第一章 21 "デッドゾーン突破(2)"
--- 荒れ果てた月の地表にて ---
ライトとマキの脱出ポッドは、激しい衝撃と共に岩場に着地した。二人は、大破したポッドから急いで這い出した。周囲は、鋭い岩肌と、空気のない漆黒の空が広がるだけの、荒涼とした風景だった。
ライトは、すぐさま通信システムを確認した。「ライラ?ギデオン?サイラス?応答しろ!」
返ってくるのは、静電気のノイズだけだった。
船は破壊され、チームは離散した。彼らは、最も危険な敵地のただ中で、退路を断たれた。
マキは、微塵も動揺を見せなかった。彼女はライフルを構え、即座に周囲をスキャンし始めた。「彼らはプロだ」彼女は平坦な声で言った。「彼らは生き延び、そして自らの任務を遂行するだろう。我々がそうしなければならないように」
ライトは、燃え盛る彼らの船の残骸を見つめた。そして、隣で臨戦態勢をとるマキを見た。彼は、決意を込めて、ゆっくりと頷いた。
「ああ…新しい計画だ。ここからは…足で進む」
今や、潜入任務は、生存のための戦いへと変わった。そしてそれは、宇宙で最も危険な二人の影の戦士の、真の潜在能力が解き放たれる幕開けでもあった。
ノイズ交じりの通信音だけが、ライトが得た唯一の答えだった。彼らは完全に孤立した。目の前には、巨大な狼煙のように燃え上がる「ナイトフォール」の残骸。背後には、迫り来る連邦軍。そして周囲は、生命のない、極寒の月の荒野。
「あの残骸は…蛾を引き寄せるランプだ」マキが最初に口を開いた。彼女は残骸を見ることなく、周囲の尾根をスキャンしていた。「哨戒部隊が3分以内に到着する。ここを離れるぞ」
「同感だ」ライトは答え、ライフルのグリップを握りしめた。「東へ向かう。渓谷を遮蔽物として利用する」
二人は即座に走り出した。月の低い重力を利用し、岩から岩へと高速で跳躍しながら移動した。
しかし、幸運は長くは続かなかった。スキマー(低空飛行艇)のエンジン音が、背後の静寂を切り裂いた。連邦の哨戒艇二隻が、残骸の上空を旋回し、すぐに彼らの足跡を発見した。
「侵入者二名!東の渓谷へ向かっている!迎撃せよ!」
赤いプラズマ弾が、雨のように降り注ぎ始めた!ライトとマキは、反射的に大岩の陰へと飛び込んだ。
「敵は6人だけだ!」ライトが叫んだ。「ただの下級警備兵だ!」
「始末する!」
マキはそれ以上何も言わなかった。
戦闘は、迅速かつ静かに始まった。ライトが一方のスキマーに向けて制圧射撃を行い、警備兵を地上に降りて遮蔽物を探さざるを得ない状況に追い込んだ。その隙に、マキが視界から消えた。彼女は超人的な速度で影の中を移動し、まるで亡霊のように忍び寄った。
プシュッ。消音銃の音が一度だけ響き、ライトの側面に回り込もうとしていた警備兵が、音もなく倒れた。彼女は別の二人の背後に現れた。高出力エネルギーカタナの刃が、装甲服を紙のように切り裂いた。
ライトも負けてはいなかった。敵が混乱している隙を突き、フラッシュグレネードを投げ、一時的に視界を奪った。そして遮蔽物から飛び出し、残りの三人に対して、迅速かつ残忍な近接戦闘を仕掛けた。
戦闘は一分もかからずに終わった。しかし、警報は既に発せられていた。
突如、高周波のモーター音が、前方の尾根から響いてきた。狼のような形をした四足歩行戦闘ロボットが、数十体現れた。その赤い光学センサーの目が、二人を捉え、そして一斉に襲いかかってきた!
