第四十九話 新たな仲間
芋粥秀政。
滝川一益。
この二人を軸とした伊勢北勢四十八家の攻略は、
激しい戦いの末、大戦果を収めた。
その手法は、
伊勢の国人たちに深く刻み込まれた。
結果として――
伊勢国司・北畠家は、
急速に孤立を深めていくことになる。
*
その間隙を突くように、
伊勢方面総大将・滝川左近一益は動いた。
第二次伊勢侵攻。
迅速、かつ容赦のない進軍だった。
北畠家の支城――
阿坂城。
田丸城。
木造城。
いずれも、
国司の威信を支える重要拠点である。
だが、
一益は戦と調略を巧みに使い分け、
これらを次々と落としていった。
城は落ち、
道は断たれ、
援軍も届かぬ。
北畠家は、
名門公家大名としての体面を保ったまま、
徐々に首を絞められていく。
伊勢制圧は、
もはや時間の問題となっていた。
*
そして――
永禄十一年
その「総仕上げ」の時が、近づく。
秀政のもとにも、
一通の文が届いた。
差出人は、岐阜。
織田信長。
文面は簡潔だった。
第三次伊勢侵攻。
出陣の指示だった。
今回の遠征は、
これまでとは規模が違った。
信長自らが総大将を務め、
動員兵力は――五万。
一大遠征である。
対する伊勢国司・北畠家は、
朝廷とも縁の深い公家大名。
兵にして七千。
だが、その威信は、
単なる一国衆とは比べものにならない。
国司でありながら、
その軍権は守護ともいえ、
実態は戦国大名ともいえる。
伊勢に根付く力は大きい。
だからこそ――
信長は、
曖昧な勝利を選ばなかった。
力を示し、
圧倒し、
徹底的に屈服させる。
この遠征に懸ける信長の本気度は、
誰の目にも明らかだった。
*
秀政に与えられた役目も、
また特別だった。
軍奉行、参謀としての参加だ。
しかも、
信長直属の工兵隊としての出陣である。
兵力、那古野勢二千。
任務は明確だった。
街道整備。
陣地構築。
橋梁設営。
兵站線の維持。
五万の大軍を動かすには、
戦よりも先に、道と飯が要る。
秀政は、
その“血脈”を担う存在として選ばれた。
(……なるほどな)
文を読み終え、
秀政は静かに息を吐いた。
(武で名を売れ、とは言わぬ。
だが――外せば、すべてが止まる役目だ)
これは、
信長なりの試し。
そして、
期待でもあった。
*
なお――
この第三次伊勢侵攻では、
他の将にも明確な役割が与えられている。
伊勢方面総軍事責任者、滝川左近一益は、調略担当。
国人、僧、旧臣。
あらゆる“揺らぎ”を抱え込ませ、
戦わずして崩す役目だ。
そして――
羽柴秀吉。
兵千五百を率い、
別動隊として支城攻略に当たる。
前に出る者。
裏を抑える者。
道を通す者。
すべてが噛み合ってこそ、
五万は動く。
(……大きな戦になる)
秀政は、
文を畳み、立ち上がった。
(伊勢は、もう一段深く――
そして、もっと厄介になる)
第三次伊勢侵攻。
それは、
単なる国取りではない。
織田信長が、
「天下」を見据えて踏み込む、
大遠征だった。
そして――
芋粥秀政もまた、
その渦中へと、
確実に引きずり込まれていく。
*
初夏。
伊勢へ向けて軍勢が動き出す、その少し前。
芋粥家にもまた、一つの節目が訪れていた。
丹羽五郎左衛門長秀の庶子。
幼名・万丸。
後に――
芋粥長政と名乗ることになる少年が、
正式に芋粥家へと婿入りしたのである。
数えで、万丸は八つ。
お明は、五つ。
婚姻というより、
将来を定めるための、
先行しての顔合わせだった。
*
那古野の屋敷。
門をくぐった万丸は、
きょろきょろと周囲を見回していた。
広い。
人が多い。
そして――
空気が、寺とも丹羽の屋敷とは違う。
武家ではある。
だが、どこか落ち着いている。
「……ここが、芋粥家」
小さく呟いた声は、
すぐ後ろに控える男に聞き取られていた。
