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小説家人形  作者: 五島タケル
四章
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お別れの会

 C3部隊をとりあえず命だけは無事に除隊できたことを祝おうと、安西さんからの呼びかけにより私の家で“お疲れ様パーティ”を開くことになった。


 急ごしらえの小さなテーブルに料理とグラスを並べ、見知ったはずの3人が初めて同じ場所で顔を合わせて向かい合うこととなる。

 なのに誰も会話も交わさず、私以外の2人は互いに冷めた表情でそっぽを向き、祝宴の場にはふさわしくない緊張感が漂っていた。


 少し余計なことをしてしまったと思ったが、私はこの会にどうせならと命の恩人でおそらく彼も同志であるという理由から仁村くんも招いていた。

これまで不自然なほど一緒にいる空間を嫌い、お互いの距離感を保っていた2人が期せずして同じテーブル空間に位置していることで、やはり席上には気まずい空気が漂う。


 二人はほとんど笑顔を見せない上に表情も変えない。

安西さんの顔はこれまで見たことのないクールなもので別人のように感じられた。案外、素っ気ない表情の彼女にブスさは感じられず、一重まぶたにどこか知的なイメージが重なる。


『あの誘ってもらって悪いんですけど、僕は最初に乾杯だけしたら帰りますね。同じ仲間として五島さんへねぎらいの言葉を一言伝えたかっただけなんで。

それに二人の雰囲気を邪魔するほど野暮でもないですし』

 そう言って仁村くんは乾杯をした後シャンパンをひと口で飲み、私に対して”どうもお疲れさまでした、これからもよろしくお願いします”との言葉だけを告げて立ち去ろうとする。


「あっちょっと待って!なら僕の方も。どういう経緯が裏であったかはよく知らないけど、二度も命を救ってくれてありがとう。そしてこれからも・・・・?よろしく」


『はい、まだ当面会う機会はあると思いますんで』


「えっともう一つ聞いてもいい?仁村くんと安西さんって、多分同じ大きな目的みたいなものを持って行動しているってことはさすがに僕でも気付いているんだけど、なのになんで二人は一緒にいたらマズいの?」


『・・・・まあ、それは』

目線を辺りにキョロキョロ見回しながら少し答えにくそうにする。


『ライバルだからっすよ。確かに同じ大きな目的みたいなものはあるんすけど、私ら一応競合相手っすから』

代わりに目を閉じながらワインを飲んでいる安西さんがあっさり答えていた。


『ふっ、まあそうです。僕ら互いにそれぞれ役割が与えられていて、五島さんは基本彼女の担当、ボクにはボクの役割があって必要以上に協力し合うのは求められていないんで』

 俯き加減な仁村くんは、表情を何かから隠すようにして答えている。


「じゃあ何で仁村くんは僕の身の危険を案じて2度も助けに来てくれたんだ?それも役割なのか?」

『ええそれは・・・・・、貴方が大きなビジョンの元で考えると利益となる存在、ひとつのパーツとなり得るとの判断からです。

それはボク自身の利益にも適いますし・・・・・、でもこれ以上はやりすぎると目付けられるんで、今もそうです。だからこのくらいにしといてください』


「そっか・・・・、うん分かった。もう聞かない」

 その言葉と、安西さんと仁村くんがお互いに目を合わせず述べ合う様子に寒気を感じ、私もそれ以上深入りしようとはこの時点では考えなかった。



『じゃああらためて始めまっしょっか?二人でのお疲れ様パーティー!』


 仁村くんが家から立ち去ると一転、

あからさまに陽気な表情へ変化させる安西さん。

この不自然さやこれまでの経緯に、私がもはや何も疑問を感じないと高をくくっているような露骨な変化だ。

一種のプレイ気分で楽しんでくれということだろうか?


「ふぅ~でも良かったよ。またこうして安西さんたちと歓談できる場所に戻れて。こうして君といると、僕は今このために生きてきたんだなって思える。

一時はもう生きて帰れないと覚悟していたから・・・・、ホントよかった」


『そうっすよ。五島さんは今は何も考えず、生きて帰れたことを楽しむことっすね!そしてこれからは小説を書きながら生活をして、私と楽しい思い出を作っていきましょう。フフフ楽しみっす』

「ああ、そうだね・・・・」


 彼女の笑顔に不自然さを感じながら満たされていく自分。この関係性はもう私が望むと望まざるとに関わらず、彼らの満足する基準に達するまでは逃れることのできないものだと理解し始めている。


 私もグラスワイン一杯煽って気分を入れ替えようとした。彼女との歓談の場を、快楽の場とするため酔いに任せてみようと思った。


「はぁ~・・・・・」

 だが酔いきれなかった。

彼女抜きでは語れなくなっている私の人生も、このまま巨大な渦に飲み込まれるのを良しとするかどうか、自分で判断して決めないことにはこの先の人生に生きる気力を見出すことはできない。


 全て演技なら演技で構わない、半ば覚悟していることだ。

だが彼女自身の口からその真意の一端でも引き出せないことには、今後活動していく中においてきっとためらいが生じる。

ためらいに苛まれる気がして、私自身に与えられる役割に乗り切れない気がしたのだ。



「あっあのさ、安西さんちょっとだけいいかな?さっき仁村くんにはもういいって言ったけどもう少しだけ・・・・・。

安西さんっていつもこうして僕のことを励ましてくれてるのは嬉しいんだけど、それって実際は僕のこと好きとかじゃなくて演技みたいなことなんだろ?

