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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第三章 城代編(足軽大将格)

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第四十八話 国の血脈

伊勢戦から戻り、数日が過ぎた。


那古野城内は、勝利の余韻よりも、

静かな疲労に包まれていた。


怪我を負った兵。

槍を修繕する鍛冶。

兵糧を数え直す足軽頭。


戦が終わっても、

国は止まらない。



秀政は、広げた地図と帳面を前に、

じっと考え込んでいた。


(……勝てた理由は何だ)


奇策。

誤報。

士気。


どれも正しい。


だが――

それらが成り立った前提がある。


(腹が、減っていなかった)


芋粥隊は、走れた。

突撃できた。

思考が鈍らなかった。


敵は違った。


休めず、

食えず、

判断力を失っていた。


(兵站……

 それは、国そのものだ)


血が巡らねば、

手足は動かず、

頭も回らぬ。


(兵站こそ、国の血脈だ)


伊勢で得たこの実感は、

消えなかった。



その日の夕刻。


秀政は政成を呼び、

奥の間で政談を開いた。


兵站・商務を一手に担う男。


義父ではあるが、

この場では家臣だ。


政成は一礼し、

一歩下がって控えた。


「義父殿」


「は」


「伊勢の戦を経て、

 兵の腹がどれほど物を言うか、

 骨身に染みた」


政成は黙って頷く。


「兵糧は、戦のたびに集めるから乱れる。

 此度は良かったが、

 次は飯が少ない状況で、

 戦わねばならんかもしれん」


秀政は、帳面を指で叩いた。


「ならば――

 平時から集める為の“型”を作る」


政成の目が、わずかに鋭くなる。


「村ごとに、兵糧小屋を設けよ。

 専用の小屋だ。年貢蔵とは分ける。

 中に収める物も決める」


秀政は、淡々と告げる。


「乾飯、干し魚、味噌、塩。

 量と比率を定め、

 どの村でも同じ“形”にする」


政成は、自然と帳面を取り出していた。


「年に一度、検査を入れる。

 溜め込む癖を付けさせよ。

 さすれば、戦の際の徴収が

 安定する」


政成は、しばし考え込んだ後、

静かに口を開いた。


「……地味な策でございますな」


「分かっておる」


秀政は即答した。


「だが、効く」


政成は、小さく息を吐く。


「戦時の徴発は、

 取り決め通りに進みましょう。

 村の負担も、

 年ごとに均されます。

 兵糧の質も、

 ばらつきがなくなる」


そして、はっきりと言った。


「十年先を見れば、

 国が太くなります」


秀政は、ゆっくりと頷いた。


「それでよい。

 それにな、勘違いするな。

 これは侍の為だけではないぞ」


「と、申されますと?」


「不作の村からは取らぬ」


秀政は、はっきりと言った。


「兵糧は“余り”を集めるものであって、

 “命”を奪うものではない」


一拍置く。


「基本はこうだ」


秀政は指を折りながら説明する。


「豊作――多めに入れる」


「平年――規定量」


「不作――免除」


「柔軟運用だ」


政成は、微笑みながら確認する。


「……徴発ではなく、

 備蓄の“参加”でございますな」


「そうだ」


秀政は頷く。


「村を疲れさせたら、

 次の年は何も残らん」


さらに続ける。


「もう一つ!


 兵糧は“村単位”では回さぬ」


政成が顔を上げる。


「“郷”で回す。


 甲村が不作。

 乙村、丙村が豊作。


 それならば、

 乙と丙の兵糧小屋から甲へ回す」


「ほぉ」


「凶作の年、

 飢え死ぬくらいなら、

 その備蓄を百姓が食ってもよい。

 その代わりに豊作時は余分に貰う」


政成は、思わず小さく息を吐いた。


「……それは、百姓にとって

 “守り”になりますな」


「そうだ」


秀政は静かに言った。


「兵糧小屋は、

 戦のためだけの物ではない」


ゆっくりと息を吸う。


「村が生き延びるための、

 最後の綱だ」


政成は深く一礼した。


「承知いたしました。

 芋粥家の兵站は、

 搾るものではなく、

 回すものとして整えます」


秀政は小さく笑った。


(派手さはない。

 だが、こういう事が、

 最後に国を残す)


