第一章 21
最前列に立つのは、一般兵とは全く異なる漆黒の装甲服をまとった四人の兵士。それは、ライトが自身のものよりも見慣れた、「第7部隊」の戦闘装甲だった。顔を完全に覆うヘルメットと、その赤い光学レンズが、彼を見つめている。彼の過去が、彼の行く手を塞いでいた。
そして、その四人の第7部隊兵の後ろには、首都から直接派遣された百人もの上級警備兵が控えていた!彼らは最新型のプラズマライフルとエネルギーシールドを構え、整然と隊列を組んでいる。これは、最高レベルの脅威に対処するために特別に派遣された部隊だった。
通路には何の音もなく、ただ息が詰まるほどの圧迫感に満ちた静寂だけがあった。それは、罠にかかった獲物を見つめる、狩人たちの静寂だった。
ライトの呼吸が詰まる。冷や汗が額から滲み出た。これはただの戦闘ではない。彼自身の具現化した「悪夢」との対峙だった。
マキは恐怖を見せなかったが、彼女が刀の柄を固く握りしめたのを、ライトは見逃さなかった。「問題発生、か」彼女は小さく呟いた。
そして、中央に立つ第7部隊兵が、一歩前に出た。彼は何も言わず、銃も構えず、ただ片手を上げ、ゆっくりと人差し指で彼らを挑発するように手招きした。それは傲慢で、挑戦的な態度、そして「かかってこい、勇気があるならな」という明確な意思表示だった。
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その第7部隊兵の挑戦的な態度は、最も明確な宣戦布告だった。ライトとマキは一瞬だけ視線を交わした。このレベルの手練れ同士に、言葉は不要だった。彼らは即座に互いの意図を理解した。この規模の軍隊と正面から戦うのは自殺行為。唯一の活路は、軍の「頭」を断つこと。つまり、あの四人の第7部隊兵を仕留めることだ!
ライトがわずかに左へ頷くと、マキも頷き返した。彼らはターゲットを分担した。
手招きしていた第7部隊兵が手を下ろす。それが合図だった。百人もの上級警備兵が、一斉にプラズマライフルを肩に構えた!死の壁が、今、放たれようとしていた!
しかし、最初の一発が放たれるよりも早く、ライトとマキは鏡写しのように同時に動いた!
ライトはホールの左側へスモークグレネードを投げ、濃い煙の幕が瞬時に視界を遮った。同時に、マキは右側へ閃光手榴弾を投げた!爆発したまばゆい光が、その一団の兵士たちの目を一時的に眩ませた!
二人は躊躇せず、自らが作り出した混沌の中心へと突入した!
二人の第7部隊兵がライトを追って煙の中へ、そしてフラッシュ防止システムを持つヘルメットを装着した残りの二人が、即座にマキへと襲いかかった。体勢を立て直した百人の警備兵も、それぞれのリーダーに従って散開し、戦場は完全に二つに分断された。
--- **ライトの戦場:煙幕の中の死の影** ---
濃い煙の中、ライトは音と直感だけを頼りに動いた。しかし、それは彼の敵も同じだった。二対の赤い光学レンズが、悪魔の目のように煙の中で光った。彼らは、慣れ親しんだ環境の中でお互いを狩っていた。
突如、一人の第7部隊兵が新たな武器を起動した。その手のグリップが光り、純粋なレーザーエネルギーで作られた棘付きの鉄球が、エネルギーチェーンでグリップと繋がって現れた!
