表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時狩の死神 ‐タイム・リーパー‐  作者: いざなぎみこと
第一章 幽霊少女と時狩の死神
10/29

#9 私と死神さんのゲーム事情

 カチカチカチカチ――真っ暗な室内にぼんやり浮かぶコントローラーの影。


「ちょっと。そっちにあるのはクソ武器じゃないの。さっさと次行くわよ」

「このキャラはまだ一週目だから『ダスト』が足りないんだ。それにトロフィーコンプがあるだろう?」

「協力プレイでトロコン目指すの……? 収集癖、少し抑えてもらえる?」

「『永久凍土の氷塊』ゲット」


 薄型テレビの光が照らすものに、人の姿は無い。

 画面に映るのは雪原ステージの城下町。城門に向かって二人の騎士が中央路を駆けている。

 一人は青い鳥を模した軽装の鎧を纏う騎士。もう一人は岩石を削りだしたかのような重鎧を纏った騎士。


「あっ……こいつ苦手。氷属性効きにくいし」

「何故属性武器を一種しか持たんのかね……ありとあらゆる状況を想定して、全属性のロングソードは作っておくべきだぞ」

「なんで〈秘術〉用のステ振りなのに闇属性ロンソを携帯してるの?」

「そしてこいつは一段目ガードして二段目をパリング。『絶撃』をぶち込む」


 でっぷりと太った腹みたいなフォルムの蒼い鎧甲冑の敵兵士は、吹雪を纏ったようなエフェクトが走っている。

 キャラクターの身長が百八十程度だとすると、頭一個分くらいデカい。

 身の丈サイズの両刃剣を振るうが、それは重鎧の騎士の大楯に一撃目を抑えられる。二撃目を素早く切り替えた『墓石の欠片』という名称の拳カテゴリの武器で受け流し、態勢を崩した兵士に特殊モーションの攻撃が入る。


「そこだけどうして効率厨の側面が出るのかな……」

「確定パリングは覚えた方が効率がいいからな」

「てか適正武器でもないのにダメージ四桁って……」

「『刻印』効果は全て攻撃に振ったからな」

「……もはやこの装備専用レベルのステ振りね。一週目どころか、初見プレイでやることじゃないわよ?」




 時刻は午前三時――私と死神さんはゲームのコーププレイの真っ最中だ。

 ゲーム名は『Another One』――所謂死にゲーやマゾゲーと言われる類のゲームだ。最大八人でのコーププレイ(ただし味方への誤射(フレンドリーファイア)が発生する)が可能で、ダークな雰囲気とシナリオが人気なゲームだ。


 プレイヤーは突如発生した世界の崩壊に巻き込まれ、生きていた千年後の世界にタイムスリップする。

 ダークファンタジー特有の『不死』という能力を与えられ、『世界の調停者』を名乗るNPCの一人に「世界の再構築」の命運を託される。

 『アポカリプス』と呼ばれる死と退廃の世界を「再構築」するプレイヤー陣と、「再構築」の妨害と権利の奪取を企む二つの陣営との戦いを描いた名作だ。


 特徴として、周回することでアイテムのグレードが上がったり、敵が強くなったり行動パターンの変化や技の強化があり、飽きが来ないのも特徴の一つだ。私は十二週目に差し掛かっており、レベルは三百後半台まで伸ばしている。

 対人要素も存在するが、一時期ハマったっきりしばらく手を出していない。この手のゲーム特有の対人で使用される武器のパターン化に軽く飽きたってのもあるが、ある程度のレベル帯じゃないとマッチングしにくいのが一つの理由かもしれない。


 今は初めてこのゲームに手を出した死神さんに手を貸しながら、攻略プレイの最中だ。道中対人潜入してくる小童を私が始末しながら、彼は着々とレベルを上げている。

 プレイヤースキルが元から高いうえ、ゲームをすることが趣味という彼は、初見のくせにやたらと玄人染みたプレイをやってのける。


「当らなければどうと言う事ない!」

「その台詞言いたいからわざわざ赤い鎧着て耐性のある炎属性の武器持ってるわけじゃないわよね?」


 死神さんの操作するキャラのステ振りは、〈秘術〉という回復中心のスキルを運用するものに仕上げてある。信仰というステータスに多く振る事によって上位の〈秘術〉が発動可能になり、合わせて雷・光属性の武器の攻撃力が伸びやすくなる。

 必然的に信仰にステ振りを多くするのだが、あろうことか属性攻撃力が全く伸びない炎属性を持ってボス戦に挑んでいるのだ。赤い鎧を着て、武器固有スキルを使って普段の三倍速く動いている。


「ホントに初見なのかなぁ……?」

「私は意地でも攻略は見ないタイプだからな」

「奇遇ね。私もよ」


 城の最深部に眠るボスキャラ『氷海の主、ブフ』は、鮫と竜が融合したような外見をしている。魚類と爬虫類の掛け合わせ故、城の地下の氷海に潜んでいる。

 攻撃は遠距離から水中に向けて攻撃するか、プレイヤーキャラの前に討伐に来た設定の兵団が所有していたバリスタで狙撃するか、陸に上がる少ないチャンスの内に攻撃する三択。