「イージスの時よりキツいぞ!」ライトは応戦しながら悪態をついた。
「ここは奴らの本拠地だ!」マキが返した。「警備が厳重なのは当然だ!正面からは戦えない、逃げるぞ!」
二人は踵を返し、迷路のような渓谷の奥深くへと走った。殺戮ロボットの群れがすぐ後ろに迫っていた。彼らは周囲の全てを利用した。岩壁を撃って崩し、道を塞ぎ、低重力を利用して深いクレバスを飛び越えた。それは、技術と知恵の限りを尽くした、決死の逃走劇だった。
「あっちだ!」ライトが、暗い洞窟を指差した。それは、放棄された「旧採掘トンネル」のようだった。二人はそのトンネルへと飛び込み、ライトが最後の手持ちのプラスチック爆弾を入り口に投げた。
ドォン!
入り口が崩落し、追っ手の道を完全に塞いだ。真っ暗で静まり返ったトンネルの中で、二人の荒い息遣いだけが響いていた。
「一時的にだが…安全だ」ライトが最初に言った。
マキは頷き、ヘルメットのライトを点灯させた。トンネルの道は、地中深くへと続いていた。「元の計画は全滅だ。船もなく、チームもバラバラ。我々はここに閉じ込められた」
「主計画は失敗しても、任務は終わっていない」ライトは言った。彼は手首のホログラムスクリーンにステーションの地図を表示した。「このイオン・キャノン・ステーションは、古い採掘ステーションの基盤の上に建てられている。このトンネルは、その忘れられた部分に繋がっているかもしれない」
マキが地図を覗き込んだ。「私の情報源が、『地熱排気ダクト』の存在を報告していたわ。今は使われていない、キャノンの主動力炉の近くにあるダクトよ。連邦の最新の地図には載っていない」
二人の視線が交差した。暗闇の中で、新たな計画が生まれた。
「もしそのトンネルを見つけられれば…」ライトが切り出した。「…我々は、奴らの心臓部へ直接侵入できる」
「そこからなら、キャノンとデッドゾーンのセンサーネットワークを破壊できる」マキが続けた。
「そして、レックス中尉の部隊が突入する道を開くことができる」ライトが締めくくった。
潜入任務は生存任務へと変わり、そして今、地下からの強行突破任務へと変わろうとしていた。
「どうやら、本当の意味での『アンダーグラウンド』な仕事になりそうだな」ライトが乾いた笑いを漏らした。
「それが私たちの得意分野でしょう?」マキが平坦に返した。
二人は、トンネルの暗闇の奥を見つめ、そして歩き出した。毒蛇の巣の中心へ向かって。
暗く静まり返った旧採掘トンネルの中、ライトとマキの装甲服のライトだけが、ゴツゴツした岩肌と錆びついたトロッコのレールを照らしていた。空気は冷たく湿っており、土と古い金属の匂いが充満していた。
「旧植民地時代の測量図によれば…このトンネルは、旧採掘ステーションの最下層メンテナンスシャフトに繋がっているはずだ」ライトが手首のホログラムを確認しながら、小声で言った。「このまま進めば、マキが言っていた地熱排気ダクトへの入り口が見つかるはずだ」
「しっ」マキが手を挙げて制止した。彼女の二色の瞳が、暗闇の中で細められた。「聞こえる…微かな金属音…前方よ」
二人は即座にライトを消し、壁際の影に身を潜めた。ライトは消音ピストルを、マキはエネルギーカタナを音もなく引き抜いた。
音は徐々に近づいてきた。そして、トンネルのカーブから現れたのは、連邦の偵察ドローンだった。それは空中に静止し、青いスキャナーの光をゆっくりと左右に走らせていた。墜落した船の生存者を狩るために送り込まれたのだ。
それが彼らのほうを向くよりも早く、マキは影の中から豹のように飛び出した!低重力を利用して壁を蹴り、ドローンの頭上へと跳躍し、そのまま落下した。
ズボッ!
彼女の刃が、ドローンの外殻を貫き、中枢を一撃で破壊した!ドローンは警報を発する暇もなく、スキャナーの光を消して地面に落下した。
「クリア」彼女は短く言った。
しかしその時、ライトの通信機にノイズ混じりの割り込み信号が入った。<「ラ…イト…聞こ…える…? こちらライラ…」>
月の反対側、鋭利な水晶の谷にて。ライラ、ギデオン、そしてサイラスは、絶望的な戦いの只中にいた。彼らは、殺戮ロボットの群れと連邦のパトロール艇に追い詰められ、包囲されていたのだ!
