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食いしんぼう悪夢

いよいよ本格的に決壊。


 裏野ドリームランドは、曰くつきの遊園地として名高い。


 例えば、ジェットコースター。過去に事故があったなんていうのに、今でも変わらず運用が続いていて、どんな内容の事故だったのかすら明らかにされていない。

 経営者にあたる裏野兄弟がもみ消しにした……とか色々な説は立っているけれど、そんな類の黒い噂話はちょっと調べれば山のように見つかった。

 メリーゴーランドは誰もいないのに勝手に回りだす。

 アクアツアーには不気味な生物が紛れ込む。

 ドリームキャッスルの地下室には拷問部屋があって、悲鳴が止まないのだとか。


 こんなところが夢の場所ドリームランドなんて、最高に皮肉な言い回しだと思わない?


 常日頃行ってみたいとは思っていた。

 あの地震が起こって以降、一部ではかなり有名なスポットになっていたし、私自身、何事もはっきりとさせておきたい性格でもあったから。

 でも女一人というのは、流石に心細いものがある。何があるか分からない以上、何名かの同伴者は必要だと思った。

 だからこそ、杏奈からダブルデートが提案された時は、思わずガッツポーズしたいくらいだった。

 私の他に三名も一緒になるわけだし、ついでに、徹底的に気の合わない彼氏の処分も出来る。

 ホラーな展開にでもなってくれれば、別れる理由にもなるし、いざと言う時は盾にでもすればいい。

 ああ、一応、愛情の確認はしたつもりよ……ピースも向けてみたし、お化け屋敷も二人で入ろうとしてみた。でも両方とも無視した挙句、ピースの件については「あんなに高いとは思わなかった。聡美は凄い」とか、本当にどうでもいい話をされてしまった。期待はしてなかったけど、まさかここまでとはね。その時点ですっかり見限ったわ。

 その後も事あることに体調が悪いだの、申し訳ないだの、ロボットみたいに同じことを言ってくるから、ついカッとなって怒ったりもしたわね。その時は何も起こらなかった肩透かしに対する苛立ちもあったのだけれど。

 お化け屋敷だってそりゃ怖かったけれど、看板にあんなに堂々と描かれていれば、怖さも引いてしまうというか……

 道の途中にあった『一人でいるのに、安心できるの?』という壁紙だけは、ちょっと怖かったけれど。


 だからこそ、この暑い日にコートを着た人が出てきた時は、胸が高鳴ったわ。

 修介と一緒に逃げた時は、流石に怖いなとは思ったし、先回りされた時なんかは、本当にどうかされちゃうとも思ったけれど……

 実際は「エイコ」なんて名前を持つスタッフさんだったし、修介や武志君も知っていた人だったから、随分拍子抜けした。


 いやあ、まさか。

 その拍子抜けの分すらもホラーの一部だったなんて、本当に思わなかったわ。



「財布を落としちゃったみたい。私のことはいいから、先にアトラクションに乗ってて」


 聡美はそう言った。

 俺も探すのに協力すると答えると、「子供じゃないんだから、そんな気遣いしてくれなくて良い」と突っぱねられた。

 これはデートなのだから、彼氏だけが乗りに行っても、何にも面白くないじゃないか。

 今まで俺が取ってきた不審な行動に対して、遂に我慢できなくなってしまったのか。

 ようやく、平和的な結末を迎えたと思ったのに。


「聡美ちゃん、大丈夫かな~?」

「心配ないって。警備員も一緒だったみたいだしな」

 


「じゃあ、気を取り直して続けるか」


 武志の言葉に応じて、二人の女性が、それぞれのパートナーの傍へと近づいた。武志の傍には杏奈さんが、俺の傍には瑛子が。

 勿論、振りほどこうとした。俺には元カノと一緒に手を繋ぐような度胸も狂気もないのだから。

 しかし、瑛子は「恥ずかしがり屋さんだ」と笑うばかりで、止めてくれない。そして、その行為を誰も止めないのだ。

 他ならない、俺と聡美を引き合わせた彼らがだ。

 

 俺は混乱した。何をしようとしているのか、分からなかった。

 慌てふためきながら、辛うじて問いかけをする。


「一体、何を続けるんだ」


 瑛子は俺の手を握った。やはり、あの時の感触のままだった。

 今度は振りほどこうとも思わなかった。逃げようとも思わなかった。

 彼らの姿が、不思議とぼんやりになり始めた。


 武志の声がした。


「何ってもちろん、ダブルデートの続きに決まっているだろおおおお」


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