜んでください。実はもう出版が決まってるんすよ!

今日はそのためのお祝いパーティでもあるんすけどねえ・・・・・。なんか五島さん、あんま喜んでくれませんね』

 

 不思議と嬉しさはあまり込み上げなかった。

悔しさや不甲斐なさの方が強かった。


 出版が決まっているのはもはや規定の事実であり、

彼女がいいと言った通りに書き進めたのだから、望む結果が得られるのは当初より決まっていた帰結にすぎないのだろう。

 自分の功績とは思えなかった。


「いや嬉しいよ。・・・・そうか、僕の知らない間にそんなことに。何からナニまで本当に安西さんには感謝しかないよ。

それで、その出版社とは作者である僕自身がほとんど打ち合わせらしきことをしてないけど、そんな感じでいいのかな?」


『あっああ~えっと、そのことはもう私が代理人として多分詰めてるんで大丈夫です。・・・で、もう少し、そうっすねあと1か月ぐらいしたら出版に際しての打ち合わせとかあるんで、その時出版社へ出向くことになると思うっすよ』


(よくもまあ言えたのものだ。私の作品を好きなようにいじくって。)

キスによる頭の麻痺が取り除かれてくると、また彼女への信頼と疑念が頭でせめぎあう。


「そうかあ、なんだか実感わかないな。僕が何かしたわけじゃないって言うか」


 私は不安だった。

この先私にはおそらく作家としての役割が与えられる。


それがどんなものか分からない不安。


 自分へ与えられるその役割へうまく乗りきれるのかが気にかかり、小説の成功よりはこの先の私の旅路の方が気になってしまっていた。


「へっへえ~そうか。・・・・でどこ行くの?その出版社ってやっぱ東京?」


『えっと沖縄っす』

「はっ・・・・?」


 その単語は小説の話とは結び付かず、一瞬また記憶が飛んだのかと思った。


『だから、また沖縄へ行きます』

「なんで?」

『小説の出版を請け負ってくれたのが沖縄にある会社なんで』


 つい先日までの壮絶な光景が、忌まわしい記憶がフラッシュバックする。

銃で撃たれナイフを突きつけられ、命からがら逃げまわった記憶。全身にイヤな汗があふれてくる。


「でもあそこは日本の治安組織と反乱勢力、それに外国の軍隊まで入り乱れる混乱状態にあって・・・・・、分かってるだろうっ!まともに民間人が踏み入れていい場所じゃないんだぞ!」

 身体の震えをごまかしたくて、つい感情任せで彼女に怒鳴りつけてしまう。


『まあ今はそうっすけどね、安心してください』

「どういう・・・・・?」


『じきに沖縄は解放されます』

「・・・・・?」


『あそこはもう、規律の元へ入ってますから』



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