「弾切れだぞ、クソッ!」ギデオンが、崖を降りてくるロボットに重機関銃を乱射しながら叫んだ。「まともな遮蔽物がなけりゃ、あと5分でミンチになっちまう!」
「今作る!」そう言うと、彼は設置していた爆弾を起爆させた!ドォン!巨大な岩棚が崩れ落ち、彼らのための一時的な石の壁となった。
「ゴライアス!北西!距離500!」サイラスが、遠く離れた崖の上の狙撃ポイントから冷静に報告した。彼はスコープを覗いた。「光学系を潰す」彼の消音ライフルから高速エネルギー弾が放たれ、ゴライアス戦闘騎の「目」を正確に撃ち抜き、狂ったように乱射させ始めた。
「時間よ!」携帯ハッキング装置と格闘していたライラが叫んだ。「ドローンのメンテナンスシステムに侵入できたわ!ファームウェアが思ったより古かった!バックドアを見つけた!」
彼女は最後のコマンドを打ち込んだ。「ドローン制御サーバーをオーバーロードさせる…今よ!」
地下トンネルに戻る。<「…見つけた…バックドア…ドローンネットワークを…オーバーロードさせる…隙を作るわ…準備して…」> ライラの信号は途切れたが、ライトは即座に理解した。「彼らは、我々のために好機を作ろうとしている」
彼はマキに言った。「ライラが地上の防衛システムを一時的に麻痺させるつもりだ。それが唯一のチャンスだ」
彼は再び地図を開いた。「地上の混乱が始まった瞬間に、あの排気ダクトに到達しなければならない」
マキは頷いた。その目には決意が満ちていた。「了解」
今、数十キロ離れた場所に引き裂かれたチーム「幻影」は、再び連携し、不可能なことを成し遂げようとしていた。彼らは、災厄を、反撃の好機へと変えようとしていたのだ!
<「オーバーロード成功!全地上防衛システム、90秒間ダウン!今よ!行って!行って!行って!」>
ライラの声が、天の啓示のようにコムリンクに響いた。旧採掘トンネルに潜んでいたライトとマキは顔を見合わせ、頷き、同時に飛び出した。
彼らは、マキが暗記していた地図に従い、複雑な通路と通気口を、90秒の混沌の時間を最大限に利用して駆け抜けた。地上から響く爆発音と銃声が、彼らの足音を消す絶好の背景音となった。
ついに、彼らは使用されていない地熱排気ダクトにたどり着いた。それは、イオン・キャノン・ステーションの中心部へと続く、巨大な金属の煙突だった。
「着いたぞ」ライトは短く言った。「ここからが、本番だ」
二人は、暗く熱い煙突の中を、信じられないほどの速さと静けさで登っていった。
--- デュオの戦闘 ---
彼らは床の通気口から、ステーションの最下層にある巨大なメンテナンスルームへと出た。しかし、彼らが姿を現した瞬間、警報に応じて配置転換中だった連邦の警備兵たちが、ちょうど彼らを見つけた!
「侵入者だ!あそこだ!」
十数人の兵士が、即座に銃口を向けた!ライトとマキに考える時間はなかった。彼らは通気口から飛び出し、反射的に背中合わせになり、死の嵐の中心となった。
ここで、二人の真の潜在能力が解き放たれた!
ライトは、不動の錨となった。彼はライフルで冷徹かつ正確に射撃した。彼の弾丸は無駄なく、中距離の敵の急所を確実に捉えた。彼は自身の周囲に「キルゾーン」を作り出した。
一方、マキは、その錨の周りを旋回する嵐だった!彼女は超人的な速度で動き、二丁拳銃で近距離の敵を撃ち、敵が懐に入ろうとした瞬間、高出力エネルギーカタナが美しく閃き、瞬きする間に敵を絶命させた!