 私が操る〈魔法〉特化キャラが放った『魔槍の一撃』が、氷海の中で氷ブレスをチャージしている鮫竜に直撃する。杖から放たれた紫の槍が鱗を穿ち、堪らず陸に浮上する。

 そこを死神さんが炎属性の小太刀でちくちくと削っていく。

 ……二桁しかダメージ入ってないんだけど。


「さっさといつもの大剣使ってくれない?」

「……ちょっと舐めプしただけだ」

「舐めプ、ダメ、絶対」


 私の抗議にようやく雷属性の大剣を担ぎ始める。鱗を飛ばす攻撃を華麗に避け、懐に入り込んで強攻撃を叩き込む。合わせて低燃費高速型の〈魔法〉を連射――程なくして星屑になるエフェクトと共に霧消する。


「ふぅ、楽勝だな」

「効率厨のクセになんで非効率なことするかなー」

「遊び心に勝るものなし」



 ふぅーっ、とため息を吐いた。

 収集癖を満たしてあげるため、最短ルートを通りながらアイテム回収をしていたため、六時間以上ぶっ続けでやっていた。眼が痛くなるとか、腱鞘炎になるとかはないが、長々とテレビ画面を見ていると息抜きはしたくなる。


 私は一度コントローラーを置いて立ち上がる。ガスコンロでお湯を沸かし、死神さんにコーヒーを淹れてあげる。コーヒーを七分ほど注いだカップを差し出すと「ツツーッ」と啜る。

 仮面しててどうして飲めるって? 彼は「ホットストロー」なる温かい飲み物用のストローを持っていて、それで飲み物を飲むそうだ。

 仮面の口付近の端っこからストローの先端を捻じり込むみたいな感じで突っ込んで咥えているらしい。


「うん、まあまあだな」

「辛口ね」

「君は厳しい方が成長しそうだしな」


 私もコーヒーに口をつける。豆は彼が持ちこんだ物で、今回はキリマンジャロを使わせてもらっている。

 値段は知らないし、豆に合わせて挽いているワケではないので、追及と研究を欠かさないタイプの死神さんの舌には合わないかもしれない。私は貧乏舌なので、これで普通に美味しいと感じるが。


「ねぇ、死神さん」

「どうした、幽香」


 未だに「幽香」と呼ばれるとむず痒いっていうか、気恥ずかしさが残る。


「率直に言って、進捗はどうかしら?」


 反応は無い。が、無言で飲み進め始めたので、「進捗はダメですって」とこだろう。


「なーんで大々的にテレビで報告しちゃうかな……」


 やっちゃったことなので仕方ない話だ。

 何がというと、私に自分の存在を明かす時に、わざわざ公共放送で流れるような手段を取った事――監視カメラで自己紹介して全ての事件の責任を引き受けたことだ。


 実はあれ以降、似た事件が各地で多発している。九割方模倣犯だが。

 そもそも完璧な老衰死体を作り出すのなんて、大概無理な話だ。その時点でお粗末な死体を作った挙句、足が付いて捕まる馬鹿も多くいた。


 また、監視カメラで「不当に人の時を奪った者」のみを狙うと言ったことが、意外に大衆の心理に残っていたみたいだ。疑い半分ながらも発言の意図を汲み取って捜査しているみたいで、殆どが関連の無い模倣犯、贋作として処理されている。


 ――そう、九割(・・)は模倣犯なのだ。

 残り一割に該当する事件は、死神さんが決めた自分ルールに当てはまり、且つ未だ捕まらず、そして老衰死体であること。全てが死神さんの『時狩』と同じ具合で行われている。


 死神さん同様、『三眼の者』に『時狩の死神(タイム・リーパー)』とされた者の『時狩』だ。

 私が危惧しているのは、これから全ての『時狩』によって発生する罪を、死神さんに擦り付けられることだ。


「……それは……その、嘘だと思われるかもしれないと思って……」


 しどろもどろに答える死神さん。

 うーむ、なぜここにきてのノープラン……今更なんだけど、たぶん叔父さんの名前を出せばパブロフの犬レベルの条件反射で信じたと思うが……。


「足が付いたところで見えなくなったら大丈夫だろうけど、心証はどんどん悪くなるでしょうね」

「別に義賊になろうとしている訳ではない。大罪人になることはとうの前に覚悟している。寧ろ、私を恐れてそんなことをしてくれなくなれば蘇るのにも怖くならないがな」

「どーせ、時間泥棒の手口が悪質になるだけだろうね」


 むぅ、と悩まし気な声を出す。


「『時狩の死神(タイム・リーパー)』達の足取りは掴めないのが現状だ。持っている『時間』の残り香とか、死神同士惹かれ合うみたいな設定が無い限りはノーリスクで会うのは難しいだろうな」

「気長に待ってたら、その内ホントに私達干物になりそうね」


 年がら年中夜中にゲームして、コーヒー飲んで、些細な悪事(ときかり)に手を染めて……。


「……それも楽しそうだがな」

「え?」

「何でもない。……そろそろ夜明けだな」

「え……あ、そうね」


 午前五時、山の先端を薄赤く染める日の出の時刻。

 吸血鬼でもないが、朝になれば死神さんはまた家に戻る。


「私はまた、頑張って無駄な情報を集めるさ」


 空間が切り取られるような『霊体化』をして、死神さんは消えた。


「あっ……もう」


 コーヒーカップをそのまま残して去った死神さんに、抗議の声はもう届かない。……この抗議はきっと別の意図も兼ねているのかもしれないが。

 カップを二つ持って台所に立ち、リズムの崩れた一日の営みを始めた。

 ご拝読ありがとうございました。


 察しの良い方は気付いたと思いますが、『Another One』は某魂や人間性を捧げるゲームのオマージュです。


 かくいう私も大好物な系統のゲームです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