僕はどこまで本気で相手にしたらいいんだ?」


 あくまできっぱりと、問い詰めるように聞くつもりだったが、どこか遠慮がちに話しかけてしまう。

それを聞いている時の安西さんの表情は、笑顔のままで凍り付いていた。


『・・・・・・・いや』

 ボソッとした言葉のあと一瞬下を向き、また顔をあげた安西さんは弾ける笑顔に戻っていた。

『い~や、ホントに好きっすよ。五島さんのことはめっちゃ大好きっす。じゃないと私、女優でもないのにこんなことやってられないっすよ、アハハハ』


 そう言いながら彼女は椅子から立ち上がり、そっと私に近付いてくる。

『じっとしててね、五島さん』

 その言葉に私は恐怖で身がこわばる。


 両手を首の後ろに回して、顔を私へ近づいてくる安西さん。

またキスをされるのかという興奮と、少しの恐怖がないまぜになっている。

 

 『安心して』

 耳元でささやき、彼女は椅子に座る私に手を回し抱きついていた。


『ごとうさん、あまり反応してないでそのまま・・・・・』

 ぼそぼそと私の耳元で話し続ける。

息がかかって少しこそばゆく感じ、私は状況もわきまえず少し感じてしまっていた。


『わたしはごとうさんのみかたです。それは信じてください』


『あなたのためなら何でもできますし、あなたには私のためになんでもしてほしいんです』

 彼女は私を安心させる言葉を、短くゆっくりと話しかけてくる。

なんども、私をあやすように。


 抱きしめられている状況と言葉の安心感に、私の身体はだんだんリラックスしてくる。


『今後あなたの望み通りの活動のきかいが増えていきます。それは不自然なほどに。あなたはわたしの言う通りに動いてください、これまでといっしょです』

 

 彼女の言葉は私の背筋をピンと支える、

前へ進む原動力となる。

気持ちのいい言葉に取り込まれ、私は彼女と一つの存在になっていくような錯覚を覚えていた。


『この社会、日本にはこの先大きな変化がもたらされます。それにあなたは疑問を挟まず、ただ流されていてほしいんです。アナタの生きる場所はもうそこにはありません』


『イヤな思い出は捨てましょう。この地はもうすぐ去ることになります。そして各地を転々とし、外国へ行く機会も増えるでしょう』


『システムの元、規律正しく動く一人の人形として五島さんはふるまってください、そうすればあなたはせいこうのもと人生をおえることができます。

私もおなじ目的です』


 彼女からかけられる言葉が一息ついたタイミングで、すっかり安心感に取り込まれていた私は、調子に乗って彼女に合わせるような痛々しいセリフを吐いていた。


「ありがとう。じゃあ僕と君は一心同体みたいなものだね?」


『ふふっそうですね。私たちは互いに互いの首に縄をかけて引っ張り合っているようなものです。もしどちらかが千切れたら・・・・・』

 

 気付くと彼女は耳元から顔を離し私の顔を見つめている。笑顔が消えてどこか悲し気な表情に見えた。不穏な気配を察し、私もまた感情が冷めて一瞬固まる。


「じゃあもし・・・・、僕が君の言うとおりにせずに自分の意思を貫き通したらどうなる?たとえば出版が決まったっていう小説を勝手に出版社へ送ってみたりとか?」


 決してそんな気はないのに、彼女の真意にさらに触れてみたくて、探る気持ちで自分の過ちを告白してみる。

 彼女の変化した顔を見ると、その先の変化を見たくて聞いてみずにはいられなかった。


 またゆっくり私に顔を近付け、彼女はささやきかけてくる。


『きえます』

「えっ・・・!どういう・・・・・んっ!」

『いしきがきえます。すこしねむってくださいごとうさん』


 安西さんは私に唇を押し付けていた。

私はとっさに口を堅く抑え抵抗しようとするが、彼女の舌が侵入してきたと同時にまた痺れを感じ、快楽が一気に脳天から全身に走る。

身体は弛緩して腕はだらんと垂れさがり、以後彼女の唇と舌の動きを快感の虜となり受け続けた。


 唇から首元へと彼女の舌の動きは移行し、

私はシャツを脱がされ、上半身を安西さんに舐めまわされる。


 私の身体は何度もビクつき、彼女の愛撫により意識が飛ぶほどの快感に襲われていた。


 しばらくして意識が消える。



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