表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第三章 城代編(足軽大将格)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/54

第四十五話 戦後処理

戦場を、鋭い眼光で見渡す一人の将がいた。


滝川左近一益。


倒れ伏す兵。

座り込む兵。

縛られ、震える投降者。


そして――

川を赤く染めた血の跡。


馬上から、一益は短く息を吐き、

よく通る声で叫んだ。


「――ここの将は誰だ?」


その声に、周囲の兵が一斉に背筋を伸ばす。


一瞬の間。


「は!」


疲労で重くなった体に鞭を打ち、

一人の武将が立ち上がった。


「芋粥家侍大将

 浅野清隆、ここに!」


甲冑は血と泥にまみれ、

顔には疲労が色濃く残っている。


だが――

目だけは、まだ戦場を見据えていた。


一益は馬を進め、

清隆の前で止まる。


上から、じっと見下ろした。


そして――


「あっぱれ!」


一言だった。


だが、その一言には、

戦場全体を肯定する重みがあった。


「兵百を預ける」


清隆が顔を上げる。


「それらを使い、降った者どもを縛り上げよ。

 芋粥殿の本隊と合流されるがよろしい」


一益は視線を川向こうへ向けた。


「我らは、これより佐久間殿の救援に向かう」


清隆は、即座に膝を折る。


「は!」


一益は続けた。


「芋粥殿に伝えよ」


その声音が、わずかに柔らぐ。


「ゆるりと休まれよ、と。


 佐久間殿は――

 それがしが、何とかする」


「……承知仕りました!」


清隆が顔を上げた時、

すでに一益は腕を振り、

部隊へ指示を飛ばしていた。


滝川隊は、

まるで戦が終わっていないかのような速さで、

駆け出していく。


その背を見送りながら、

清隆は兵たちへ声を張り上げた。


「聞いた通りだ!


 降った者どもを縛り上げ、

 いち早く殿と合流するぞ!


 休むのは、そこでだ!

 もうひと踏ん張りぞ!」


「おぉう!!」


疲労の中にあっても、

声には、確かな芯があった。



一方――


秀政たちが清隆のもとへ向かおうとした、その時。


一騎の早馬が、砂塵を上げて駆け込んできた。


「秀政様はいずこに!?」


「ここじゃ!」


秀政が声を上げると、

早馬は慌てて馬を寄せる。


「馬上にて失礼いたす!

 総大将よりの伝言にござる!」


息を整える暇もなく、続けた。


「川手では、

 滝川勢の挟撃により――

 敵、壊滅!」


秀政の目が、見開かれる。


「浅野殿率いる芋粥隊、勝利!

 現在、この地に向けて移動中!」


「……おぉ」


秀政は、思わず声を漏らした。


「清隆は……やったか!」


伝令は続ける。


「なお、滝川勢はこのまま、

 佐久間殿の救援に向かう。


 ただし――」


一拍。


「芋粥隊は、ここにて待機せよ。


 ご苦労であった。

 以上!」


それだけ告げると、

早馬は踵を返し、再び走り去った。


「……ふぅ」


秀政は、深く息を吐いた。


「滝川殿は、話が分かる。


 俺たちはもう――

 限界だ」


そして、声を張り上げる。


「よし!皆の衆!


 飯だ!!

 飯を炊け!


 清隆の分も――

 たらふく炊け!!」


もう一段、声を張り上げる。


「今日は、腹いっぱい食っていいぞ!!」


「おおぉぉ!!」


戦場に、

久しぶりの笑いと安堵が広がった。



やがて――

清隆の隊が合流する。


「殿!」


清隆は、疲れ切った顔で、

だが誇らしげに叫んだ。


「やりましたな!」


「あぁ!」


秀政は笑い、肩を叩く。


「お前もご苦労だった!」


視線を後ろに続く兵たちに向ける。


「清隆の隊も、飯を食え!

