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「鎌鼬」は笹川だ。
しかし六年前、この市に現れた「鎌鼬」とは別のものである。
別の者である。
これに限っては、誰が何と言おうと断言する事ができる。
──だって僕が「鎌鼬」だから。
初めは虫。
続いて川で釣った魚。
野良猫。
切り付ける対象は、どんどん大きくなっていった。
単純な興味だったのだ。
こいつらの中身はどうなっているんだろう、と。
そりゃあ僕は、当時小学校五年生だったわけだし、動物は血と肉と骨と筋肉でできていることは理科の授業で習ってはいた。
習ってはいたが、実感が湧かなかったのだ。
だから校庭隅に生えている葉っぱについていた、なにかの幼虫を切り刻んでみた。
虫だと小さすぎてよくわからなかったので、今度は教科書に載っている魚を解剖してみることにした。
魚の中身は教科書に載っている通りだった。
だから僕は、ほんの自由研究のつもりでその辺にいた野良犬や野良猫を解剖してみようと思ったのだ。
丁度その年は秋の連休で時間はあったし、校区の隅の方の新興住宅街に住んでいたから仲の良い友達となかなか遊べなかったのも幸いだった。
この場合不幸いだったというべきかもしれないが、そんな日本語は聞いたことが無い。
ちなみに彼女は今よりもインドア派であったため、僕がいくら誘っても、家の敷地から出ようとはしなかった。
とにかく僕は、近所に野良犬がいなかったので、野良猫を捕まえ、切り付けてみたのだ。
めちゃくちゃにひっかれた。赤くなったカッターナイフの刃は、猫の血で染まっていた。
何となく興奮した。
猫はひっかいて痛いから、もっと大人しい奴を狙おうと思ったら、たまたま目の前に僕より年下の子供がいた。
背後から足音を殺して駆け寄り、腕や足なんかを切り付けて、素早く路地裏に逃げ込む。
黒っぽい服を着て、踵を付けないようにして走れば僕は気付かれなかった。
今でこそ百八〇センチもある僕だが、当時は低学年と間違われるレベルのチビだったのである。
彼女にすら負けていたほどだ。もっとも、彼女はその時から一ミリたりとも身長が伸びていないわけだが。
まあそんなこんなで、二、三学期の間は小動物を斬りつけることで満足していた僕の〝その行為〟はエスカレートしていき、春休みが終わるころには同い年くらいに見える子供を切るようになっていた。
血を見るのは楽しかった。
テレビでは僕のことを「鎌鼬」だなんだと放送するし、自分が偉くなったような気がしていた。
しかし。そう、しかし冬休みだ。
彼女は、僕が「実験」に使うカッターナイフで僕の脇腹を刺し、それと前後して「鎌鼬、格好いい」と言った。
彼女は、僕が小動物を切り付けるのに飽き、人間を切り付け始めたのに気付いていたのではないだろうか。
今となってはもうわからない。
もしかしたら動物的第六勘が僕の興奮を嗅ぎ取っていただけかもしれないが。
そして春休みを経て、夏休み。
僕の「鎌鼬」に終止符を打つ事件は、唐突に起こった。
実験を終えてある日家に帰ってみると、左手に包帯を巻いた、涙目の彼女が、僕の帰りを待っていたのだ。
「どうしたの?」幼き日の僕は聞いた。
「痛いよ」幼い彼女は言った。
「怪我したの?」
「んーん、切られたの」
「誰に?」
「お前に」
全身の血が冷えたように感じたのを、今でも忘れられない。
僕は今でも、時々あの時の感覚を夢に見て夜中に目を覚ますことがある。
僕は人を切り付けるのをやめた。
もちろん小動物も。その日を境に、いたずらに切り付けることはやめたのだ。
彼女はその日以降、僕を名前で呼ばない。
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