彼らは言葉を交わすことなく、完璧に連携して戦った。ライトが遮蔽物から撃とうとしている兵士を見つけ、制圧射撃を行うと、次の瞬間にはマキが亡霊のようにその兵士の横に現れ、始末する。マキがプラズマ弾を剣で弾き、ライトがその隙を突いて弱点を晒した敵を撃ち抜く。それは、美しくも恐ろしい、死の舞踏だった。
最後の一人が倒れる寸前、最後の力を振り絞って壁の警報ボタンを押した。ウゥゥン!!!ウゥゥン!!!ウゥゥン!!!最高レベルの警報が鳴り響いた。今や、二人の侵入は、ステーション全体に知れ渡った。
「かくれんぼは終わりだ!」ライトが叫んだ。「進むぞ!」彼は、メイン通路へと続く巨大な防爆扉に徹甲爆弾を設置した。「下がれ!」
ドォン!!!
鋼鉄の扉が爆発で引き裂かれた。ライトとマキは銃を構え、開いた穴を通り抜けた。
--- 絶望の壁 ---
そして、全てが止まった。目の前の光景に、地獄を何度もくぐり抜けてきた彼らでさえ、背筋が凍る思いがした。
そこは、明るく広いメイン通路だった。そして、その通路には、彼らを静かに待ち受ける、「人の壁」があった。
最前列に立つのは、一般兵とは全く異なる漆黒の装甲服をまとった四人の兵士。それは、ライトが自身のものよりも見慣れた、「第7部隊」の戦闘装甲だった。顔を完全に覆うヘルメットと、その赤い光学レンズが、彼を見つめている。彼の過去が、彼の行く手を塞いでいた。
そして、その四人の第7部隊兵の後ろには、首都から直接派遣された百人もの上級警備兵が控えていた!彼らは最新型のプラズマライフルとエネルギーシールドを構え、整然と隊列を組んでいる。これは、最高レベルの脅威に対処するために特別に派遣された部隊だった。
通路には何の音もなく、ただ息が詰まるほどの圧迫感に満ちた静寂だけがあった。それは、罠にかかった獲物を見つめる、狩人たちの静寂だった。
ライトの呼吸が詰まる。冷や汗が額から滲み出た。これはただの戦闘ではない。彼自身の具現化した「悪夢」との対峙だった。
マキは恐怖を見せなかったが、彼女が刀の柄を固く握りしめたのを、ライトは見逃さなかった。「問題発生、か」彼女は小さく呟いた。
そして、中央に立つ第7部隊兵が、一歩前に出た。彼は何も言わず、銃も構えず、ただ片手を上げ、ゆっくりと人差し指で彼らを挑発するように手招きした。それは傲慢で、挑戦的な態度、そして「かかってこい、勇気があるならな」という明確な意思表示だった。
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その第7部隊兵の挑戦的な態度は、最も明確な宣戦布告だった。ライトとマキは一瞬だけ視線を交わした。このレベルの手練れ同士に、言葉は不要だった。彼らは即座に互いの意図を理解した。この規模の軍隊と正面から戦うのは自殺行為。唯一の活路は、軍の「頭」を断つこと。つまり、あの四人の第7部隊兵を仕留めることだ!
ライトがわずかに左へ頷くと、マキも頷き返した。彼らはターゲットを分担した。
手招きしていた第7部隊兵が手を下ろす。それが合図だった。百人もの上級警備兵が、一斉にプラズマライフルを肩に構えた!死の壁が、今、放たれようとしていた!
しかし、最初の一発が放たれるよりも早く、ライトとマキは鏡写しのように同時に動いた!
ライトはホールの左側へスモークグレネードを投げ、濃い煙の幕が瞬時に視界を遮った。同時に、マキは右側へ閃光手榴弾を投げた!爆発したまばゆい光が、その一団の兵士たちの目を一時的に眩ませた!
二人は躊躇せず、自らが作り出した混沌の中心へと突入した!
二人の第7部隊兵がライトを追って煙の中へ、そしてフラッシュ防止システムを持つヘルメットを装着した残りの二人が、即座にマキへと襲いかかった。体勢を立て直した百人の警備兵も、それぞれのリーダーに従って散開し、戦場は完全に二つに分断された。
--- **ライトの戦場:煙幕の中の死の影** ---
濃い煙の中、ライトは音と直感だけを頼りに動いた。しかし、それは彼の敵も同じだった。二対の赤い光学レンズが、悪魔の目のように煙の中で光った。彼らは、慣れ親しんだ環境の中でお互いを狩っていた。
突如、一人の第7部隊兵が新たな武器を起動した。その手のグリップが光り、純粋なレーザーエネルギーで作られた棘付きの鉄球が、エネルギーチェーンでグリップと繋がって現れた!
