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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その8 ~にんげんになりたかったモノ~

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~にんげんになりたかったモノ~ 10

 三日。

 それから三日が経った。

 疲弊の色は、濃くなる。物資は減り、リルナたちはダサンの街へと一往復した。もう一度見せた召喚術に感嘆の声は響かない。

 盛況だったリリアーナの列も、途絶えた。生きるか死ぬかの瀬戸際ではなく、生きる為への行動へと切り替わった。

 交わされる会話は全て情報だ。無駄口のひとつも無くなった。いかに一撃を入れるか。いかに相手の攻撃を避けるか。いかに素早く動くか。その情報交換のみが、本拠地で行われる。新しい方法を編み出したものは休憩中のヤサマ女王に頼み試す。

 試行錯誤。

 ただただクリスタルゴーレムに一撃を入れる為だけに。ただそれのみの存在となるように、パーティが一つの武器となるように、変わっていく。

 だが。

 だが状況は変わらない。

 未だクリスタルゴーレムは健在だった。後衛職が永遠とも思える魔法の連打に嘔吐しようとも、ミスを犯した冒険者の体をゴミのように弾き飛ばそうとも、クリスタルゴーレムの動きは止まらなかった。


「あの……」


 クリスタルゴーレムの様子を再び見に来たリルナは、付き添ってくれたメイド長に声をかける。かすれそうになる声を唾液で潤し、やっとのことで質問する。


「クリスタルゴーレムの目的って、なんですか……?」

「あのゴーレムは遺跡の最奥にいた、そうです。そして冒険者が部屋に侵入し探索をしているところへ襲い掛かってきた、らしいです」


 メイド長は魔法使いたちの間から下へと覗き込む。地面は抉れ、まるで巨大な穴が開いたかのように変形していた。

 クリスタルゴーレムの胴体と思われる部分には無数の傷が残されていた。透明だったその部分は、傷のせいで光は屈折せず、魔法の光に鈍色を反射する。ダメージは確実に負っている。しかし、停止させるまでには至らない。

 クリスタルゴーレムの相手をしているのはサヤマ女王だった。嬉々とし鬼気迫る表情で、ゴーレムと真正面から打ち合っている。彼女の後ろには無数の鈍器が用意されており、武器が壊れる度に持ち替えていた。刃では効果が薄いと判断した女王は、体力の続く限りゴーレムと殴り合っていた。


「おそらく、遺跡のマジックアイテムを守護する存在だったと思うのですが……」


 マジックアイテムは、すでに持ち帰られ売り払われている。それを取り戻すというのであれば、クリスタルゴーレムは街へと襲来することを意味する。

 ゾっとする場面を想像したリルナだったが、メイド長は言葉を続けた。


「すでに奪われ、失われた物を追う様子には私には見えない」

「え?」


 リルナはクリスタルゴーレムの姿を見た。

 体の半分を、異様なモノで覆う、のっぺりとした綺麗な塊。


「あれは、人間の皮です。人間の皮を剥いで、自分の体に貼り付けている。あれほどおぞましい、化け物の姿を見たのは初めてですよ」

「にんげんのかわ」


 上手く言葉にできず、理解ができなく、思わず復唱してしまった。

 そのせいか、強制的に意味を解してしまう。

 にんげんのかわ、すなわち、人間の皮。

 吐き気を催すほどの醜悪さの正体。

 狂気への招待。


「あれは、人間になろうとしている」


 競り上がってきた胃液をリルナは飲み込み、胸をひとつドンと叩いた。


「大丈夫ですか、リルナ様」

「だいじょぶ」


 おえっぷ、とあえぎながらも、口元をぬぐいながらも、涙目になりながらも、リルナは強がりの言葉を吐いた。


「その意気さ、お譲ちゃん!」

「さすが冒険者。敵を前にして弱気は吐けないよなぁ!」

「はっはっは! ちっこい譲ちゃんに負けんなよ、お前ら!」

「おうよ!」


 リルナとメイド長の会話を聞いていた後衛職の魔法使いたちが、にやりと笑ってみせる。それはリルナと同じ強がりの言葉だった。

 ただただ士気を上げるため。

 臆病な何かが生まれでないようにするために。

 冒険者たちは、強がりの言葉と共に下位魔法を次々と繰り出し続ける。

 その壮絶な戦場に。

 疲労困憊の現場で。

 女王と冒険者たちは、偽りの笑顔を浮かべながら。

 人間になろうとする化け物に抵抗を続けるのだった。


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