彼はその恐るべき武器を広範囲に振り回し、ライトを後退させた。ライトは、その武器と正面からぶつかることはできないと判断し、代わりに煙の中に続々と侵入してくる50人の警備兵の対処に切り替えた。彼は第7部隊にいた頃のように戦った。敵を盾にし、環境を利用し、最も予測不能なタイミングで攻撃した。
彼は、同じくライフルを使うもう一人の第7部隊兵に応戦した。煙の中での近距離の銃撃戦は、まさに胆力の試し合いだった。しかし、ライトには、この兵士たちにはないものがあった。何年もの間、生き残るためにもがき続けてきた「裏切り者」の直感だ。
彼はわざと一発外し、敵が油断して遮蔽物から反撃に出てくるよう誘い出した。それこそが、ライトが待っていた瞬間だった。彼が次に放った弾丸は、そのヘルメットの光学レンズを正確に撃ち抜いた!
最初の第7部隊兵が倒れた。しかし、ライトに喜ぶ暇はなかった。死のレーザー鉄球が、彼の目の前に迫っていたからだ!彼は紙一重で身をかわし、鉄球は背後の壁に激突し、金属を真っ赤に溶かした。その熱波が、肌を焼くように感じられた!
同時に、さらに数十人の警備兵が防御線を固め、煙の中へ狂ったように弾丸を撃ち込んできた。今やライトは、予測不能な武器を持つ、残された元同僚一人と、数十人の警備兵の弾丸の雨の中で、対峙していた。彼の状況は、依然として絶望的だった。
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薄れ始めた煙の中、ライトは最悪の状況に直面していた。数十人の警備兵による制圧射撃で、頭を上げることもままならない。そしてさらに悪いことに、残された一人の第7部隊兵が、死のレーザーフレイルを振り回しながら、ゆっくりと距離を詰めてきていた。
この消耗戦に勝ち目はないと、ライトは悟った。今、ここで終わらせなければならない!
彼は、最も危険な賭けに出ることを決意した。
ライトは遮蔽物から転がり出た!警備兵の包囲網の中心へと!その自殺行為にも見える行動に、誰もが一瞬、驚愕した。それこそが、彼が必要としていた隙だった!
彼は警備兵に向かって走るのではなく、装甲服の推進力で壁を駆け上がり、高速で移動する囮となった!
第7部隊兵は、反射的に彼に向かってフレイルを振り抜いた。ライトは最後の瞬間に壁から飛び降り、死の鉄球は、彼の代わりに味方である警備兵の一団へと突っ込んだ!
ドォン!
敵の陣形に混乱が生じ、ライトはその隙を突いて真の目標、第7部隊兵へと突進した!
再び近接戦闘が始まった!ライトはライフルを捨て、手にはコンバットナイフだけが残されていた。彼は、恐ろしく振るわれるエネルギーチェーンを避け、敵の懐に入らなければならなかった。それは、まさに死との舞踏だった。
ついに、彼は好機を見つけた。チェーンが空を切った瞬間、彼は接近し、ナイフで武器のグリップを受け流し、もう一方の手で敵のヘルメットを強打した!
決闘には勝利したが、彼は完全に力を使い果たしていた。残りの30人以上の警備兵が体勢を立て直し、彼を取り囲んだ。数十の銃口が、あらゆる方向から彼に向けられていた。もはや、これまでか…。
しかし、絶望を見せる代わりに、ライトはナイフを床に落とし、ゆっくりと両手を上げた。降伏の合図だった。
(これが唯一の道だ…)兵士たちが彼を拘束する中、彼は心の中で思った。(正面玄関は破壊不能な要塞だ。だが、内側からなら…独房からなら…どんな要塞にも、必ず弱点がある)
彼は、しくじったのではない。彼は「**意図的に**」捕まったのだ!
--- **マキの戦場:血の嵐** ---
ホールの反対側では、煙幕はなかった。ただ、白日の下に晒された虐殺があるだけだった。
マキは防御的に戦ってはいなかった。彼女は、敵の中心へと突っ込む狂乱の嵐だった!彼女は、50人の警備兵と二人の第7部隊兵の包囲網の中で、ぼやけた影となって動き回った!二丁のピストルは絶え間なく火を噴き、牽制と隙を作り出し、もう一方の手に握られた高出力エネルギーカタナは、間合いに入った者全てを、美しく、そして確実に斬り捨てていった。
二人の第7部隊兵が彼女を挟み撃ちにしようとしたが、「ゴースト」の速度は、彼らの想像を遥かに超えていた!彼女は二人の連携攻撃の下を滑り抜け、一人のアキレス腱を斬って膝をつかせ、その体を踏み台にして宙を舞い、もう一人のヘルメットの後頭部を正確に撃ち抜いた!
