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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第三章 城代編(足軽大将格)

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第四十六話 首無き首実検

保々西城に芋粥隊も到着した。


ここで行われるのは、

首なき首実検という、

異例の軍評定であった。


城と言っても、

堀と土塁と簡易な柵がある、

ただの砦、防衛拠点に過ぎない。


建物と言っても物見台と小屋しかない。


その小屋の中に秀政は入っていった。


既に、


滝川左近一益、

丹羽五郎左長秀

佐久間久六盛次


この三名が揃っていた。


毛氈もうせんを敷いた床に、

陣座で使われる小机と椅子が置かれ、

朱印箱・地図・功名帳を並べられている。


一礼して、下座の席に座る。


「揃ったようじゃ」


一益が静かに軍評定を開始させる。


「皆ご苦労であった。

 此度の合戦は大勝利と言ってよく、

 伊勢衆は大きな被害を受けて撤退した。


 各城は残ってはいるが、敵にこれ以上、

 戦う余力は残ってはおるまい。」


そこまで言うと、

一益が諸将の顔色を伺う。


佐久間久六は、合戦前と比べて、

伏目がちに黙り込んでいる。


丹羽五郎左が、軍監、軍目付として

話を続ける。


「滝川左近殿。


 川手之戦、

 敵、百三討ち取り。

 味方、死者なし。


 分隊之戦、

 敵、二百十一討ち取り。

 味方、死者三十六」


滝川左近が表情一つ変えずにそれを聞いた。


「佐久間久六殿。


 分隊之戦、

 敵、百九討ち取り。

 味方、死者四十二」


佐久間久六は視線を伏せたまま、黙って聞いた。



「芋粥弥八郎殿。


 川手之戦、

 敵、およそ百九十三討ち取り、

 捕縛百十二。

 小向城城主 小向六郎 討ち取り。

 味方、死者なし」


佐久間久六が、

思わず顔を上げて割り込んだ。


「馬鹿な!

その数は何かの間違いであろう!」


丹羽五郎左はその割込みを無視して続ける。


「大手之戦、

 敵、およそ四百五十九討ち取り、

 捕縛百六十七。

 大手隊総大将 千種三郎左衛門 討ち取り。

 味方、死者三。」


「そんな馬鹿な数字があるか!」


佐久間久六が眉間に皺を寄せて、唾を飛ばしながら叫んだ。


「丹羽殿、数え間違いはないな!?」


「いや、実は芋粥殿は、

 首を全て討ち捨てたため、

 芋粥家の軍監がまとめた数字じゃ。」


「首がないだと!?

 そんな出まかせが通るなら、

 わしとて一千は討ち取ったわ!」


呆れた顔で滝川左近が口を開いた。


「いや、佐久間殿。

 首がないのは事実であるが、

 七百ほどの、

 首の繋がったままの屍を

 このわし自身が見ておる


 あながち出まかせとは言えん」


「し、しかし数は正しく測れまい!

 少なくとも大将首は、

 首なくして首実検ができるわけなかろう」


秀政が仕方なく口を開く。


「確かに……。

 小向と千草の功は数えなくても構いませぬ」


「雑兵の数とて、滝川殿が見間違えただけで

 二百程だったのではないか?!

 なんなら今からでも見に行くか?!」


滝川左近が一瞬だけ、

不愉快そうな顔をするが、

押し黙ったまま、口を開かない。


仕方なく秀政が答えた。


「今、見に行っても、侍分の亡骸は、

 既に家の者によって運び出されているに

 違いない。

 残っているのは雑兵の亡骸くらいでしょうね。


 功名帖に書くのは二百として、

 残りは行方不明でよぉござる。

 俺はそれで構いませぬ」


丹羽五郎左が気の毒そうな顔をして、

念のため秀政に確認する。


「本当に、それでよろしいので?」


「首なしなのは確か。

 それで首実検が成立しないのも確か」


その一言を受けて佐久間久六が勢いを取り戻した。


「そうじゃ、そうじゃ!

 五倍の敵と戦うて、

 こちらの死者がないまま、

 二百を討ち取ることさえ絵空事よ!

 七百は馬鹿にしすぎじゃ!」


それを受けて、丹羽五郎左が、

残念そうな表情を作って呟いた。


「功名帖には二百と記載し、

 あとは不明と書けば良いのじゃな?


 実際は、これほどの大戦果を挙げておきながら

 この功名帖では、我らは殿に、

 不甲斐なし――

 と思われましょうな」


佐久間久六が言葉を詰まらせる。


「あ……いや、その……」


秀政が嫌味を込めて佐久間久六に告げた。


「それでしたら、俺の首なし功は、

 全て佐久間殿の所に計上してください」


さすがにそれには佐久間久六も焦りながら答える。


「ま、待て。

 わしを見くびるな。

 他人の功を奪うわけには参らぬ!


 そ、そうじゃ。

 こうしてはどうじゃ?


 不明な功は、

 全軍を采配した滝川殿の功として

 計上してはどうじゃ?」


再び滝川左近が不愉快そうな顔を一瞬だけ見せて、

内心で呟いた。


(見くびっておるのは、佐久間殿の方ではないか。

 わしとて、他人の功など要らぬわ!


 しかし、この場を収める方便としては、

 これが一番か……。


 殿にだけは――

 必ず真実を伝えておかねばならんな)


無表情に平然とした態度で、

滝川左近がこの場を制した。


「もう十分じゃ、それで構わぬ。

 丹羽殿、適当に処置しておいてくださらぬか?」


丹羽五郎左も一瞬困った顔をしたが、

すぐにいつもの表情に戻った。


「承知した」


ばつが悪そうな顔をした佐久間久六は、

そのまま黙り込んだ。


「では、次の話じゃ。

 先の戦で勝利したとはいえ、

 伊勢衆は未だに各砦に立てこもっておる。


 これらの砦は各々、分散して落としてもらいたい」


滝川左近の言葉を受けて、

軍奉行の佐久間久六が、

地図上の拠点に、大きな括りを付け、

各将に分担した。



「明日以降、各々頼みましたぞ!」


「「は!」」


そうして、各将は小屋から退出していった。


(案の定、功は認められなかったか……。


 まぁ、良い。命を拾えた。

 それに俺自身も采配の訓練になった。


 兵も戦に慣れた。


 今後尾張衆は荒れるはずだ。

 一向一揆に武田。

 考えるだけでも憂鬱だ。

 それを考えれば……。


 この戦いは勲功以上に有意義だった)


「さっさと城を落として、尾張に帰ろう」


秀政は胸を張って、

清隆が待つ芋粥隊に向けて歩き出した。

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― 新着の感想 ―
北伊勢の戦に参加してるのは久六、すなわち佐久間盛次だよね〜 将来放逐されるのは、佐久間信盛だと思ったんだけど?確か佐久間盛次は、討死してその息子が柴田勝家の部将になった鬼玄蕃佐久間盛政じゃなかったかな…
こうゆう話って必ず露呈するからなぁ 人の口には戸は立てられぬって言葉があるくらいだし遅かれ早かれ佐久間家の評判落とすぞ
・ま、待て。  わしを見くびるな。  他人の功を奪うわけには参らぬ!」 目撃者いるのもあるだろうが、以外にもそこまで腐っては無かったか……
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