彼はその恐るべき武器を広範囲に振り回し、ライトを後退させた。ライトは、その武器と正面からぶつかることはできないと判断し、代わりに煙の中に続々と侵入してくる50人の警備兵の対処に切り替えた。彼は第7部隊にいた頃のように戦った。敵を盾にし、環境を利用し、最も予測不能なタイミングで攻撃した。
彼は、同じくライフルを使うもう一人の第7部隊兵に応戦した。煙の中での近距離の銃撃戦は、まさに胆力の試し合いだった。しかし、ライトには、この兵士たちにはないものがあった。何年もの間、生き残るためにもがき続けてきた「裏切り者」の直感だ。
彼はわざと一発外し、敵が油断して遮蔽物から反撃に出てくるよう誘い出した。それこそが、ライトが待っていた瞬間だった。彼が次に放った弾丸は、そのヘルメットの光学レンズを正確に撃ち抜いた!
最初の第7部隊兵が倒れた。しかし、ライトに喜ぶ暇はなかった。死のレーザー鉄球が、彼の目の前に迫っていたからだ!彼は紙一重で身をかわし、鉄球は背後の壁に激突し、金属を真っ赤に溶かした。その熱波が、肌を焼くように感じられた!
同時に、さらに数十人の警備兵が防御線を固め、煙の中へ狂ったように弾丸を撃ち込んできた。今やライトは、予測不能な武器を持つ、残された元同僚一人と、数十人の警備兵の弾丸の雨の中で、対峙していた。彼の状況は、依然として絶望的だった。
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薄れ始めた煙の中、ライトは最悪の状況に直面していた。数十人の警備兵による制圧射撃で、頭を上げることもままならない。そしてさらに悪いことに、残された一人の第7部隊兵が、死のレーザーフレイルを振り回しながら、ゆっくりと距離を詰めてきていた。
この消耗戦に勝ち目はないと、ライトは悟った。今、ここで終わらせなければならない!
彼は、最も危険な賭けに出ることを決意した。
ライトは遮蔽物から転がり出た!警備兵の包囲網の中心へと!その自殺行為にも見える行動に、誰もが一瞬、驚愕した。それこそが、彼が必要としていた隙だった!
彼は警備兵に向かって走るのではなく、装甲服の推進力で壁を駆け上がり、高速で移動する囮となった!
第7部隊兵は、反射的に彼に向かってフレイルを振り抜いた。ライトは最後の瞬間に壁から飛び降り、死の鉄球は、彼の代わりに味方である警備兵の一団へと突っ込んだ!
ドォン!
敵の陣形に混乱が生じ、ライトはその隙を突いて真の目標、第7部隊兵へと突進した!
再び近接戦闘が始まった!ライトはライフルを捨て、手にはコンバットナイフだけが残されていた。彼は、恐ろしく振るわれるエネルギーチェーンを避け、敵の懐に入らなければならなかった。それは、まさに死との舞踏だった。
ついに、彼は好機を見つけた。チェーンが空を切った瞬間、彼は接近し、ナイフで武器のグリップを受け流し、もう一方の手で敵のヘルメットを強打した!
決闘には勝利したが、彼は完全に力を使い果たしていた。残りの30人以上の警備兵が体勢を立て直し、彼を取り囲んだ。数十の銃口が、あらゆる方向から彼に向けられていた。もはや、これまでか…。
しかし、絶望を見せる代わりに、ライトはナイフを床に落とし、ゆっくりと両手を上げた。降伏の合図だった。
(これが唯一の道だ…)兵士たちが彼を拘束する中、彼は心の中で思った。(正面玄関は破壊不能な要塞だ。だが、内側からなら…独房からなら…どんな要塞にも、必ず弱点がある)
彼は、しくじったのではない。彼は「**意図的に**」捕まったのだ!
