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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第五章 伊勢惣奉行編

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第七十二話 それぞれの正しさ

秀政が桑名に戻ってから、

さらにひと月が経とうとしていた。


松親たちの政策は功を奏し、

桑名湊や街道の整備は金を動かした。

年貢の見直しは、村に人を戻し、

新たな開墾が公的支援で行われ、

百姓にも明るい未来が見えた。


北勢は富み始めた。


金が動く。

その富は当然桑名を潤すと、

同時に長島を潤した。


あと半年もすると、この効果はもっと現れる。

そして、長島に流れる富も……。



桑名城二の丸。

伊勢惣奉行の本庁。

松親と政策議論をしているところへ、

滝川一益が現れた


「これは左近殿」


秀政が立ち上がり、上座へと誘おうとする。


だが、滝川は動かず、淡々と言葉を繋いだ。


「芋粥備前殿、話がある。

 立ち話で良い」


「わしが村を焼いたことを、

 さぞ恨めしく思っておろう」


「いえ、それがしの考えも甘かったです。

 自警団……伊勢で百姓に武器を持たせれば、

 それは長島に流れる。


 愚策でした」


「……分かってもらえているなら良い。

 わしとて好んで民を焼いてはおらぬ」


「はい、承知しております」


「今、備前殿は伊勢を富まそうとしておるそうだな。

 実に、その効果も見え始めているとも聞く。


 だがな、その富は長島に流れるぞ。

 そして、武具や米に変わり、

 それが織田の兵を殺す」


一益の声は低く、

しかし怒りではなく“信念”があった。


「また焼くおつもりで?」


「状況によっては致し方ない」


「しばしお待ちいただきたい。

 富は長島に流れても、

 それが軍備に回らぬ策を考えます。


 それならば問題はありますまい」


「問題はない。だが時間がかかりすぎる。

 わしは待たん。

 備前殿が何と言われようと、

 長島の強化につながると判断したら村を焼く」


「……。

 伊勢惣奉行として、そうはさせませぬ」


「民を守りたい気持ちは分かる。

 だが、一揆は力攻めで早急に対応する方が、

 結果的に民のためになるのだ」


「力攻めは犠牲が出ます。

 長島は地の利がある。

 焦れば焦るほど、こちらが消耗する」


二人の視線がぶつかる。

互いに相手を貶める気はない。

だが、譲れない“正しさ”があった。


滝川が、ふと目を反らして呟いた。


「同じ織田家中。

 いがみ合いたくはないですな」


「えぇ。」


そこまで言うと、

滝川一益は黙って、

二の丸から立ち去った。


沈黙が落ちる。

その空気を破ったのは――

松親だった。


「お二人とも、正しいのです」


秀政が松親を見る。

松親は静かに続けた。


「富ませることは必要。

 しかし、滝川様の懸念ももっとも。

 ならば――富が長島に流れるのは、

 むしろ“是”とすべきです」


秀政が目を細める。


「……どういう意味だ?」


松親は微笑んだ。


「富が流れるのは構いません。

 ただし、それを“軍備に変えさせなければよい”。

 長島の商人に、桑名の利権を与えます」


「利権を……長島に?」


「はい。

 長島の商家には桑名に利権を与えて、

 本場を桑名に移させます。


 そして千種屋にも命じて、

 それらの長島商家の名義をそのままにして、

 預かり店とさせます。」


「どういう意味だ?」


「要するに、名義だけの抱き込みです。

 長島は江場屋と又木屋、松陰屋が、

 主な出入り商家です。

 それぞれに桑名の利権を与えて、

 長島を手放して良いと思わせます。


 そして、屋号の使用権を千種屋に買わせるのです。

 千種江場屋、千種又木屋、千種松陰屋を

 新たに支店として作ります。


 長島に出入りする際は、

 元の名を名乗ります。


 担当の商人は変わりますが、

 長島としては、まさか商家が、

 千種屋に変わっているとは気づきますまい」


「な、なるほど……

 そうして長島の御用商人を織田が押さえる訳だな?」


「左様。そして――」


松親は指を一本立てた。


「米は屑米。

 武器は理由をつけて流さない。

 だが、贅沢品は惜しみなく回す」


「贅沢品……?」


「調度品、化粧、反物、宝飾の他、菓子、酒、魚介と

 いった籠城に向かぬ“足の速い食”を中心に。


 肝心の武具は買えず、金が余る。

 長島の男たちは、女を喜ばせるために金を使う。

 軍備に回す余裕はなくなる」


秀政は思わず笑った。


「……お前、本当に黒いな」


松親は軽く頭を下げた。


「褒め言葉として受け取ります」


「……悪くない。

 周りを富ませつつも、長島は富ませない。

 その間に弱者層の信者を引き離す」


秀政がにやりと笑った。


「上出来だ。

 俺の“富ませて引き剥がす”と、

 一益殿の“軍備を削ぐ”が両立するわけか」


松親は静かに微笑んだ。


「はい。

 お二人の正しさを、両方とも活かす策です」


「この策を滝川殿に提言して参ろう。

 これで時間を稼げるはずだ。


 滝川殿とて、

 今すぐ力攻めすることは、

 考えておらぬはずだ。

 我らが勢力を引き剥がし、

 滝川殿は滝川殿で軍備を整える。


 これが現時点で採れる最善よ」


「はい、我らは、伊勢を富ます策を継続します」


「頼むぞ」



この後、滝川は積極的な村焼きを控えた。


長島周辺での小規模衝突は頻発したが、

これは第一次長島一揆の継続戦とみなされる、

局地戦に過ぎない。


その間に伊勢の復興は進行し、

長島の弱体化は継続して行われた。



一方、秀吉は。


元亀元年六月。


姉川の戦いで左翼を担当し、

さらに武功を重ねた。


そして、近江攻略の主軍として、

浅井攻めを執り行おうとしていた。



そして元亀二年。


秀政の富国政策の効果が見え始める頃。


ある時、ほんの些細な出来事で、

過剰な富配分と結託を取り締まる滝川軍は、

一向宗門徒と衝突を起こした。


それは国衆や寺を巻き込んで、

門徒に多数の死者を出した。


結果、北伊勢の国衆が動揺し、

門徒側に流れ、

員弁郡、朝明郡、桑名郡の一向宗寺院が、

次々と長島に合流した。


秀政の努力空しく、

歴史は歪むことなく、

時代の流れという、

それよりも強い力によって、

第二次長島一向一揆に向けて――

突き進んでいった。

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― 新着の感想 ―
うーんめんどくさいやなあ。中洲に疫病大作戦とか?忍者軍団の出番やなあ
投稿ありがとうございます。 もうすぐ開く地獄の釜ですが前回述べた尾張ルートからの連枝救出ルートは考慮しても良いかもです。 贅沢品を流して経済力を削ぐ案は初期からやれば効果が絶大だっただけに惜しくは…
戦略の主人公と戦術の滝川一益、場面を俯瞰で常に見れるのは主人公の強みだが、織田家だと信長ぐらいしか理解出来ないでしょ国主の目線は、
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