政成は一礼する。


「頼む」


政成は顔を上げ、

ほんの一瞬だけ、商人の顔で笑った。


「地味ですが……

 勝ち続ける家は、

 こういう所が違います」


秀政は、ふっと笑った。



その時。


奥の間の外で、

足音が止まった。


「殿。

 岐阜の信長様より、文が届いております」


差し出された文を受け取り、

秀政は何気なく宛名を見る。


――そこに書かれていた文字を見て、

思わず吹き出した。


「……鬼備前殿、だとさ」


政成が一瞬、目を丸くする。


「これは……」


「悪戯心が過ぎるな」


秀政は苦笑しながら立ち上がった。


(完全に定着したな。

 謀玄はどこへ行った)


だが、文面は短い。


即刻参上せよ。


「政成、続きは任せる」


「は」


秀政は羽織を掴み、

足早に部屋を出た。


(さて――。

 次は、どんな無茶を振られる)


鬼備前秀政は信長の元へと急いだ。



岐阜城。


広間の端に、

秀政は正座して待っていた。

畳の冷たさが、

膝裏からじわりと伝わる。


(……待たされる、か)


呼び出しを受けてから、

すでにしばらく経つ。

この沈黙自体が、

試しであることは分かっていた。


そのとき、足音。


振り向く間もなく、

丹羽五郎左長秀が現れ、

何も言わずに秀政の隣へ腰を下ろした。


言葉はない。

視線も交わさぬ。


ただ、同じ方向を向いて、待つ。


(……なるほどな)


嫌な予感と、妙な納得が、同時に胸をよぎった。



やがて、小姓の声が響く。


「――お館様、御入室!」


空気が一段、張りつめる。


織田信長が入ってきた。

どかり、

と音を立てて上座に腰を下ろす。


間を置かず、一言。


「二人とも、面をあげよ」


ゆっくりと、顔を上げる。


信長は、秀政の顔を一瞥すると、

口元を歪めて笑った。


「少し見ぬ間に、

 雄々しくなったな――鬼備前」


一瞬、空気が止まる。


秀政は、即座に応じた。


「は!

 常に鍛錬は怠らぬゆえ」


(ノリに流されるしかないな、これは)


信長は、満足そうに頷く。


「芋。

 お前に、備前守を与える」


「――は!」


秀政は、深く頭を下げた。


「ありがたき幸せにございます」


(信長に備前守の任命権などない。

 ……まあ、僭称だ。

 あだ名の更新だ。

 だが“許された僭称”は、

 ただの冗談ではない)


戦国の常。

格上げの合図であり、

縛りの印でもある。


だが――


「今日、呼んだのは、

 それだけではない」


信長の声が低くなる。


(来たな)


「此度の伊勢攻め……

 ようやった」


「は!

 勿体なきお言葉、

 ありがたき幸せにございます」


「子細を述べよ」


「は!

 丹羽殿のご報告にございました通り――」


そこまで言いかけて、

秀政は言葉を切った。


信長の額に、

青筋が浮かんだからだ。


(……もう、調べ尽くしている。

 下手な数字合わせは、命取りだ)


「ではなく、

 ――正直に申し上げます」


そこから秀政は、包み隠さず語った。


布陣。

欺瞞。

霧隼の働き。

与太の叫び。

村瀬の暴走。


敵の動き。

自分の迷い。

判断の根拠。


途中、信長が何度か問いを挟む。


「なぜ、そこで退かぬ」

「なぜ、そこを突かせた」

「なぜ、首を取らせなかった」


そのすべてに、秀政は即答した。


言い訳はしない。

飾らない。


沈黙の後。


信長が、ふっと鼻で笑った。


「……思うておったより、

 上手ぁやったようだな」


場の空気が、わずかに緩む。


「その上、鬼備前、か。

 村瀬とやらも、

 お前の差し金か?」


「いえ。

 そればかりは、

 予想外にございました」


秀政は、苦笑して続ける。


「それがしは本来、

“謀玄”と広まってほしゅうございましたので」


信長が声を立てて笑う。


「ははは!

 欲張りな男よ」


秀政は、お悠の言葉――

異名を“使え”と言われたことも、

包み隠さず伝えた。


「お悠、か」


信長は興味深そうに頷く。


「女子にしておくには、惜しいな。

 お前の言う通り――

 千兵の価値があった」


「まことに」


「ところで、

 侍大将にしてやりたいところだが、

 公にはお前の功は少ない。

 さらに励め」


(秀吉との功争いの関係で、

 どんなに功を貯めても昇格は同時だ)


「ははぁ!