--- **マキの戦場:血の嵐** ---
ホールの反対側では、煙幕はなかった。ただ、白日の下に晒された虐殺があるだけだった。
マキは防御的に戦ってはいなかった。彼女は、敵の中心へと突っ込む狂乱の嵐だった!彼女は、50人の警備兵と二人の第7部隊兵の包囲網の中で、ぼやけた影となって動き回った!二丁のピストルは絶え間なく火を噴き、牽制と隙を作り出し、もう一方の手に握られた高出力エネルギーカタナは、間合いに入った者全てを、美しく、そして確実に斬り捨てていった。
二人の第7部隊兵が彼女を挟み撃ちにしようとしたが、「ゴースト」の速度は、彼らの想像を遥かに超えていた!彼女は二人の連携攻撃の下を滑り抜け、一人のアキレス腱を斬って膝をつかせ、その体を踏み台にして宙を舞い、もう一人のヘルメットの後頭部を正確に撃ち抜いた!
最初の第7部隊兵は、瞬く間に処理された!
残された一人は怒りに咆哮し、持てる全ての技術で彼女に立ち向かった。だが、マキにとっては、もう終わっていた。彼女は感情のない殺戮機械のように戦った。全ての動きは完璧に計算されていた。彼女は避け、受け流し、そしてついに、彼女の刃が、最後の第7部隊兵の心臓を貫いた。
彼女は、敵全員の死体の真ん中で、静かに立ち止まった。二人の第7部隊兵と、50人の上級警備兵。生存者は、一人もいなかった。
**<「マキ!見たぞ…」>** 援護していたサイラスの声がコムリンクから聞こえた。**<「奴らがキャプテンを捕らえた!高度セキュリティの独房へ連行している!」>**
それを聞いたマキは、動揺しなかった。「ゴースト」として、彼女は感情で動くことは決してない。彼女は分析した。(ライトが捕まる?あの男が、ただの警備兵にしくじるものか?)
そして、彼女は即座に彼の計画を理解した。「高度セキュリティ独房…」彼女は呟いた。「司令部の主サーバーセンターに隣接している」
彼は囚人になるのではない。彼は、敵の心臓部に潜入するウイルスになるのだ!
マキの眼差しが変わった。冷徹さは、さらに危険な決意に取って代わられた。彼女の任務は変わったのだ。彼女はすぐに残りのチームの共有チャンネルを開いた。「ライラ、ギデオン、サイラス、計画変更」彼女の声は断固としていた。「キャプテンは『トロイの木馬作戦』を開始した。今、彼は内部にいる」
「我々の新しい任務は、可能な限りの混乱を引き起こすこと。我々が彼の周りでこのステーションを焼き尽くし、彼が仕事をしやすくするための目くらましを作る!」
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戦闘の痛みは薄れ始め、心を蝕むような冷たさに取って代わられた。ライトは、二人の上級警備兵に連行され、ステーション・ケルベロスの中心部へと深く進んでいった。ここの通路は、外とは全く異なっていた。清潔で、明るく、そして神殿のように静かだった。悪魔の神殿だが。
彼らは、連邦が隠していた「秘密」を映し出す、巨大な透明な壁を通り過ぎた。ある部屋では、何十体もの最新型ゴライアス戦闘騎が組み立てられていた。別の部屋では、一瞬で戦艦の装甲を溶かすほどの強力なビームを放つ、試作プラズマ兵器のテストが行われていた。
そして、彼らは最も大きな展望バルコニーにたどり着いた。ライトが目にした光景に、彼は息を呑んだ。
彼の眼下には、巨大なハンガーベイが広がっていた。そして、そこにあったのは、戦闘艦ではなかった。それは、反重力エネルギーフィールドに浮かぶ、**十数機もの「エレクター=カイ」**だった!それらは完全に組み立てられ、「即時使用可能」な状態だった!
(これはプロトタイプじゃない…量産ラインだ!)ライトは驚愕の中で思った。(奴らは、自分たちの機械獣軍団を創り上げようとしている!)
混乱した思考が頭の中で渦巻いたが、ただ一つの考えだけが、鮮明だった。(もしこの任務が成功すれば…もしジャックがこの情報を手に入れれば…我々は勝てる。惑星マリアを、必ず解放できる!)
旅は、高度セキュリティ独房の扉の前で終わった。警備兵は彼を中に突き飛ばし、青いエネルギーのカーテンが、出入り口を完全に封鎖した。




