05「兄と妹と執事と」
「彼は、今日からこの屋敷で働いてもらうことになった、新しい執事だ。仲良くするように」
「フェルナンデスです。よろしくお願いします、お嬢さま」
ギルバートの紹介のあと、フェルナンデスが丁寧に型に則した挨拶を述べると、マーガレットはニッコリと微笑み、フェルナンデスの周囲を回りながら、興味深く観察する。フェルナンデスが対処に困った様子でギルバートにエスオーエスのアイコンタクトを送ると、ギルバートはマーガレットの手を取り、フェルナンデスの正面に引き戻しながら優しく注意する。
「もの珍しいのは分かるけど、あんまりジロジロ見ると困っちゃうから、やめような」
「あっ、ごめんなさい。えーっと」
マーガレットは居住まいを正し、カボチャパンツの端を両手で小さくつまんでお辞儀をしながら挨拶する。
「マーガレット・マーシャルです。どうぞ、よろしく」
――あぁ。やっぱり、メイドも必要だな。春にギナジウムに行ってしまったら、マーガレットを世話する相手が不足する。
*
「召喚主と違う性別の生命人形は、召喚できないのか」
ノートを読んでいたギルバートが紙面から顔を上げて言うと、フェルナンデスは、猛スピードで書類にペンを走らせ、次々にサインしながら答える。ちなみに二人は、机の下で、素手と素手で握り合っている。
「その通りです。それ以前に、一人の人間が二体以上の人形を同時に仕えさせることは、オススメしません」
「何故だ?」
「霊力の波が異常に増幅されて、暴走する可能性が高まるからです。二本のマイクを同時に使うと、ハウリングを起こすようなものですね」
「なるほどな。それじゃあ、何とかしてマーガレットに、俺と同じことをさせるしかないのかなぁ」
一体のデッサン人形と一本の小瓶が入った小箱をチラ見しながら、ギルバートは溜め息まじりに言った。
――はたして、頭の中がお花畑のお嬢さまに、正確な召喚が出来るでしょうか?
――何か言ったか、フェルナンデス?
――いいえ、独り言です。というか、僕の考えを読まないでください。
――読みたくなくても、こうして手を持ってると勝手に伝わってくるんだから、仕方ないじゃないか。
――それは、そうですけどね。
フェルナンデスは、最後の一枚にサインを終えると、ギルバートから手を離す。ギルバートは、書類の山が片付いているのを確認すると、その束を机の端に積み上げ、柱時計の文字盤を見ながら言う。
「十一時前だな。明日に備えて、そろそろ寝ないと」
「そうですね。少しばかり、夜更かし気味です。早く寝室へ参りましょう」
二人はイスから立ち上がり、廊下に向かいはじめる。そして、ギルバートは、フェルナンデスが開けたドアの前で立ち止まり、ノブを持って待っているフェルナンデスに訊く。
「召喚文にもあったけど、お前は生身の人間みたいに、俺やマーガレットのことを騙したりしないよな?」
それを聞いたフェルナンデスは、真面目な顔をしてキッパリという。
「人形と人間では、生きる時間の長さが違いますから、いずれは別れがやってくるでしょう。でも、ギルバートさまの命の灯火が消えるその日まで、僕は必ず従僕としての役目を果たします。だから、ご安心ください」
「ありがとう、フェルナンデス」
「いえいえ。それが務めですから」
ギルバートはフェルナンデスの答えに対し、満足げに大きく頷くと、寝室へ向かって廊下を歩いていく。フェルナンデスは、懐から鍵の束を取り出して書斎を施錠してから、遅れて小走りでついて行く。
――この執事となら、きっと、失ったものを取り返せるだろう。