 ご期待に沿うよう、尽くします」


信長は一つ、頷いた。


「――さて。

 今日、呼んだのは、他にも話がある」


秀政が、顔を上げる。


「五郎左。話せ」


「は」


丹羽五郎左が、柔らかく微笑んだ。


「実は殿にそれがしが無理を申しましてな。

 芋粥殿の家には、姫ばかりで、

 世継ぎがおらぬと聞いておりますが」


「……はい」


「それがしには、

 寺に入れておった倅がおりましてな」


淡々と語られる事情。


側室の子。

嫡男誕生と同時に寺に入れ、

そして先日還俗させた。


「今年で八つになります。

 芋粥殿のお明殿の婿に、

 如何かと思いましてな」


秀政の背筋が、ぴんと伸びる。


(……やはり、これか。

 丹羽殿はそう言うが、

 これは紛れもなく信長の意向だ)


「庶流ゆえ、

 差し上げても構いませぬ」


秀政は、慎重に言葉を選んだ。


「丹羽殿のご子息とは、

 これ以上なき縁。

 異存はございませぬ」


だが、続ける。


「ただ――

 お明は、まだ何も知らぬ子供。

 いきなり夫婦は、難しかろうかと」


丹羽は、待っていたとばかりに頷く。


「ゆえにこそ。

 もし、婿として貰ってくれるなら、

 今より、秀政殿の傍で学ばせたい」


「将の背中を見るのは、

 早い方がよろしかろう。

 芋粥には芋粥の家風がござろうしな。」


そこへ、信長が口を挟む。


「よい縁談よ」


二人を見回し、言い切った。


「五郎左の倅を婿とするなら、

 元服の暁には、

 俺の“長”の字をやろう」


「――長政と名乗らせるがよい」


(……こ、これは、断れなくなった……)


秀政は、深く頭を下げた。


「は。

 これほどの御配慮、

 異存などございませぬ」


「そうか!

 めでたい!」


信長は満足げに立ち上がる。


「後は、勝手にうまくやれ」


笑いながら、去っていった。

それでいて、

信長は心の内で呟いていた。


(政の男と思うておったが――

 将としても使えるやもしれん。


 ならば、

 この織田に縛っておくのがよい)


信長が部屋から出ようとしたところで、

ふと止まって振り返る。


「芋、

 お前は丹羽との縁組により、今日より譜代だ。

 侍大将にはしてやれぬが……


 譜代足軽大将格 那古野城代だ。

 海東郡、中島郡の常備兵、各千五百の軍権も、

 お前に返してやろう」


(な!?全部で四千!?

 それって中位の侍大将級じゃねーか!

 秀吉との出世競争があるからとはいえ……

 よほど無理臭い立ち位置だな。

 もう、面倒くさいな。


 今までの

 低位侍大将待遇 足軽大将格 那古野城 城代

 から

 中位侍大将待遇 譜代足軽大将格 備前守 那古野城 城代

 に格上げか)


「は!ありがたき幸せ!

 必ずやご期待に添いまする!」


岐阜城の空に、

新たな糸が結ばれた瞬間だった。

第三章 城代編(足軽大将格) 終幕


【あとがき】

最近のチャットAIは凄いですね。

もし、この登場人物がゲームに出る場合、あなたのイメージを教えてほしいとchatGPTに伝えてみました。


ちゃんとゲームに出てきそうです。

文字はまだAIは描けないのかもしれません。


いかがでしょうか?

これは一つのサンプルです。

あなたのイメージを大切にして下さい。


私はこの中なら、お明とお蘭がお気に入りです。

秀政は戦場から帰っても、この子らに癒されていることでしょう。


芋粥秀政

挿絵(By みてみん)


お悠

挿絵(By みてみん)


千種政成

挿絵(By みてみん)


浅野清隆

挿絵(By みてみん)


村瀬兼良

挿絵(By みてみん)


お明とお蘭

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
鬼備前ネタにのっかるお茶目な信長公w 家名の芋の字といい備前守といい、覚えて貰いやすい名前が複数あるのは何気においしいとこですね 功は足らずとも名と実はちゃんと積もってて、ふとした折に思い出して貰えそ…
丹羽さんと秀吉のその後を知ると芋と婿はどうするやら
2026/02/04 14:01 つぶらなかぼっしゅ
米さん自体が織田家の姫貰って重臣となってるので譜代でも格下、更に米さんの庶子を貰って譜代に引っ掛けた形なのでなるほど落とし所としては最良なのかなー
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