そうだ、婚約破棄しよう!
「俺たちもあと1週間で卒業かぁ。あっという間だったよな。お前は、殿下付きの秘書官になるんだっけ?」
「あぁ…そっちは領地に戻るんだったか?」
「そ。あっちに戻ったら婚約者のリズと結婚。あっちが年上だからな、一年も待たせちまった。」
そう言ったこいつの顔はどこか緩んでいた。
「結婚か…」
「そっちは、婚約者のフィーナ嬢が卒業したあとだから…あと二年?」
「あぁ、あと二年…フィーナと一緒に卒業できたらすぐにでも結婚できるのにな」
「お前でもそう思ったりするんだな。まぁ、フィーナ嬢人気あるみたいだし。お前と婚約してるとはいえ、他の家もまだ虎視眈々と狙ってるらしいぞ?王家すら…」
「は?」
「あ、やべ…。ま、まぁ…あと二年の我慢だろ?フィーナ嬢もお前のこと好きなんだし…」
「…なぁ、今すぐに結婚する方法とかないか?」
「は?まぁ、そうだな…。婚約じゃなくなれば…」
「婚約じゃなくなれば、か…」
「駆け落ちとかお前には向いてないもんな。なら、フィーナ嬢の意思を聞いて…」
「そうだな。婚約じゃなければいいんだよな。」
「ん?あ、あぁ…?」
そうか…。
「一週間考えてみる。ありがとうな」
「おう。フィーナ嬢も納得してくれるといいな!」
****
一週間。
俺は考え続けた。
婚約とは結婚の約束。
約束のままでは夫婦にはなれない。
…ならば、婚約を終えればいいんじゃないか?
結婚すれば婚約は必要なくなる。
…そうだ、フィーナへ婚約破棄して、プロポーズしよう!
フィーナだって俺との結婚を楽しみにしてくれていた。
2年が待ちきれないと話したら、笑って頷いてくれていた。
きっと喜んでくれるはずだ。
せっかくだから、友人たち全員に証人になってもらえばいい。
…これだけの証人がいれば、王家や他の奴らからの横やりも入らないだろうからな。
…完璧だ。
「レオナルド殿下。この善き日ではございますが、申し上げたいことがございます」
「ここでか?」
「はい。皆様には証人になっていただきたいのです。
私アーネスト・フィンデルは、ここにいるフィーナ・アズールと婚約破棄をいたします。」
「え?」
「な…」
俺の一言に会場が一瞬音を失くし、そしてざわめきが広がる。
ん?そんなに変なことを言ったか?
「どう言うことでしょうか。私は何か…」
「おい、どういうつもりだ?」
フィーナとレオナルド殿下の声に首をかしげる。
婚約を終えて結婚するのは当然だろうに。
「それは、彼女と今すぐに結婚するためです」
ざわついていた会場は、また水を打ったかのように静まり返った。
「……今、お前は彼女と婚約破棄すると言ったと思うんだが?聞き間違えか?結婚?」
「そうですね。ですから、婚約とは結婚の約束です。」
「……ああ。」
「ならば結婚すれば婚約は不要になります。」
「まぁ、そうだな。」
「彼女が卒業するまであと二年。変なムシがついたらどうすればいいかと。
一週間。考えに考え、思い付いたのです。」
「………おい、なにをだ?」
「『婚約破棄して結婚してしまえばいいのだ』と」
「…………まて。」
「ゆえに婚約を破棄し、彼女と今すぐにでも結婚したく存じます。」
「…………。」
結婚するのに婚約状態は可笑しいだろう。
だから、婚約破棄するのはそんなに変だろうか?
「…………は?」
誰かが漏らした一言を皮切りに、会場中がざわめき始めた。
「いや、理屈はそうだが……」
「そういう意味の婚約破棄ではないだろう!」
「殿下!止めてください!」
「誰か説明して差し上げろ!」
「やだよ、誰が馬に蹴られになんか!」
わいわいとヤジが飛んでくるが、そんな変なこと言っていないだろうに。
「こんやく……はき、では?」
フィーナから零れ出た言葉に、当たり前だと頷く。
やっぱり、こんな大勢の前でプロポーズは、恥ずかしかっただろうか…。
「あぁ。婚約を破棄しなければ、結婚はできないだろ?」
「……はい?」
「だから、婚約とは結婚の約束だろ? 約束のままでは妻にはなれない。だから婚約は終わりにして、結婚したい」
「えっと……つまり……私との結婚は……」
「もちろんする。むしろそれ以外の選択肢があるのか?」
慌ててそういえば、フィーナの目は少し大きくなった。
「え?」
「フィーナは俺の婚約者だろう。」
「はい……。」
「だから早く結婚して妻になって欲しい。」
「はい……。」
腑に落ちないようなフィーナの顔に、どこか不安になる。
「今日、俺は卒業した。」
「はい。」
「だが、二年も待つことなんでできない。」
今日のドレス姿ですら愛らしいのに。
2年の間に、フィーに悪いムシでもついたらどうする。
……想像しただけで無理だ。
「はい。」
「だから、婚約破棄して結婚しよう。」
「はい……?」
「…返事は?」
「えっ…は、はい!」
フィーナが勢いよく頷いてくれた。
「よかった。」
一週間。
考えに考えたが、やっぱり結婚したくないと断られたらどうしようか、と。
「断られたらどうしようかと思っていた。」
「断る理由なんてありません……。」
そんなことを言ったフィーナからぽろり、と涙が零れた。
「えっ!? 泣くほど嬉しかったのか!」
「違います……!」
え?違うのか?
もしかして…
「では嫌だったのか!?」
「違います!」
違うのか?
「では何故泣く!」
「婚約破棄って言われたからです!
婚約破棄って言われて、『結婚しよう』に繋がると思いません!普通は心変わりとか婚約の解消だと思うものなのです!」
ん?
心変わり?
婚約解消?
だれが………?
「ネスの、バカ!」
フィーナのその一言に、俺は思わず額に手を当て、大きく息を吐いた。
俺か。
「……言い方を間違えた。」
「間違えましたね!」
「そうか。普通は婚約破棄と言えば、婚約を解消する意味なのか。」
「それ以外に何があるんですか!」
「俺は婚約を終えて結婚する意味で使った。」
「知っています!もう知っています!」
彼女は涙をこぼしながら、頬を膨らませていた。
すごく不謹慎だが…。
やはり、可愛い。
このまま、学院に置いておくには心配だ。
結婚したい。
「…やり直し、させてくれ」
俺は跪くと、フィーの手をとる。
「フィー…好きだ。愛してる。…だから、婚約ではなく、結婚してくれ」
「っ…喜んで!ネスのお嫁さんにしてください」
そう笑ったフィーが愛らしくて、ぎゅっと抱き寄せたのは、仕方ないだろ。
…あぁ、今すぐにでもフィーと結婚したい。




