問答
「弟子…?タラキが、フキの…?」
否定の言葉はなかった。サクラを無視するような沈黙が続く。
タラキは媚びるような苦しい笑顔になった。無言で圧しているフキが哀しそうな気配をちらりとみせる。そこにつけこむようにタラキが演説を始めた。
「フキは潔癖すぎるんだよ。俺はあんたのためを思って、行動してんのにさ。いいじゃねえか、若いの犠牲にしたって。アイツがいつ来るかわかんねえのに、何も対策してねえってどうよ?ほら、見えんだろ―――」
タラキがサクラの腕を乱暴につかんだ。桜やけの苛烈な痛みが気にならないほど頭に血を上げている。
「こいつは、輝いている。あんたと同じだ」
フキは首をふる。
「サクラが赫々たる髄を持っていることはしっている。拾ったときからそうだ」
強くつかまれている腕が痛い。サクラは、タラキの手をさりげなくはらった。
「おっと…」
タラキはようやく、サクラの腕をつかんでいたことに気づいたらしい。手のひらの火傷に顔をしかめている。
「と…に・か・く、サクラを殺すのは得策じゃねえ」
「では、お前は山から無断で出たものを罰さずにおれと言うのかい。統率を失えば骨鬼などすぐ滅ぶぞ」
「そこは、あんたの権力でどうとでもできんだろ。あえて、山にいる全ての骨鬼に捜索指令をだすなんてふざけたまねしなけりゃあ、さいしょっから、穏便に済ませられたのによ。あんたも俺も、サクラの‘カクカクタルズイ’とやらが遠くからでもよく見えるんだから」
フキは無愛想に吐き捨てた。
「この馬鹿者が」
赫々たる髄やタラキのいう輝きだとかは何のことだかわからないが、少なくともフキがサクラを殺すつもりであるということがわかった。そして、どうやらタラキが自分をかばってくれているらしいということも。
タラキは、フキを説得できるのだろうか。勇気を出して、言い合う二人にわって入った。
「あの、私、死にたくないです…もう逃げたりしません…どうか、赦してください」
二人がじろりとサクラを見る。どうしてだか、かばってくれているはずのタライの目も冷たい。とっさに、言い訳を頭の中で組み立てた。同情をひこうと、目を伏せる。
「私、師を探そうと思ったんです。山の骨鬼にはみんな断られたし、ここにいても意味がないでしょう…?でも、山を出る寸前にやっぱりやめよう、って引き返そうとしたらフキに怒鳴られて怖くて逃げてしまったんです」
言っているうちに、本音が混ざって泣きたいような気になった。
どうして、師を断られたんだろう。幼い赤ん坊だった私がそんなに有害だったのかな。桜やけって、どれほどの痛みなんだろう。
「めそめそするのはおやめ。鬱陶しい」
フキは少しも同情していない。
「あ、そーだ。フキがサクラを弟子にしたらいいじゃねえか。あんたなら優秀だから俺のときみたいに三年で終わるだろ」
「できないよ。私はこの山を束ねる重要な役だ。世界を巡る旅に同行する暇はない。あんたみたいに歪んだ弟子を増やしたくもないしね。タラキが師になってくれるんじゃないかと期待しているなら無駄だよ。タラキに師になる資格はない。未熟なものが嫌いで、弟子を片端から投げ出すようじゃ、つとまらないさ」
タラキが仏頂面で厭味に耳をふさぐ。
「サクラは風裂きの刑だ。………本当に1日生まれは扱いにくい」