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第一章19

数日が過ぎた。


秘密基地「コンバージェンス」にて。


両同盟艦隊は、大規模な修理と増強の期間に入っていた。傷ついた母艦「ウィンターズ・クレスト」は、両陣営のエンジニアチームによって、急ピッチで修理されていた。


一方、惑星ネロルで採掘された「ネオ・タイベリウム」鉱石は、インワン・フリーダム艦隊の兵器と防御システムのアップグレードに使用されていた。


それは、静寂の時だった。


しかし、誰もが、それが、薄いガラスのように脆い、静寂であることを、知っていた。


---


広々とした訓練室に、エネルギーソードがぶつかり合う音が響き渡る。ウィリアム王子は、体にフィットした訓練服を身に着け、彼の護衛兵と、剣の訓練をしていた。


彼の動きは、優雅で、速く、そして、吹雪のように鋭かった。


全ての一挙手一投足が、まるで、教本のように完璧だった。


ライトは、壁にもたれかかり、部屋の隅から、その光景を見ていた。


彼は、マキと彼のチームとの、緊迫した作戦計画会議を、終えたばかりだった。


そして、心を落ち着かせるために、静かな場所を、探していた。


「キャプテン・ライト」


ウィリアム王子は、訓練を止め、彼の方に、向き直った。


その、整った顔に、滲む汗も、彼の、優雅さを、少しも、損なわせてはいなかった。


「あなたが、剣術に、興味があるとは、思いませんでしたな」


「私は、ただ、観察していただけです、殿下」ライトは、平坦に答えた。「私の、仕事では、そのようなものは、ナイフと、呼びます」


彼は、そう言いながら、腰に下げた、コンバットナイフの柄に、触れた。


ウィリアムは、口の端を、歪めた。


「ならば、一曲、手合わせ願えませんか?もちろん、訓練用の剣で」


それは、丁寧だが、探るような、挑戦だった。


ライトは、頷いた。


手合わせが、始まった。


それは、全く異なる、二つの戦闘スタイルの、衝突だった。


ウィリアムは、美しく、連続的な、高等剣術で、攻め立てた。


一方、ライトは、シンプルだが、隙のない、構えで、受けに徹した。


彼は、美しく戦おうとは、しなかった。彼は、ただ、待っていた。相手の、ほんの一瞬の、ミスを。


そして、その瞬間が、訪れた。ライトは、素早く、そして、予測不可能な動きで、反撃した。


彼は、剣を攻撃せず、身をかわして接近し、手刀で、王子の手首を、激しく打ち、剣を、弾き飛ばした!


沈黙が、訪れた。


王子の護衛兵たちが、駆け寄ろうとしたが、ウィリアムは、手で、それを制した。「あなたは、まるで、追い詰められた、狼のように、戦う」ウィリアムは、言った。


しかし、彼の眼差しは、感嘆に、満ちていた。「栄誉はない。だが、恐ろしいほど、効率的だ」


「栄誉は、忘れられた植民地の、暗い路地で、生き残る助けには、なりませんので」ライトは、答えた。


「私の妹が、あなたのことを、話してくれました」


突然、ウィリアムは、話題を変えた。「彼女は、あの日の、バイオドームでの、あなた方との会話に、感銘を、受けたようです」


彼は、近づいてきた。


「彼女は、あなたが、ただの、『第7部隊の亡霊』以上の、何かであると、信じています。私は、願っています。私の妹のために、彼女が、正しいことを」


ウィリアムは、ライトの瞳の奥を、覗き込んだ。


「あなたが、これから、行う任務は、インワン・フリーダムの希望だけでなく、私の、マリアンの民の希望も、背負っているのです。彼らを、失望させないでください」


それは、命令ではなかった。


一人の男から、もう一人の男への、願いだった。リーダーから、リーダーへの。


---


**(シーンカット:避難センター)**


避難センターの雰囲気は、かなり、良くなっていた。


人々は、新しい生活に、順応し始めていた。子供たちの笑い声が、聞こえるようになっていた。


ライトは、難民の状況報告書を、司令部へ届けるために、やってきた。


彼は、エララが、輪になって座る、子供たちのグループに、笑顔で、本を教えているのを、見た。その隣では、ガーとボルクが、冗談を言い合いながら、何かの装置の修理を、手伝っていた。