最初の第7部隊兵は、瞬く間に処理された!
残された一人は怒りに咆哮し、持てる全ての技術で彼女に立ち向かった。だが、マキにとっては、もう終わっていた。彼女は感情のない殺戮機械のように戦った。全ての動きは完璧に計算されていた。彼女は避け、受け流し、そしてついに、彼女の刃が、最後の第7部隊兵の心臓を貫いた。
彼女は、敵全員の死体の真ん中で、静かに立ち止まった。二人の第7部隊兵と、50人の上級警備兵。生存者は、一人もいなかった。
**<「マキ!見たぞ…」>** 援護していたサイラスの声がコムリンクから聞こえた。**<「奴らがキャプテンを捕らえた!高度セキュリティの独房へ連行している!」>**
それを聞いたマキは、動揺しなかった。「ゴースト」として、彼女は感情で動くことは決してない。彼女は分析した。(ライトが捕まる?あの男が、ただの警備兵にしくじるものか?)
そして、彼女は即座に彼の計画を理解した。「高度セキュリティ独房…」彼女は呟いた。「司令部の主サーバーセンターに隣接している」
彼は囚人になるのではない。彼は、敵の心臓部に潜入するウイルスになるのだ!
マキの眼差しが変わった。冷徹さは、さらに危険な決意に取って代わられた。彼女の任務は変わったのだ。彼女はすぐに残りのチームの共有チャンネルを開いた。「ライラ、ギデオン、サイラス、計画変更」彼女の声は断固としていた。「キャプテンは『トロイの木馬作戦』を開始した。今、彼は内部にいる」
「我々の新しい任務は、可能な限りの混乱を引き起こすこと。我々が彼の周りでこのステーションを焼き尽くし、彼が仕事をしやすくするための目くらましを作る!」
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戦闘の痛みは薄れ始め、心を蝕むような冷たさに取って代わられた。ライトは、二人の上級警備兵に連行され、ステーション・ケルベロスの中心部へと深く進んでいった。ここの通路は、外とは全く異なっていた。清潔で、明るく、そして神殿のように静かだった。悪魔の神殿だが。
彼らは、連邦が隠していた「秘密」を映し出す、巨大な透明な壁を通り過ぎた。ある部屋では、何十体もの最新型ゴライアス戦闘騎が組み立てられていた。別の部屋では、一瞬で戦艦の装甲を溶かすほどの強力なビームを放つ、試作プラズマ兵器のテストが行われていた。
そして、彼らは最も大きな展望バルコニーにたどり着いた。ライトが目にした光景に、彼は息を呑んだ。
彼の眼下には、巨大なハンガーベイが広がっていた。そして、そこにあったのは、戦闘艦ではなかった。それは、反重力エネルギーフィールドに浮かぶ、**十数機もの「エレクター=カイ」**だった!それらは完全に組み立てられ、「即時使用可能」な状態だった!
(これはプロトタイプじゃない…量産ラインだ!)ライトは驚愕の中で思った。(奴らは、自分たちの機械獣軍団を創り上げようとしている!)
混乱した思考が頭の中で渦巻いたが、ただ一つの考えだけが、鮮明だった。(もしこの任務が成功すれば…もしジャックがこの情報を手に入れれば…我々は勝てる。惑星マリアを、必ず解放できる!)
旅は、高度セキュリティ独房の扉の前で終わった。警備兵は彼を中に突き飛ばし、青いエネルギーのカーテンが、出入り口を完全に封鎖した。