「万丸様。前を向きなされ」
低く、硬い声。
守役――
井口甚右衛門長実。
年の頃は三十六。
槍を得物とする、実直一辺倒の武人だ。
丹羽家譜代の中間層。
派手さはないが、
戦場では信頼を置かれる男だった。
「はい……」
万丸は、背筋を伸ばす。
井口は厳しい。
だが――
その視線は、常に万丸の背を追っている。
(この子を守るのが、俺の役目だ)
口には出さぬが、
それが井口の覚悟と優しさだった。
*
万丸の後ろには、
さらに二人の少年が控えている。
小姓――
竹内小四郎秀明。
数え十四。
快活で、よく笑う。
丹羽五郎左より〝秀”の字を頂くほど
将来を期待されている若者の一人だ。
いずれ、芋粥長政の側近となるよう付けられた。
「なぁ万丸。
那古野って、思ったより静かだな!」
兄貴分のように、
気安く声を掛ける。
礼法、読み書きは達者。
その一方で、
武芸はからきし、という評判だ。
だが――
人の懐に入るのが、うまい。
「……そ、そうだね」
万丸が小さく頷く。
その後ろ、
少し離れて控えるのが――
近習、佐治兵九郎政勝。
数え十五。
無口。
だが、背には弓。
鍛え上げられた体。
指には、弦だこの跡。
武芸は得意で、
とくに弓に関しては、年齢以上の腕前を持つ。
三人は、
これから芋粥家で共に育つことになる。
*
同じ頃。
那古野城内では、
別の意味での「節目」が訪れていた。
信長からの出陣命令を受け、
急遽、軍議が開かれることになったのだ。
場所は、奥の間。
そこに集ったのは――
芋粥家の中核を成す面々だった。
千種政成。
お悠。
浅野清隆。
村瀬兼良。
そして――
新たに加わった、井口長実。
一歩下がって控える。
だが、
その存在感は、すでに軽くはなかった。
秀政は、
座したまま、一同を見渡す。
(……増えたな)
兵だけではない。
家臣。
責任。
背負うもの。
那古野城代。
四千の軍権。
そして今回は――
信長直属の軍奉行。
(家も役割も、大きくなった)
嬉しさよりも、
重みが先に来る。
秀政は、一つ息を吐き、口を開いた。
「――皆、集まってくれて感謝する」
静かな声だった。
上座に座るお悠に、井口が違和感を感じる。
それを感じ取った秀政がすぐに井口に語り掛けた。
「井口殿、今後とも芋粥家のために、
よろしく頼むぞ」
「はは!お任せください」
「どうした?お悠の事が気になるか?」
「奥方様のことですか?
別に気になりませぬが」
(嘘をつけ)
「お悠は我が奥としてここにいるのではない。
芋粥家二番家老はこのお悠だ」
井口が驚いた顔をする。
「我が家では女子であろうとも、
優れた者は取り立てる。
お悠は手前味噌ではあるが、
芋粥家の芯を支える重臣だ」
「や、弥八様……お戯れを」
「は!心得ました」
井口がすぐに平伏して頭を下げる。
元々芋粥家は先進性のある変わった家だとでも、
聞いていたのだろう。
この辺りは、頭の柔軟性がありそうだ。
秀政は少しだけ安心した。
真剣な顔に戻って、言葉をつづけた。
「此度、信長様直々の命により、
第三次伊勢侵攻に出陣する」
一同の空気が、引き締まる。
「役目は明確だ。
芋粥は戦ではなく――
兵站と工作だ」
村瀬が、わずかに眉を動かす。
「道と飯。
それを切らすな」
千種が、静かに頷いた。
「五万を動かす血脈は、
我らが担う。
此度は我が右腕として、
政成を副将に連れて行く」
「はい」
「政成、清隆を副将とし、
村瀬と忍びどもも、連れて行く」
秀政は、
井口の方へ、視線を向ける。
「井口殿。
芋粥家としての初陣になる――
と言いたいが、此度は留守を頼む。
こちらに来たばかりの万丸を、
一人にはしておけん」
「は!」
「城代の代理はお悠だ。
内政を止めるな!」
「はい!」
「那古屋の軍事は井口に一任する!
