03「二人きりの家族」
「調査の結果、あの二人は詐欺に窃盗、あげくは美人局までやりながら、時や場所に応じて氏名や生年月日を偽り、各地を転々と渡り歩いてきたようです」
「そんなあくどい奴に騙されてたなんて」
わなわなと身を震わせながらギルバートが言うと、向かいに座っているトレンチコートの男は、左手に紫煙を燻らせながら言う。
「心中お察しします。探偵の私としては、仮にこれ以上お金を積まれたとしても、直接的に二人に対して何か手を下すことは出来ませんが、国際警察に訴え出れば、何らかの処罰を受けることになるでしょう。有償になりますが、知り合いの連絡先を教えましょうか?」
「いいや、結構だ。どんな形であれ、解雇したあの二人に、これ以上関わるのは御免だ」
「そうですか。では、私は失礼させていただきます」
男は、灰皿にタバコを押し付けて揉み消すと、口金に南京錠が付いたトランクを持って立ち去った。
――すぐに使用人を募集したところで、ベビーシッターでもないのに未成年しかいない屋敷に務めたいと思う人間なんて、すぐに見つかるはずがない。……あぁ、どうしたらいいんだ。俺は、愛しい妹のために、何ができる?
*
――マーガレットに、あの二人の裏の顔を教える必要は無いだろう。それは、それとして。
「何かないか。何か、こう、閉塞した現状を打開するのに役立つようなものが」
目をカッと見開いて血走らせつつ、ギルバートは埃っぽい倉庫の中で一人、手当たり次第に保管品を物色している。そのとき、適当に積み上げた荷物に肘が当たり、ギルバートは、崩れた荷物の海に溺れる。
「ウワッ。……ゲホッ、エホエホ」
舞い上がる綿屑や服と身体に降り注いだ砂を、両手でパタパタと払いつつ、ギルバートは散乱した荷物の山から抜け出す。
「あ~あ、派手にやらかしてしまったなぁ。片付ける人間も居ないってのに。――あれ?」
ギルバートは、足元に落ちている蓋の空いた小箱を持ち上げると、中から古びたノートを取り出す。
「生命人形製造秘術?」
ギルバートは首を傾げつつ、箱の中を覗き込む。見れば、美術のデッサンに使うような木製の人形が二体と、香水やビーズを入れるのに使うような蓋の付いたガラスの小瓶が二本、入っている。
――見るからに怪しいし、オカルト系黒魔術の匂いがプンプンとするけれど。
「溺れる者は藁をもつかむと言うからな」
ギルバートは、ノートを小箱に戻し、そのままホクホク顔で部屋をあとにした。