#27 死神さんは後輩と遊びたい
久方ぶりの更新はまずこちらから。
一年ぶりの更新ですが、これからも更新はしていきますのでよろしくお願いいたします。
ミリーゼさんへ果たし状を電話越しに叩きつけた翌日の朝。
寝起きとはいえ霊体ゆえかクリアな寝覚めのまま、私はリビングへと足を運ぶと、死神さんと仁大さんがテレビの前に揃って座っていた。
「……おはよう」
「ああ、幽香。おはよう。よく眠れたか?」
「ぐぬっ……がっ! おは……ようぅっっと!? 幽香……ちゃんっっ……!」
どうやら夜通し対戦ゲームをプレイしていたのだろう。あの後私は「また庭が荒れるなぁ」なんて考えながらさっさと就寝してしまったが、その後珍しく二人とも自分の塒へと帰宅しなかった。まあ、どうせいつもの習慣通りにゲームを始めた死神さんに仁大さんが突っかかったんだろうと推察する。……にしても、大の大人が二人並んでコントローラーを握りしめている様はなかなかに面白いものだ。
仮面を斜に装着してやや顔を隠しているのは死神さん――背筋をピンと伸ばして綺麗な姿勢で、矢継ぎ早にコントローラーのボタンを叩いている。複雑なコンボを入力している指の動きは人外じみてやや気持ち悪い。
隣に座るは仁大さん――苦悶の表情で自分が操作するキャラに降りかかるコンボ攻撃から身を守っている。
「脛の防御がお留守だぞ」
この二人、傍から見ても分かるが、だいぶプレイヤースキルに差がある。
死神さんが使っているキャラはパリング技を多数所持する、仙人のような風貌をしている老人で、操作難易度は比較的高い。コマンド技の大半をパリング技が占めている上、全体的に発生時の硬直が長く、タイミングを外せば大きな隙を晒してしまう。
対する仁大さんは、我流の剣術を操る闇落ちした勇者のような青年を使っており、出の早い連続斬撃・長射程の突き・上段下段二連の薙ぎ払いなど、使い勝手の良いキャラだ。全身黒ずくめの闇落ちフォームとは裏腹に、初心者から上級者まで使い勝手の良いキャラとして認識されている。
「んなぁ! それずりぃ! なんで足が剣並のリーチあるんだよ!?」
「仙人は関節が伸びる。 古より相場で決まっている」
「わけわかんねーよそれ!」
ブンブンと剣を振り舞わす闇落ち勇者に、仙人の足がみょいんと伸びて脛を蹴り込む。カウンターヒットのためか、闇落ち勇者は態勢を崩してダウンした。仁大さんの攻撃が単調なのが悪いのだが、死神さんにいいように弄ばれていた。
長射程の突きは発動中に途中キャンセルはできない。タイミングよくパリングを置いておけば、勝手に自滅すること請け合いだ。薙ぎ払いもただ放つだけではプリセットされた軌道を剣が通るだけ。しっかりガードすることも、なんだったらパリングもできる。
気を付けるべきは出の早い連撃だが、得てしてその手の攻撃はリーチは短いものだ(長かったらクソゲー待ったなしだろうが)。合わせるように、仙人の数少ないパリング以外の技・関節伸ばしパンチとキックを入れてカウンターすれば、完封することは容易だ。
「これでフィニッシュ」
最後に破れかぶれで放った突きをパリング。闇落ち勇者の突きの勢いを利用して仙人は掌底を叩きつける。
「ぬぁぁぁぁっ! なんで勝てねーのかなこれ!? クソゲー! はーいこれクソゲー!」
コントローラーをぶん投げた仁大さん。
テレビ画面には『PERFECT‼』の文字。
その後流れるリザルト画面には、百を超える勝利数の死神さんと同数の敗北を刻んだ仁大さんのユーザー情報が流れる。
「……大人げないわよ、死神さん。これじゃ何日経っても一勝もできないじゃない」
「つい生意気な後輩をいじめたくなったものでな。初心者をもしゃもしゃしてやった。後悔はしていない」
「うっわぁ……」
さしもの私もさすがに引いたが、当の本人は全然動じていない。相変わらず仁大さんには厳しいというか、素っ気ないというか。
「……でも、よくそんな長い時間やってられるわね。仁大さんだって、フラストレーション溜まってるでしょうに」
この質問は至極全うだと思う。だって、絶対に勝てないとわかりきっているゲームほどつまらないものはないんだから。敗北を楽しめる心は、少なくとも私は持ち合わせていないし。
ところが、仁大さんはけろっとした顔で否定する。
「んーにゃ。全然溜まんねーよ」
「……マゾなの?」
「ちゃうて」
あまりにもな物言いをしたとも思ったが、本人は気を悪くもしていない。むしろけたけたと楽しそうに笑っていた。そして、隣で澄ました顔をしながら一人プレイを黙々と続けている死神さんをちらっと見て――。
「この先輩とだからおもしれーのよ」
「――――」
しばし呆気にとられた。
しばらくしてその言葉の意味を飲み込めた。
――ああ、なるほど。
ほんの三週間ほど前までは私は独りぼっちだった。
日がな娯楽の補給を待ちながら、読み飽きた本をそれこそ手垢が付くまで読み返した時もあった。
世間ではクソゲーと持て囃されているゲームをたぶん世界で一番やり込んだ時もあった。
確かに時間を忘れることはできた。
――でも、楽しくはなかったな。
虚無に消え去る時間の流れが頭の中に蘇る。
じゃあ今は?
――答えは決まっている。
「二人とも、ズルいわね。二人で楽しく夜通しゲームなんて。私も起こして誘ってほしかった」
「うぇ? お、おう。ごめんな、幽香ちゃん」
ふてくされるように言った私に慌てる仁大さん。本気で気を悪くしたのかと心配しているようだ。
うん、やっぱりこの人は根はとってもいい人だ。
「なんてね。冗談よ。でも、私だって一緒にやりたかったことは嘘じゃないわよ。死神さん。今度は私とやりましょ」
「フッ、望むところだ」
仁大さんが放ったコントローラーをそっと私に差し出す。
最近の死神さんは物憂げな顔をしなくなった。
私はそれが嬉しかった――そうね。今、この空間でみんなで過ごしている時間は楽しくてしょうがないんだもの。
最後までお読みいただきありがとうございました。
別の小説の集中更新で放置していましたが、続きは書きます。