兵を鍛えつつ、お悠を支えてくれ」
井口は、一歩進み、膝をついた。
「は。
不束者ではございますが、
命を賭して任を果たします」
融通は利かぬ。
だが、誓いに偽りはない。
秀政は、小さく頷いた。
「よい」
家は、
こうして人を増やし、
責を増やし、
戦へ向かう。
伊勢は、
もう一段、深くなる。
そして芋粥秀政は――
戦場だけでなく、
「家」を率いる将として、
さらに一歩、前へ踏み出していた。
【あとがき】
能力値査定企画。
三章の活躍を踏まえて、
四章開始の能力値で更新しました。
ChatGPTの主観です。
高すぎる、低すぎるなどのご意見があればどうぞ。
●芋粥秀政 ―― 那古野城代(譜代足軽大将格)・軍奉行
統率:68 → 78(+10)
武力:30 → 32(+2)
政治:76 → 84(+8)
知略:82 → 90(+8)
総合:256 → 284
――
統率:78
評価理由
・五百 → 二千 → 四千規模の「実働統率」を経験
・伊勢北勢48家を「戦わずに崩す」指揮判断
・実際の局地戦で奇跡の戦果を挙げる
・兵站・工兵隊という“全軍停止リスク部門”を任される
もはや「小~中規模止まり」ではない。
“戦場にいないのに全体が動く将”として評価上昇。
※ただし
まだ五万を直接殴り合いで動かしたわけではない
→ 80台後半は次章以降
武力:32
評価理由
・村瀬の“鬼備前演出”が風評として乗った
(“鬼備前”風評補正 +30で対外的には62扱い)
※噂による何割か増しの追加補正あり
・前線での最低限の立ち回り経験あり
本人は弱いが、
「舐められない」数値にはなったという扱い。
※ここはほぼ上がらなくて正解です
(この作品の美点)
政治:84
評価理由
・兵糧小屋制度の制度化(平時運用前提)
郷単位の備蓄・融通という長期政策
・城代としての留守政務体制確立
・お悠を二番家老として公式化
「改革案を出す人」から
「制度を回す人」へ昇格
※これは第三章最大の伸びポイント
知略:90
評価理由
・恐怖(鬼備前)を自覚的に利用する段階へ
・心理戦によって、敵を完全に翻弄。
“備え九分にして刃一分”
ただし、敵の知略が低かったため、今孔明には遠い
・戦わず落とす → 首を取らず縛る → 風評拡散
・自分が矢面に立たず、人を立てる判断
・信長・一益・秀吉との役割分担を理解
もはや「試行段階」ではない。
完成途中の策士
※90超えは「歴史的天才」領域なので、
そこに一歩踏み入れたところで止める
●芋粥悠(お悠) ―― 芋粥家 二番家老・城代代理
統率:55 → 65(+10)
武力:20 → 20(±0)
政治:70 → 82(+12)
知略:60 → 72(+12)
総合:205 → 239
――
統率:65
評価理由
・城代代理として家中を預かる立場に
井口・政成ら新旧家臣をまとめる存在
・秀政不在時の「止血役」
・指揮官ではないが
“家を止めない統率”を評価
政治:82
評価理由
・勘定奉行 → 家老クラスへ昇格
・兵站制度の実務責任者
・内政・軍事の接合点に立つ存在
完全に「内政官僚トップ」
知略:72
評価理由
・「鬼備前を使え」という視点の転換
名と実のズレを“武器”にする助言
・秀政の弱点を補う形での戦略補助
策士ではないが、
戦略的助言者として一段上
●千種政成 ―― 愛知郡郡代・芋粥家 筆頭家老・兵站責任者
統率:65 → 68(+3)
武力:25 → 25(±0)
政治:78 → 85(+7)
知略:68 → 74(+6)
総合:236 → 252
――
政治:85
評価理由
・兵糧制度の実装責任者
・商人ネットワークを「国家制度」に接続
・単なる大旦那から“官僚長”へ
知略:74
評価理由
・秀政の構想を現実に落とし込む能力
・商人としての読みが軍事に転用され始めた
奇策は出さないが、
国家運営の知恵袋
●浅野清隆 ―― 芋粥家 侍大将・前線指揮官
統率:72 → 78(+6)
武力:68 → 70(+2)
政治:55 → 55(±0)
知略:64 → 66(+2)
総合:259 → 269
統率:78
評価理由
・五倍差の渡河防衛を成立させた
・波状攻撃対応・交代制運用
・部下の生存率を最優先した判断
“実戦指揮官”として一皮むけた
●村瀬新九郎 ―― 兵法指南役・象徴的猛将
統率:60 → 62(+2)
武力:85 → 88(+3)
政治:35 → 35(±0)
知略:50 → 52(+2)
総合:230 → 237
――
武力:88
評価理由
・戦場での鬼神的活躍
・風評そのものが戦力化
・敵の士気を折る“存在”
芋粥家の恐怖の象徴
総評
第二章では「構想を描く者」だった芋粥秀政は、
第三章で「人と制度を動かす者」へと変わった。
武力は伸びない。
だが、統率と政治、そして知略は確実に積み上がっている。
鬼備前という異名は、偶然生まれた。
だが、それを“使う”と決めたのは、秀政自身である。
織田家という優秀な人材が揃う中でも、
十分に活躍する姿が想像できる。




