2話 前編 ようやく名乗ったか
「カンパーイ!」
一斉にグラスをあげる。
俺は果実酒。セッテはエール。レジーは気味の悪い色の液体。知らない男女が1人ずついるが男の方は俺と同じ果実酒。女の方はエールだった。
座る順は俺から右回りにセッテ、男、レジー、女だった。
セッテが仕切り始める。
「さて、今回我らがギルドに新たなる仲間が加わった。名前を言ってくれ!」
「リーデル・サントガラルだ。色々あって旅に出ていた。戦いは未熟だが旅で培ったスキルを使っていきたい。よろしく頼む。」
拍手が起こる。
「それじゃあ俺から右回りに名乗っていこうか。俺はセッテ。セッテ・アックィだ。ジョブは上級剣士。一応ギルドリーダーをやっている。」
次の男。にこやかな好青年。痩せてはいるが、筋肉質な腕。緑の髪がボサボサとはねている。メガネをクイッとあげて言った。
「僕はクワット・ロッテ。クワットって呼んでくれ。ジョブは回復術士だけど基本は荷物持ちだよ。」
レジー、あの謎の液体を取りに行くと言って二階に上がっていったため、保留。
次の女。気の強そうな女。髪にはポニーテールを常日頃しているような跡が残っている。その長い髪をいじらせながら気だるげに言う。
「オトフィ・アンメ。魔法使い。」
セッテが自慢げに言う。
「この料理はオトフィが作ったんだ。ここでは1番の料理の腕を持っている。」
オトフィは平静を装って、しかし、少し嬉しそうに、
「そんなことないわ。」と言った。
その時、レジーが2階から謎の液体を2つ持って階段を降りてきた。
「おお!丁度いい。レジー、自己紹介を。」
瓶を置いて、答える。
「私はレジー・スパーダ。冠位を付けるならラ・レジー・ナデラ・スパーダ。錬金術師よ。よろしくね。」
にこやかに笑う。
そういえば聞いたことがある。
わずか15歳の少女が最上位の証である冠位『偉大なる錬金術師』を獲得したと。
「じゃああんたが『偉大なる錬金術師レジー・スパーダ』なのか?」
「巷ではそう言われているわね。」
大変な人物だった。それならあれほど強いのもうなずける。
1人で勝手に納得していると、宴はおかしな方向に進んでいた。
あの謎の液体を誰が飲むか賭けをしている。
バカバカしい。
宴がお開きになった後、俺とレジー以外は皆倒れ込んでいた。
レジーが1人で運べると言うので俺は言葉に甘えて自分の部屋を見繕い、眠ることにした。
翌朝、1階に降りると一番乗りではなかった。
「ああ、おはようリーデル君。よく眠れたかい?」
クワットが朝食を作っていた。
「ああ。そういうクワットは大丈夫なのか?」
「慣れてるからね。」
慣れているのか……
次に起きてきたのはセッテだった。
「おお、リーデル。意外と早いんだな。」
「おはよう、セッテ。」
届けられた朝食は王国のメインストリートに相応しい、立派なものだった。
ここ最近はエネルギー効率のいいものしか取っていなかったので、まともな食事は久しぶりだ。
俺が朝食を半分食べ、セッテが食べ終わった頃。
レジーが起きてきた。
「おはようございます。」スカートをちょこんと摘んでお辞儀をする。
口々におはようと言う。
レジーの座った席に朝食が届けられる。
が、俺たちの物とは異なっていた。
俺たちが普通の食事なら、彼女は果実を3つ分切った物だった
赤い外套に包まれた甘美なる果実。外套の下には白い果肉があった。
そこから甘美なる蜜が溢れ出るのが見て取れる。
小さなフォークを突き刺し、小さな唇に運ぶ。
しばらく咀嚼した後、満足したように口角を上げるのであった。
俺も、レジーも朝食を食べ終わったが、未だオトフィは起きてこない。
と、そんなことを思っていた時、鳥が飛んできた。伝書を持っている。
「依頼だ。準備しろ。」
文書を読んだセッテはそう告げた。