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22.

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 笹川がどうなったのかは知らないし、興味もない。

 わかるのは、あのあと教室に来た先生に連れていかれたことと、グラウンドまで入ってきたパトカーに乗せられていったこと。


 もう、この市を騒がせた「鎌鼬」はいないのだ。


「おい、お前、すげーな!」


 僕は彼女と一緒に、クラスメイトから小突かれたり囃されたりすることが増えた。

 笹川を自白に追い詰めるまでの流れが、探偵みたいでウケたらしい。


 ガスガンを持った笹川と対峙して、無我夢中で手に切り付けたから、指の一本や二本使い物にならなくしてしまっている可能性もあり、そのことに負い目を感じているからできれば褒めないでほしい。囃さないでほしい。でもそんなことは言わない。


 あの日、ガスガンを持った笹川を相手に、僕は死に物狂いで立ち向かった。何回も撃たれ、そのうちの五発くらいは直撃を受けた。

 一週間は経つというのに、いまだ痣が消えてくれない。


 笹川──同級生が逮捕された。


 この話題はしばらくは学校を賑わせたが、世間の「鎌鼬逮捕」の報道が終息するよりも幾分早く、生徒たちの関心は別のことに移ったようである。

 僕の痣は消えないのに、笹川がこの学校にいた事実はすでに消え去ろうとしていたし、誰よりも真実を暴き、それを人に伝えることを生き甲斐としていた男は、誰の口にもされなくなって、簡単に忘れられてゆく。

 症状改善後の「とんぷく」が忘れられるのは常の話だ。


 と。


「おい、大変だ!」


 教室のドアが勢いよく開け放たれ、男子生徒が走り込んできた。クラスメイトだ。


「そんなに慌てて、どうしたのかな?」


 羽生が言う。


「事件なら──そこの二人の探偵さんが、なんでも解決してくれるよ。ね?」

「任せろ」彼女が間髪入れずに首肯した。

「おおい」


 そういうの、迷惑なんだけどな──と、僕が返答に窮している間に、隣の彼女が鷹揚に頷きを返していた。

 右手のサムズアップ付き。なんだってこの子はやる気満々なんだ。つい先日までぼーっとしていただけだったのに。


 でも僕は騙されない。

 この場において彼女はやる気に満ち溢れているが、どうせ引き受けた事件を解決するのは八割がた僕なのだ。彼女は、本当に自分の興味があることしか調べてくれないだろうから。


 でも僕は知っている。


 彼女が肌を晒すことを嫌い、

 適当かつ大雑把で、

 何も考えていないようでもやっぱり何も考えていなくて、

 ビスクドールの様に愛らしくて、

 ぞんざいな喋り方の割には筆箱やメモ帳なんかは可愛いデザインで、

 傍若無人な我が儘姫で、

 僕のことを奴隷だと思っていて、

 甘いものが好きで、

 青色が好きで、

 数字だと「1」が好きで、

 最近はモンブランがブームで、

 でも食べ過ぎて二キロ太って内心焦ってて、

 でもモンブランをやめられなくて、

 晩御飯を食べる量をちょっと減らしてて、


 そして。




 そして、六年前の「鎌鼬」が、僕だということを知っている、ということを。

 僕は、知っている。


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