一方、サトウとリヒター医師は、チェスをしながら、熱心に、戦略について、議論していた。


それは、「平穏」の、光景だった。ライトが、これから、守るために、戦おうとしている、ものの光景。


エララは、顔を上げて、彼に気づいた。


彼女は、微笑んだ。「おやつでも、探しに来たの、キャプテン?それとも、私たちが、サボっていないか、見張りに?」


「書類を、届けに来ただけだ」


ライトは、答えた。彼は、データパッドを、手渡した。「皆、元気そうだな」


「以前よりは、ずっとね」


エララは、認めた。「『帰る家』があるということ、たとえ、それが、仮の家でも、本当に、違うものなのね」


彼女は、立ち上がり、彼を、ドアまで、送っていった。


「あなたの任務、もうすぐ、始まるのね」「ああ」「ただ、気をつけてね」彼女は、静かに言った。「そして、帰ってきて」


「もちろんだ」


ライトは、短く応じ、背を向けて、去っていった。


彼は、振り返らなかった。


しかし、彼は、皆の、彼を見送る視線を、感じていた。「家族」の、視線を。何と引き換えにしても、守らなければならないと、彼が、誓った、家族の。


---


皆と、会って話した後、ライトは、任務が始まる前に、直面しなければならない、最後の一人が、残っていることを、よく知っていた。


彼の、相棒。


彼は、プライベートな格納庫へと、歩いていった。


そこでは、ステルス艦「ナイトフォール」が、静かに、待機していた。そして、彼は、マキを、見つけた。


彼女は、ただ立って、待っていたわけではなかった。


彼女は、艦の横の床に、座禅を組み、手の中の、特殊な砥石で、ゆっくりと、彼女の刀の刃を、研いでいた。冷静に、そして、集中して。


石が、金属と擦れる音が、一定のリズムで、微かに、響き渡っていた。


それは、穏やかな光景に見えたが、その裏には、冷たい(殺気)が、潜んでいた。


ライトは、何も言わずに、彼女の隣に、立った。


「来たか、キャプテン」マキは、刃から、目を離さずに、言った。


「我々の任務の、可能性を、計算してみた。気づかれずに、ケルベロス・ステーションに、潜入できる確率は、30%未満だ」


「知っている」


ライトは、答えた。「そして、我々が、生還できる確率は、それよりも、さらに低い」


「死は、恐ろしいものではない」


マキは、続けた。「恐ろしいのは、任務を、達成せずに、死ぬことだ。もし、我々が、『無効化パルス』を、アップロードする前に、『エレクトー・カイ』を破壊すれば、狂乱した機械の群れを、解き放ち、全てを破壊することになる。我々の、犠牲は、無意味になる」


彼らの会話は、生と死の、緊張感に、満ちていた。


慰めの言葉も、美辞麗句もない。ただ、過酷な現実を、受け入れるだけだった。


ライトは、彼女の隣に、座り込んだ。「我々は、成功させなければならない。他に、選択肢はない」


沈黙が、訪れた。


ただ、刃を研ぐ音だけが、続いていた。


しかし、その時、ライトの視線は、何かに、留まった。マキの、刀の柄の先に、


古い、小さな、お守りが、一つ、ぶら下がっていた。


それは、この、殺戮の武器とは、全く、不釣り合いな、小さな鳥の、木彫りの人形だった。


「それは…」


ライトは、思わず、口にした。マキの手が、一瞬、止まった。


ライトが、彼女の集中が、途切れるのを、見たのは、初めてのことだった。彼女は、そのお守りを、見下ろした。


そして、彼女の眼差しが、変わった。冷たさが、一瞬、消え、


ライトが、これまで、一度も見たことのない、何かの感情に、取って代わられた。


「記憶だ」


彼女は、静かに答えた。「これより、前の、時間からの」


彼女は、それ以上は、何も、説明しなかった。


しかし、ライトは、即座に、理解した。「これより、前」とは、


彼女が、「ゴースト」になる前。全てが、奪われる前。


ライトは、それ以上は、詮索しなかった。


彼は、ただ、彼の鎧のポケットに、手を入れ、そして、萎れ始めているが、まだ、その青い形を、保っている、「冬の氷」の花を、取り出し、彼の隣に、そっと、置いた。


「我々は、皆、そういうものを、持っているものだ」彼は、言った。


マキは、その花に、目をやり、そして、顔を上げて、彼と、目を合わせた。


その瞬間、


階級の区別もなく、第7部隊も、ゴースト部隊も、なかった。ただ、再び、失敗することを、恐れる、一人の男と、


自らの過去を、消すために、戦う、一人の女性が、いただけだった。二つの、壊れた魂が、


言葉を、交わすことなく、互いの傷を、見た。


それは、戦争の闇の中で、一瞬だけ、起こった、「良い瞬間」だった。


そして、マキは、元の彼女に、戻った。


彼女は、立ち上がり、刀を鞘に収め、そのお守りは、再び、影の中へと、消えた。「艦の準備は、できている」


彼女は、元の、冷たい声で、言った。


「あなたが、命令すれば、すぐに出発する、キャプテン」


ライトは、立ち上がった。


彼は、花を、そして、彼の相棒を、見た。


「行こうか。そろそろ、悪魔狩りの、時間だ」


---


ライトが、そう言い終わると、彼は、その乾いた花を、慎重に、ポケットに、しまい、待機している、ステルス艦「ナイトフォール」へと、歩き出した。


マキは、まだ、その場に、静かに立っていた。


しかし、ライトが、彼女を、通り過ぎる時、


ポン


彼の、手が、彼女の肩に、軽く、触れた。


それは、親しみを込めた、触れ方ではなかった。


それは、戦友の、力強く、そして、意味の込められた、触れ方だった。


彼は、歩みを、止めなかった。


しかし、彼は、通り過ぎながら、静かだが、はっきりとした声で、言った。


「俺の背中は、頼んだぞ、相棒」


それは、特殊部隊の兵士たちが、使う、言葉だった。


最高レベルの、信頼の、表明。


自らの命を、完全に、もう一人の、手に、委ねる、こと。


その一瞬、


マキは、固まった。彼女の体は、一瞬、硬直した。彼女の、二色の瞳は、わずかに、見開かれた。


その言葉、その、偽りのない、信頼。それは、彼女が、これまで、誰からも、受けたことのない、


そして、聞くことを、期待したことのない、ものだった。特に、この男からは。


彼女は、自分の表情が、変わるのを、隠すために、素早く、顔を、そむけた。


そして、元の、冷たい声を、装おうと、努力しながら、返した。


「当然だ。私の任務は、キャプテンを、生還させることだ」


艦の、入り口に、到着したライトは、振り返り、彼女に、かすかに、微笑み、そして、艦の中へと、入っていった。


マキは、もうしばらく、その場に、静かに立っていた。


そして、これまで、誰にも、聞いたことのない、声で、静かに、独りごちた。


「…この、変態め」


そして、彼女は、背を向けて、彼の後を追い、艦の中へと、入っていった。


彼女の、人生で、これまで、一度も、経験したことのない、混乱した感情と、共に。

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