#26 ミリーゼさんへの果たし状
「じゃ、じゃあ! とりま電話かけてみるか! かかったら後は死神先輩に任せるぜ!?」
「あ、ああ! 了解したぞ……」
テンションの上下が安定しない死神さんと仁大さんは、私の機嫌を気にしたような反応をする。
悪戯をした子供の逃亡さながらに姿を消した死神さんは、一時間後くらいでのこのこと帰って来た。
施錠された鍵に気付いて、土下座する勢いで玄関先で私に謝罪を入れ、それでようやく許したという感じだ。
結局のところ、死神さんの名前を知るのはまたいつかとなってしまった。
正直、不満ではある。だって、仁大さんは知っているのだ。私だけ疎外されるように情報を届けられていないのだ。
いつか必ず明かそうと言った死神さんを信じて――。
話を戻そう。現在は今まさに『時狩の死神』ミリーゼ・ミスティーフへとコンタクトを取ろうとしている最中だ。
着信履歴をそっと覗いたが、ミリーゼらしき番号の着信履歴が他の電話番号よりも目に見えて少なかった。相当な嫌いようというか、そも繋がるのかが心配でならないが……。
まあ、その心配を一番気にしていたのは当の本人のようで――。
「出てくれよー……ミリーゼクソ野郎……!」
「言葉汚いわよ、仁大さん」
非難の言葉を気にせず、過剰なまでに念じながら通話ボタンを押していた。
片手で念仏を唱える坊主のようなポーズをとりながら、スピーカーフォンにしてテーブルの上にスマホを置く。プルルルーッ、と何度も何度もコール音が鳴るが果たして――。
――ツーッ、ツーッ……………………お掛けになった電話番号は、ただいま通話に出ることができません。
「「「……………………」」」
うーん、これは着信拒否でもされているのだろうか。
ちらりと仁大さんに目をやると、「おかしいな」と言いたげな困った表情だったが、その内に「やりかねんな」という含みも見えた。
無言のまま、諦めずにもう一度電話をかける。一回目の反応があれだったからあまり期待はできないだろう。
十回以上のコール音を聞くことを予想しながら携帯の画面を見ていると――コール音が二回鳴った後だった。
ザザッ……ザーッ。
電話特有の遠方の擦れが混じった音――なんとすぐに繋がった!
「あ、もしもし――」
ブツッッッ!
「おれだけ、ど……」
ツーッ、ツーッ……。
虚しく通話終了の音が響く。
「……ワン切りされたな」
死神さんもあんまりな対応に呆れ果てたというか、なしのつぶてな気配がしているのを察していた。無論私も同じだ。
「諦めんぞ……こうなったら出るまで夜通しかけてやる」
「その内電源を切られるのがオチな気がするんだが」
「ストーカーじゃないんだから……」
ちょっと引いた私と死神さんの反応を気に留めず、三度通話ボタンに指を力強く添えると――。
「……しつこい男ね。これで三回目だけど?」
とうとう声を聴くことができた。
スピーカーフォンで全員で通話を聞く形になっているから、ミリーゼの声はよく通って聞こえる。気怠そうだがハッキリとした声で、テレビやラジオの女性の演者の人たちよりもやや低めな声をしている。
ぶはぁっ、と仁大さんは大きくため息をついていた。
無理もないだろう。通話拒否状態だったり電源を切られていたら、仁大さんが言うように夜通し電話をかけても時間の無駄にしかならない。通話に出てくれただけ僥倖というべきだろう。
「おう、三回も鳴らすくらいの用事があるってこった」
「切るわよ」
「あーっ待って待って! まだ切らないで!」
仁大さんだけ通話に参加していたら今度こそ着信拒否されそうなので、私が唐突だが止めに入る。
すると、ミリーゼが気怠そうな声色をはたと変える。
「……誰、かしら? 臣の姉妹の声じゃないわね」
(臣姉妹?)
頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、仁大さんが「俺が知ってる『時狩の死神』だ」と解説を入れる。なるほどと頷きながら、話を続ける。
「私は白月幽香――仁大さんから貴方の事を聞かせてもらいました。貴方も『時狩の死神』、なんですよね?」
「……ええ。仁大め、なんで私になんか連絡よこすのよ……」
「あ、あの……スピーカーフォンにしているので聴こえてます、よ?」
「へ? あ、んうっ! んんっ! ええ、それで?」
「おーう、聴こえてんだぞコラ」
わざとらしい空咳で誤魔化すミリーゼに、仁大さんは食って掛かる。……このやりとりもいい加減見飽きてきた、とは言わずに私はまず誤解を解くことにした。
「私は『時狩の死神』ではないんです」
「……? どういうこと?」
「私の方が『時狩の死神』だ」
最後に口を開いた死神さんの声を聴いたのか、どこか珍しそうな感嘆らしき声を発した。
「あら、もう一人いるのね。それで? アンタは名乗らないのかしら?」
「私は……訳があって名乗れない。今は「死神さん」で通している」
「ふざけた通し名ね」
「テレビ出演した狂人、とでも言えば分かり易いだろうかな」
「え――なんですって?」
『時狩の死神』の存在がある程度認知されだした由来の事件を挙げると、さすがに気付いたようだ。会話の糸口を見つけた死神さんは話を続ける。
「仁大から君の話は聞かせてもらった。君は自分よりも強い者にしか力を貸す気はない――そういうニュアンスでとっても構わないか?」
「ええそうね。雑魚に合わせて自分の身まで滅ぼすのは嫌だから」
「それなら好都合だ、正直こちらも同意見だからな」
「……今、なんていったのかしら?」
ビデオ通話だからお互いの表情は見えないし読めない。だが、それでも伝わってしまっただろう。死神さんの挑発とも余裕の表れとも取れる言葉から見える実力に。
「ミリーゼ・ミスティーフ。君に勝負を申し込みたい。」
「……電話越しの果たし状って、バカ通り越してるわよ? 第一、仁大の罠かもしれないのにそんな案に乗ると思う?」
至極真っ当な回答に、死神さんは自信を持って「乗るさ」と言い切った。
「何故?」
「君は今、心が躍っただろう?」
「……バカも度が過ぎると滑稽過ぎて笑えもしないわ」
「雑魚に合わせないという言葉から読める自身の力量の自信。何より君は、私に興味を持ってしまった。仁大丹治が再三、しつこく、ねちっこく電話をかけてでも取り合わせようとした『時狩の死神』の実力に」
「余計な文言混ぜ込むなよー」
仁大さんのガヤを無視していると、電話越しに押し殺すような笑い声が聴こえる。
その時、私は霊体だからあるはずのない底冷えを感じた。
――戦闘の快感と愉悦から、隠しきれず滲み出る狂気に。
「いいわ、その挑戦を受けてあげる。場所もアンタが決めていいわ」
自信たっぷりに挑戦を受けたミリーゼの言葉に、仁大さんは歯噛みしたような表情を作る。私も同じ気分だった。
彼女自らが言ったように、そもそも罠が仕掛けられている可能性が大な果たし状の電話に、加えて場所まで指定される――罠を張られるどころか張り放題だろう。
あるいは、張られようが関係ないのか、張られたところで意味の無い『権能』を持ち合わせているのか――。
「負ける気はさらさらねーってことかよ……ふざけやがって」
「アンタ程度の実力だったら場所がどこであれ、何人いたって雑魚同然だから」
「ぬぐぐ……!」
「仁大さんどうどう」
相当相性が悪いのだろう。一挙手一投足が気に食わない反応を示していた。
死神さんは周りの雑音を気にせず、日取りや時間を決めていた。
「三日後の深夜十二時、北海道の札幌市時計台で待つ。そこから戦場へと移動してもらうが、構わないか?」
「ええ、了承したわ――それじゃあ、楽しみにしているわね。し・に・が・み・さん」
ブツリ――それっきり電話は切られた。
「なーっ! あんの高慢ちきなヤロー! どこまでも舐め腐りやがってぇ!」
「なんでお前が怒ってるんだよ……」
もはやなだめもしない死神さんはぴしゃりとそう言うと、大鎌を手に取った。
大鎌の腹に埋まっている時計を外し、念じると蒼く輝く炎――『時間』が浮かび上がる。
蒼い光に照らされる死神さんの表情は、今までとは幾分と違うものだった。
「『権能』は不明だが、こちらの『権能』もバレていない。なら、やり方はいくらでもある。巻き戻す『時間』はたっぷりとあるからな」
「ねぇ、死神さん。今回もここで戦う気でしょ」
「すまんな。元よりそのために一度落ち合うことにした」
「まったく……家主の許可を得てからやってよもう……」
頬をふくらまして文句を言う私に、優しく微笑みながら謝罪をして頭を撫でる。やっぱりだ――彼は今、気分が高揚しているのだ。高揚に気付いた仁大さんもすかさず指摘する。さも愉快そうに。
「死神先輩、アンタちょっと楽しみに思ってるだろ」
「フッ、やはりバレるものか。正直、一番心が躍っているのは私だ。彼女が大罪を犯したわけでも、ましてや恨みがあるわけでもない。それでも楽しみに思えているのは――」
「けッ、俺に言ったクセによぉ」
「その気はあったような気がするけどね」
私たちの言葉に苦笑しながらも、ゲームをやる際に時折見せる、愉悦に似た笑みを浮かべていたのだ。
「因縁も後腐れがある訳ではないからこそかもしれんが、一番の理由は――私も例に漏れず戦闘狂なのだろうな」
妖しく光る眼光は、さながら『時間』の収穫の時を待ち望む死神そのものだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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