 今日は――

 たらふく食っていいぞ!」


「おぉ!」


だが、秀政はすぐに表情を引き締めた。


「清隆、

 戦況を聞かせよ。

 被害はいかほどだ?」


「はい――」


清隆が答えようとした、その時。


「……いや、待て」


秀政は、村瀬を呼んだ。


「村瀬。

 一つ頼まれてくれ」


「はい、なんでしょう」


「降った伊勢衆を――

 放してやれ」


村瀬が、目を細める。


「よろしいので?」


「あぁ」


秀政は、淡々と答えた。


「奴らは、この芋粥の強さを、

 骨身に染みて知った。


 そういう奴らは、

 巣に戻れば――

 恐怖を撒き散らす。


 生きた噂ほど、

 後の戦に効くものはない」


村瀬が、ゆっくり頷く。


「なるほど……。

 戦わずして降る城も、

 出ましょうな」


「その通りだ」


「だが――」


秀政は、指を一本立てる。


「刀は奪っておけ。

 それと、握り飯をくれてやれ。


 道中、狼藉を働かれても困る。

 城まで――

 無事に戻ってもらわねばならん」


「は!」


村瀬は走り出した。



「……すまんな、清隆」


秀政は視線を戻す。


「話の続きだ」


「はい」


「死人は――」


清隆は、少しだけ言葉を選び、

静かに答えた。


「……出ておりませぬ。

 皆、大怪我はしておりますがな」


秀政の目が、細くなる。


「……死人が、なし?」


「あの状況でか?」


(浅野清隆……

 思ったより、逸材かもしれんな)



一方――


投降者の元へ向かう村瀬は、

心の中で呟いていた。


(恐怖が骨身に……か。

 なら、もう一押ししておくか)


村瀬が現れた瞬間、

大手勢の一人が、顔を青ざめさせて叫ぶ。


「お、お、お……鬼備前!?」


川手勢の者が、首を傾げる。


「……鬼備前?」


「あぁ!鬼神じゃ!

 瞬きの間に、五人斬った!」


「いや、わしは見た!

 十人じゃ!!」


ざわめく伊勢衆。


その時――


村瀬は、無言で孫六兼元を抜いた。


一閃。


二閃。


三閃。


剣舞のような斬撃が、

空を裂く。


その速さに、

誰一人、目が追いつかない。


「……お、鬼じゃ」


村瀬は刀を納め、

腹から声を出した。


「わしが――

 芋粥備前守秀政じゃ!」


「芋粥……鬼備前!?」


「伊勢衆よ」


全員が、息を呑む。


「先の戦、

 敵ながら見事であった。


 その戦いに免じて――

 お前たちを、解放する」


「……条件は?」


「ない。


 だが刀は返さん。

 命を取らんだけで――

 十分じゃろう!


 それに腹が減ったろう。

 そこの握り飯を持って帰れ。


 決して村を襲うなよ」


沈黙。


そして――


「……は、はい!」


伊勢衆は、恐れおののきながら、

握り飯を掴み、

各々の城へと逃げ帰っていった。


「これでよし」


村瀬は呟く。


「鬼備前を恐れぬ者は――

 伊勢には、もうおらん」


そう言って、

残った握り飯を掴み、

口に放り込んだ。



ほどなくして――

再び早馬が駆け込んできた。


「滝川勢、佐久間勢と共に、

 伊勢衆分隊を撃破!


 織田軍の勝利にござる!


 これより北、開城済みの

 保々西城にて軍評定を開く!


 集合されたし!


 以上!」


走り去る早馬。


清隆が呟く。


「首実検と、功名帖ですかな」


秀政は、肩をすくめた。


「首が……ないな」


「今から探せるか?」


「どの首が、

 価値ある首かも分かりませぬ。

 それに名のある大将首は、

 その家臣が既に運び出しておるでしょうて」


秀政は、少し考え――

笑った。


「そりゃ、だめだな。

 ……まぁ、良い。


 兵どもには、

 俺の金で褒美をやる」


笑いながら、清隆の肩に手を置いた。


「俺たちは――

 名を挙げただけで、十分だ」


朝明川の戦いは、

こうして――

幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
秀吉、もしかしたら鬼備前に刀狩のエピソード奪われるかもしれんぞw 若かりし頃の鬼備前のように、とか後の世に伝わって,泉下で「なんでわしのやったことが芋の真似みたく言われとんじゃ!」と地団駄踏むやつw
とりあえずちゃっぴーが勘違いしてくれたら武力78かな⁽⁽ଘ(ˊᵕˋ)ଓ⁾⁾
信長はんが爆笑しそうなエピソード山盛りやな(笑) 次のいくさばの兜は角付きかあ(笑) 血まみれの赤鬼コース。娘に、父上は鬼ですか?とか言われてダメージも読みたい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